Number_iにとっての音楽、日本の音楽シーンにおけるNumber_iの存在――2ndアルバム『No.Ⅱ』全曲解説
こんなのNumber_iしか作れないだろう。大いに笑わされて、静かに浸らせて、深く考えせられて……ここまで変化の激しい、濃密な40分がほかにあるだろうか。9月22日にリリースされたNumber_iの2ndフルアルバム『No.Ⅱ』を一聴して、そう思った。
本作には、今年1月に配信リリースされた「GOD_i」をはじめ、先行配信された「未確認領域」「Numbers Ur Zone」、各メンバーのソロ楽曲、リミックスやスキットを含めた全16曲が収録されている。前作『No.Ⅰ』から1年ぶりのフルアルバムとなるが、名刺代わりのような作品だった『No.Ⅰ』とは異なり、『No.Ⅱ』はコンセプチュアルな作品だ。言うならば、主演が平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太で、3人が紡ぐ一篇の物語のようなものだろうか。楽曲のテーマやサウンド、曲の最後と次曲の最初のボーカルも含めて、各トラックがここぞという場所に配置され、アルバム全体を通して聴くことを前提とした作品に仕上がっている。
本稿では収録曲に触れながら『No.Ⅱ』を紐解いていくが、これはあくまでもひとつの考察だ。この物語の解釈は人それぞれあっていい。それが音楽を楽しむことだと、彼らはこのアルバムをもって教えてくれているのだから――。Number_iにとっての音楽、日本の音楽シーンにおけるNumber_iの存在のすべてがこのアルバムには刻まれている。
未確認領域
出発前を思わせるOverture「In-flight」を経て、8月に先行配信された「未確認領域」でアルバムは本格的に開幕。メディアでの発言を踏まえれば、3人がそれぞれ1曲分の歌詞を持ち寄って制作を進めたそうで、“Number_i”名義のプロデュース楽曲となっている。まだ見ぬ場所へ向かう期待感を表すようなイントロのストリングスが、始まりの時を告げるファンファーレのように鳴り響く。メジャー調のメロディに乗せて獰猛なラップが繰り広げられたかと思えば、後半で岸が透き通る歌声で〈I See a Light Floating Through The Night〉と歌い、〈安定した非行〉〈俺らについてくれば貯まるマイル/今何マイル?〉〈破り捨てる地図〉(パフォーマンス時はここでピースサインを見せている)といった言葉遊びも炸裂。アルバム序盤から凄まじいパワーに圧倒されるが、私たちを安心させるように彼らは歌うのだ。〈離れた手をずっと追うよ〉、と。
ATAMI
9月15日に行われたYouTube配信『Number_i - “No.Ⅱ” Performance Live Streaming』にて突如解禁されたことも話題を集めた神宮寺プロデュースの「ATAMI」は、グルーヴィーなバンドサウンドと3人のボーカルが絡み合い、自然と体を揺らす楽曲。神宮寺は『No.Ⅰ』でリードトラック「INZM」のバンドバージョン(「INZM (Hyper Band ver.)」)も手掛けていたが、ロックテイストの前者とは異なり、この曲はもっとジャズやR&Bの香りがするものだ。〈あとには引けなかった/簡単な言葉が言えなかった〉という歌い出しに始まり、〈黒焦げたトースト〉〈また見たいあの光景〉〈あの日の後悔〉といったリリックからは、戻れない日々への哀愁が漂う。
Numbers Ur Zone
9月15日にアルバムから先行配信されたNumber_i名義でのプロデュース曲。先述のYouTube配信時のコメントによれば以前から温めていた曲であり、満を持してアルバムに収録されたという。Number_iの楽曲ではよく“上を目指す”ということが歌われており、そこには“自分たちらしく”という条件があることは、過去に発表されてきた斬新な楽曲群からも明らか。この曲でも、ざらざらとした低音で深みを出す平野、エッジボイスからクリアな高音まで歌いこなす神宮寺、変幻自在なフロウを繰り出してインパクトを放つ岸と、三者三様の自由なボーカルから、自分たちの個性を輝かせながら愛される存在になるという意志が感じられる。そして、輝く一つひとつの星が結びついて作られるのが、星座だ。空に数浮かぶ星座のなかでも、中央に3つの星が並ぶオリオン座が歌詞に登場することは偶然ではないだろう。
ピンクストロベリーチョコレートフライデー
和の要素も感じさせる「幕ノ内」で物語は一区切り。次のブロックではメンバー個々にフォーカスが当てられ、3人それぞれ自身がプロデュースしたソロ楽曲が挟まれていく。トップバッターを飾るのは平野。「ピンクストロベリーチョコレートフライデー」というタイトルから、こんなに切ない楽曲を想像できただろうか。前半で描かれる〈フリンジのついたワンピース羽織って〉〈線路沿い手繋いで歩いた〉といった〈君〉との甘い光景は、〈目に入り眠りから覚めるってねぇ無理〉のフレーズによって、夢のなかで繰り返されている記憶なのだと分かる。平野のハスキーがかった儚い歌声は、今作のような切ない楽曲と抜群に相性がいい。〈会いたいから夢まで/まだ泣いてんの?俺だけ〉の部分はエフェクトがかけられている。それは、止めたくても止められない想いが心の内からあふれ出しているようで、余計に胸が締めつけられるのだ。
LOOP
ミニアルバム『No.O -ring-』収録の自身プロデュース曲「SQUARE_ONE」ではPUNPEE、『No.Ⅰ』収録のソロ楽曲「Bye 24/7」ではKEEN(C&K)と、これまで積極的に外部とコラボレーションを果たしてきた神宮寺は、今作のソロ楽曲「LOOP」ではtofubeatsとタッグを組んだ(今作において、Pecori、MONJOE、SHUNとのタッグを逸脱するのは唯一この曲だけだ)。ローテンションな彼の歌声、歌詞にある〈午前2時〉の静けさを表すような穏やかなトラックが、想い焦がれる相手のことを考えてただただ時間が過ぎ去っていく様子を想像させる。パワー全開の楽曲が多い本アルバムのなかでは心地好く聴ける一曲。この後の「GOD_i」へと、神宮寺のボーカルで繋がれていく流れもいい。
GOD_i
2025年第1弾作品で、3月にリリースされた2ndシングルの表題曲。岸によるプロデュースで、教会を想起させるクワイアやオルガンを含めた荘厳なサウンドに惹き込まれる。前進ばかりの日々は無くて、物事が思い通りに運ばず〈振り出しに戻ってる〉ような無力感に襲われる時、人は状況が好転するようにと天に祈りを捧げるものだろう。しかし、〈お前の神様はお前でしかなくて〉とあるように、結局のところ願いを叶えるのは自分自身の力なのだと、この曲は教えてくれる。聴き手の人生にも寄り添う深いメッセージ性、過去のハードなラップを主体としたリードトラックと比較するとメロディアスなラインが多い点も含めて、グループの新境地を感じさせる。