だから韓国より成長できない国になった…日本が「物価が安くて便利な観光地」に成り下がった明らかな理由
なぜ日本経済の伸びは鈍化しているのか。ラジオパーソナリティの辛坊治郎、経済評論家の辛坊正記氏は「かつて日本は世界2位の経済大国で一人当たりGDPも世界第3位の豊かな国だったが、現在はシンガポールや香港だけでなく、韓国や台湾の後塵を拝している。その理由は、政府が“ある仕事”から逃げ続けてきたからだ」という――。
※本稿は、辛坊治郎、辛坊正記『なぜあなたは貧乏人のままなのか』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
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米国をも凌ぐ勢いだったかつての日本
かつて日本人は、本当に豊かでした。平成が始まった1989年当時、日本人は名実ともに世界で最も豊かな国民だったのです。
ロンドン、パリ、ニューヨーク。世界の主要都市に行けば日本人観光客の姿があふれ、高級ホテルのロビーで日本語が飛び交い、ブランド店には日本人客専門のスタッフが大勢いました。いまから振り返れば信じられないような話ですが、1990年代初頭にニューヨークに駐在し、欧州諸国も巡った私(正記)は、当時の様子をはっきり覚えています。
単なる思い出話ではありません。数字が、それを裏づけています。
1989年当時、日本の一人当たりGDPは世界4位でした。アジアの中では断トツで、欧州諸国の多くを上回り、一時は米国をも凌ぐ勢いでした。
ところが、いまはどうでしょう。
一人当たりGDPは、世界38位まで落ちました。シンガポールと香港を遥かに下回り、韓国、台湾といったアジア隣国の後塵を拝しています。日本はもう、先進国の中で豊かな国とは呼べません。
国全体の経済規模でも、変化は明らかです。
日本は2010年に中国に抜かれ、2024年には、人口が日本の3分の2に過ぎないドイツにも抜かれ、世界4位に転落しました。
中国は48倍、韓国は6倍、でも日本は……
世界全体のGDPに占める日本のシェアは、1989年の15.3%から、2025年には3.8%まで縮小しました。「日本がくしゃみをすれば世界が風邪をひく」とまでいわれた日本の存在感は、この30年余りで大きく低下しました。
1990年を100としてドルで測ったGDPの伸びを比べると、この立ち遅れはさらに鮮明です。中国は48倍、韓国は6倍、米国は5倍、欧州の国々も3倍程度になりました。その中で、日本だけはほとんど横ばい状態です。
世界で通用するドルで測ったGDPは、日本経済の購買力と存在感を示します。燃料、食料、医薬品、半導体、先端設備等々をドルで世界から買う以上、これは単なる為替の綾ではありません。世界における日本の位置づけの低下そのものです。
海外に出れば分かります。以前なら欧米の先進国でもかなり安く、アジア諸国ならタダ同然に思えたホテル代、食事代、交通費が、いまは驚くほど高く感じます。逆に、日本に来る外国人は、何でも安いと喜んで、元気に飲食や買い物をしてくれます。
かつて「世界の憧れの対象」だった日本が、いまや「物価が安くて便利な観光地」になり果てました。日本はなぜこれほどまでに取り残されたのでしょう。
「少子高齢化だから仕方がない」という声を聞きます。確かに人口動態の影響は無視できません。しかし、同じように高齢化に直面しているドイツは日本の3分の2の人口で日本を抜きました。スウェーデン、スイス、シンガポールといった国々も、高齢化に直面しながら日本を遥かに超える豊かさを誇ります。
日本の停滞の本質は、人口問題ではありません。世界が産業構造を大きく変える中で、日本がその転換に乗り遅れたところにあるのです。
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エンジンの推進力を決める要素は、大きく3つです。
1つ目は労働力です。働く人と働く時間が増えれば、モノとサービスをたくさん生み出せます。
2つ目は設備です。良い機械や設備を整えれば、同じ労働力でも多くの価値が生み出せます。
3つ目は技術です。高い値段で売れる魅力的なモノやサービスを作る力、効率的な生産方法や販売方法を生み出す力があれば、同じ労働力と設備でも、より多くの価値が生み出せます。
労働力と設備と技術、この3つがどのくらいの勢いで成長する環境があるかによって、それぞれの国の潜在的な成長力が決まるのです。
