「退職代行バブル」崩壊、撤退相次ぐ 需要減を招いた「2つの誤算」
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ここで押さえておきたいのは、企業は成長を第一に考えるものだということだ。 働く側は、給料が毎年増えてほしいと願う。そのため企業は、たとえ従業員数が横ばいでも、利益を増やしていかなければならない。 どこまで成長させたいかは、企業によって違う。それでも、少しずつでも成長させたいと考えるのは、働く人たちが給料を増やしたいと願うのと同じである。 退職代行の事業者も例外ではない。社員を雇い、広告を出し、相談に応じる体制を整える。その投資を回収し、社員の給料を上げていくには、前年よりも多くの利用者が必要になる。 問題は、成長するには需要を増やさなければならない点にある。 セーフティネットは、使う人が少ないほうが良い。しかし、事業として成長させるには、利用者を増やす必要がある。需要を喚起するということは、本来使わなくても良い人にまで使ってもらうことを意味している。 一般的に、退職代行を利用する理由は3つに分けられる。1.いじめやハラスメントに悩んでいる2.真面目で責任感が強すぎる3.強い引き留めにあっている このうち1と3は、セーフティネットが必要なケースだ。しかし、2はどうだろうか。会社に不満があるわけではなく、申し訳なくて顔を合わせられないだけという人もいる。少し背中を押してもらえれば、自分の口で伝えられたかもしれない。 ところが「即日対応」「会社に電話しなくていい」といった手軽さが繰り返し伝えられるとどうなるか。自分で言えたはずの人まで、使ったほうが楽だと考えるようになる。 数万円を支払えば、明日から出社しなくて済む。その選択が、驚くほど簡単にできてしまう時代になったのである。パーソルキャリアが運営する調査機関「Job総研」の調査では、社会人の94.3%が「退職への心理的ハードルが下がっている」と回答している。
これは転職サービスにも言えることだ。あれだけ宣伝されると、転職する必要のない人まで「このままで良いのか」という気分になる。もちろん、悪意があるわけではない。そうしなければ企業は成長できないし、存続もできないからである。
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では、退職代行の需要はこれからも増え続けるのだろうか。私はそうは考えにくいと思っている。理由は2つある。 1つ目は、職場のハラスメント対策が進んでいることだ。 2022年4月から、中小企業を含むすべての事業主にパワハラ防止措置が義務付けられた。厚生労働省の調査では、ハラスメントの予防・解決の取り組みを実施している企業のうち、7割以上の企業が相談窓口を設けて周知している。管理職への研修や啓発活動に力を入れる企業も珍しくなくなった。 同じ調査で、過去3年間にパワハラを受けたと答えた労働者は19.3%だった。その3年前の調査では31.4%だったことを考えると、職場は少しずつ変わってきていることが分かる。そして、追い詰められる人が減れば、退職代行の需要が減っていくことは容易に想像できる。 2つ目は、転職市場が曲がり角に立っていることだ。 これまでは「嫌なら辞めて他の会社に行けば良い」という発想があった。人手不足で、次の仕事がすぐに見つかったからである。 ところが状況は変わりつつある。厚生労働省の「一般職業紹介状況」(2026年3月分及び2025年度分)によると、求人の総数は依然として多いものの、2025年の一般事務の有効求人倍率は0.32倍にとどまる(パートを除く)。 ワークポートの調査では、求職者の59.0%がいまの転職市場を買い手市場だと感じていることが分かった。また、買い手市場だと回答した人のうち、84.0%が求められる専門性や実績の水準が上がったと答えた。新卒でも、大卒求人倍率は2年連続で低下している。誰もが簡単に次へ移れる時代ではなくなってきたのだ。 私は以前のコラムで「しがみつき社員」(ジョブハギング)について書いた。AIに仕事を奪われる不安から、不満があっても今の会社にとどまろうとする人たちのことだ(参考:AIに仕事奪われる恐怖で「しがみつき社員」が増加? 上司のあなたはどう対応すべきか)。 実際、ある食品メーカーの営業部長からこんな話を聞いた。「給料が安い」「もっと良い会社に転職する」と言っていた30代の女性社員が、半年ほど経つと、そうした発言を全くしなくなったという。理由はシンプルだ。転職先がないのである。私が支援している企業でも「最近、転職すると言わなくなった社員が増えた」という声をよく聞く。
辞める人が減れば、当然退職代行の出番も減っていく。
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退職代行の需要は確実にあったが、その需要が増え続けるかどうかは見えにくかった。 そんな中で、事業者が一気に押し寄せたのである。似たようなサービスが並べば、価格で競うしかなくなる。帝国データバンクによれば、平均料金は約2万8000円から約2万7000円に下がった。大手の法律事務所も参入し、競争はさらに激しくなっている。 事業を広げようとすれば、法的にグレーな領域にも手を広げがちだ。2026年8月には業界大手の運営会社の前社長が、退職希望者を弁護士に有償で紹介したとして有罪判決を受けた。業界全体に向けられる目も厳しくなっている。 企業側の対応も変わってきた。東京商工リサーチの調査では、弁護士や労働組合以外の退職代行から連絡があっても「非弁行為が含まれる可能性があるため取り合わない」と答えた企業が30.4%あった。また、退職代行について「利用歴が分かった場合、採用しない」という企業も26.0%にのぼる。使えば不利になるかもしれないと知れば、気軽に頼む人は減るだろう。
退職代行の会社が存在すること自体は悪いことではない。ただ、会社の数が増え続けたり、マーケットが拡大し続けたりすることは考えづらい。4社に1社がサービス停止という数字は、膨らみすぎた市場が本来の大きさに戻っていく過程なのだろう。