テック企業CEOたち、イケイケどんどんだった発言を撤回中。「AIは仕事を奪いません!」
OpenAIのChatGPTが世界に公開されたのが2022年11月。以来、この新たなテクノロジーを語るとき、テック企業のエラい人たちが言い続けてきたこと。
それは、「あなたの仕事はAIに奪われます」でした。
ある人によれば、自由な時間でより豊かな人生を満喫するための手段として、またある人は人類への脅威として、AIが代わりとなる世界がさまざまに語られてきました。そして、人間と仕事の関係性は今までにないものとなり、人類はまったく新しい時代へと突入するのだと…。
大なり小なり、AIが人間の労働にとってかわる世界を語ってきたテック系エラい人たちですが、ここ数ヶ月でそのスタンスが急に変わりつつあります。
具体的には、彼らの主張がAIを「あなたにとってかわる存在」から、「あなたのアシスタントであなたを助けるけど追い出したりはしない存在なんですよ?」へとシフトしてきているんです。
xAIを傘下にもつSpaceXが史上最大のIPOを果たし、OpenAIやAnthoropicもそれに続こうとする今、なぜ彼らの語り口は変わってきたのでしょう。
Micosft AI部門トップ、ムスタファ・スレイマンCEO
AIへのスタンス、少なくとも公にみせるテック企業トップたちのスタンスは大きくシフトしています。
Micosoft AI部門トップのムスタファ・スレイマンCEOは、OpenAIと一緒にひと山当てるお金儲けのチャンスが終わってしまう前に、そこから脱却するためにMicrosoftに招き入れられた人物と言っていいでしょう。
つまり、Microsoftが自前AIをより強化するための立役者です。
そんなスレイマンCEOは2024年、「(AIモデルは)基本的な労働を置き換えるツールとなる」とハッキリ発言しています。
今年の頭には、彼の言う「基本的な労働」がもう少し具体的になり、Financial TImesのインタビューにて、弁護士、経理、プロダクトマネージャー、マーケティングなど、パソコンの前で座って働く、いわゆるホワイトカラーの仕事が1年から1年半以内には完全に自動化されるだろうと、よりピンポイントな職種を名指しするようになっていました。
絶対的AI派の傲慢ともとれる強気な意見ですが、そこから半年も経たない間にその姿勢には変化が。
というのも、今月のThe Vergeの取材で前言撤回。「自動化されるのは仕事(職業)ではなくて、あくまでもタスクだ」と説明。仕事や職種はもっと大きな意味の言葉であり、そのうちの構成要素としてタスクがあるのだと。
また、「メール送信や、同僚とのコミュニケーション、パワポ作成などのサブタスクは大きくデジタライズ化、自動化され、より多くこなせるようになります。ただし、それは必ずしも特定の職種がなくなるという話ではありません」とも語っています。
つまり、現在のスレイマンCEOが言いたいのは、あなたがAIにとってかわられるのではなく、AIによってあなたは拡張されるのだ、ということみたいです。
Nvidia、ジェンスン・フアンCEO
AIバブルの中心にいるといっても過言ではないNvidiaのジェンスン・フアンCEOも、発言の舵を取り直しています。
2025年、AIは「人間をプログラミングしていく」と発言。人間ができることはAIもできる、すなわち基本的な仕事はAIに置き換わっていくと言ったわけです。人間側としたら、そう言われて嬉しい人は少ないでしょうね。
また当時の同氏は、「誰もプログラミングをしなくてもよくなるような処理技術を開発することこそ我々の役目です。プログラミング言語とは人そのものであり、世界の誰でもプログラマーになれる。それがAIのもつ奇跡なのです」と、AIの素晴らしさを力説していました。
さて、時は流れて今現在。フアンCEOはソフトウェアエンジニアの必要性を説いています。
「ネットで語られるような、AIによって仕事がなくなるという話は懸念のひとつです。ソフトウェアエンジニアにならない方がいいと言われてしまうと、ソフトウェアエンジニアがいつか世界からいなくなってしまいます」とポッドキャスト番組で発言。
この話題では放射線科医を例に挙げ、「何年も前に同じようなことがありましたね。過激な人たちが放射線医学がもうすぐなくなると大騒ぎして、放射線科医だけはならない方がいいと煽りました。その結果、今、放射線科医が不足しています」とも言及。