少子高齢化が進む日本で、労働力の大幅な増加は期待できません。少子高齢化対策が成功しても、労働力に寄与するまで20年はかかります。だから当面、日本は設備と技術を伸ばし、一人当たりが生み出す価値、つまり労働生産性を高める必要があります。
ところが私たちは、この十数年、成長エンジンの故障を根本から直すつらい仕事から逃げ続けてきました。
政府は何から逃げ続けてきたのか
景気が悪い時、政府ができることは大きく分けて2つです。
1つは、需要を作る政策です。政府が公共事業を増やしたり補助金を配ったりする財政拡張と、日本銀行が金融を緩和して資金を潤沢に供給する金融緩和とがこれに当たります。
もう1つは、供給力を高める政策です。規制を見直し、古い産業から新しい産業への入れ替えを促し、企業が効率的に価値を生み出せる仕組みを整える。いわゆる構造改革です。
何かの原因で需要が急減した時に、政府と日本銀行が需要を作って景気を支えることは有用です。公共事業と補助金で需要を作れば余った労働力と設備が使われ、国内生産で賄えない分は輸入され、売上と利益が増えて景気が支えられます。企業も国民もひとまず安心できるでしょう。
しかし、その機をとらえて企業が日本で新しい設備投資をすることをせず、技術力を高めることもせず、人材を新しい分野に移すこともしなければ、潜在成長率は変わりません。政府と日本銀行が需要を作るのをやめれば需要が元に戻り、生産も元に戻り、後には需要を作るために使った財政支出と金融緩和の副作用だけが残ります。
需要を作る政策は、緊急時のカンフル剤として効果を持ちますが、成長エンジンそのものは直せません。平常時にカンフル剤を打ちすぎると、企業と家計がその心地よさに安住して、経済構造を変える意欲が鈍ります。日本が長く続けてきたのは、この政策でした。
エンジンが壊れた自動車でも、給料を払って人を集めて押させている間は前に進みます。しかし、エンジンを直さなければ、給料が払えなくなった瞬間に止まります。
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1989年当時、世界の時価総額ランキング上位50社の中に、日本企業は32社入っていました。日本がいかに元気で豊かだったかが分かります。しかし、見てほしいのは、そこではありません。
当時の世界の大企業は、金融機関を除けば、大量生産品を不特定多数の人に販売する製造業が中心でした。日本が強かった時代、世界の経済は製造業が動かしていたのです。
ところが、2026年3月末の景色は一変しています。トヨタがランク外となり、日本企業が消えました。日本がいかに衰退したかを感じて寂しいですが、ここでもご覧いただきたいのはそこではありません。
トップのエヌビディア以下、上位に並ぶのは、1989年当時は影も形もなかったデジタル技術で急成長した企業です。
自動車のテスラや、ディスカウントストアのウォルマートのように、伝統的な産業に属す企業もあります。しかし、そうした産業でも、上位に並ぶのは、デジタル技術で事業構造を変え、データ、ソフトウェア、プラットフォームを使って稼ぐ仕組みを作った企業です。
日本が停滞を続けるうちに、世界は大量生産型の製造業が引っ張る時代から、デジタル技術が価値を生む時代へ移ったのです。世界が全速力で走っている時に、日本だけが過去の成功体験を眺めながらゆっくり歩いていれば、相対的な順位が下がるのは当然です。
一生懸命働いても生活が楽にならない理由
「毎日これほど一生懸命働いているのに、なぜ生活が楽にならないのか」
この感覚の背景には、日本経済の地力ともいえる潜在成長率の低下があります。産業構造の転換に乗り遅れると、「国全体の稼ぐ力」が落ち、生活が苦しくなっていくのです。
潜在成長率は、それぞれの国が持つ、無理なく持続できる経済成長の基礎体力です。意図的な景気対策や一時的な輸出増加を取り払った時、地力としてどのくらい成長できるかを示します。
高度経済成長時代の日本には、毎年10%を超える勢いで成長を続ける力がありました。1980年代でも、潜在成長率は4%を超えていました。特別な景気刺激策を打たなくても、国全体の経済規模が毎年4%ずつ自然に大きくなる。そういう強烈な上昇気流の中に、日本人はいました。
しかし、いまの日本の潜在成長率は、0%台半ばから、推計によってはほぼ0%近くまで落ち込みました。日本経済の成長エンジンは、ほとんど推進力を失い、過去の慣性でかろうじて動いている状態です。