フアンCEOも、まさか自分自身のことをAIを煽る過激派だとは言わないまでも、過去の発言はそれに近しいところにあったと言えるでしょう。
ただし、フアンCEOは、あなたの仕事はAIにとってかわる、AIがあなたの代わりになると言い続けられる人々が発する恐怖心は感じ取ったのでしょう。AIが行うのはあくまでタスクであり、仕事ではないと、自身の過ちを認めつつ発言をシフトしています。
いわく「仕事とタスクの違いを誤解していました。放射線科医の仕事は患者さんのケアをすること、タスクはスキャンすることなんです」
OpenAIのサム・アルトマンCEO&クリス・リヘインVP
2025年、OpenAIのリヘインVPは「(AIによって)失われる可能性がある一部分について、(我々は)真摯にならなければいけない」と語りました。つまり、AIが拡大することで消えちゃうキャリアについては、透明性をもってお伝えしなきゃだよねーと言っていたわけです。
OpenAIについては、リヘインVPもですが、トップのサム・アルトマンCEOも少し前までかなり強い発言を繰り返していました。
2025年には「僕の仕事は、みなさんが仕事をぶち壊す手助けをすることです」。2023年には「どれだけAIはあくまで補助的なものだとか言ったところで、仕事というものは間違いなくなくなります」と。
時は少し流れて2026年、自分の過ちを嬉々として認めているのはアルトマン氏。いわく、「ホワイトカラーのエントリーレベルの仕事にはもっと影響がでるかと思っていましたが、僕の間違いでした」と、ロイター紙に語っています。
一方で、リヘインVPは、過去の発言について「え?そんなつもりじゃないし。すべてに責任問われても!」という及び腰姿勢。むしろ、OpenAI含めAI市場全体で、AIが社会にどう好影響を与えるかをもっとわかりやすく説明する努力をしないとダメだと矛先を変えています。
発言変更の裏にあるもの
彼らテック企業のエラい人たちは、ついこの間まであんなに強気だったイケイケどんどん発言を、なぜふわっと転換することになったのか。
その答えは簡単。AIが人気ないからです。
なぜ人気がないのか。それは、AIがあなたの仕事を奪うぞ!とエラい人たち自らが発言しまくって、恐怖を煽ったからです。
アメリカの大学卒業式の祝辞にて、テック企業のエラい人たちがブーイングを食らうのがその証左。AI企業がしのぎを削るアメリカの世論調査では、過半数以上の人がAIによる失業を不安視しています。もっと言うと、AIをプラスに捉える人は3割もいないといいます。
発言シフトの理由は、企業としての不人気だけではありません。AIデータセンター建設反対も大きく影響しています。
AIデータセンターはAI成長の要。ここにAI企業は大きな出資を行っており、これが実現しなければ資金は溶けていくだけです。なんとしても、社会にAIのポジティブなイメージを広げ、AI反対デモを抑え、データセンターを作らねばならないのです。
Amazon創設者で知られるジェフ・ベゾス氏は、争ってもしょうがないよと懐柔する姿勢。AIは結局みんなのためになるから、今反対したってねぇと。技術進化で、暮らしが圧倒的に楽になるんだからと。
Microsoftのブラッド・スミス氏は、卒業式祝辞のAIブーイングをうけて、自身のブログを更新。新しいテクノロジーの見つめ方、捉え方を語っています。「AIが働き方を変えても、何十年と私たちが続けてきた習慣を忘れる必要はないのです」「テクノロジーは変化を生みます。しかし、あなたたちは力強く立ち、変わらない価値を大きな声で叫ぶことができます。主体性。野心。尊厳。それを仕事とテクノロジーを通して私たちが実現し、生きる目的を与えてくれるのです」と。
AIテック企業トップが今言いたいこと。それは世間の意見は痛いほど聞こえているんだよということ。あなたたちは価値ある人間であり、それはAIに置き換えられるものではないということ。
彼らのその声を、パブリック向けの詭弁ととるか、考え方の真摯な変化ととるかは私たちしだい。そして、データセンター建設の進め方を含めた、企業の姿勢しだいです。
その一方、Metaだけはそんな世間の声は聞こえていないのか、相変わらず一直線なんですけどね。
同社の場合、現場にAIツールを導入して、社員がどう働いているかを記録し、AIモデルにそれを学習させて同じタスクをやらせてみているんだとかなんとか。
トップのマーク・ザッカーバーグCEOも自らAI版ザッカーバーグを開発しているらしく、ある意味では平常運転で元気いっぱいです。