「味が変わる器…」脳が“甘い”と錯覚する驚きのテーブルウェアが登場。味覚研究の理論を実践(Pen Online)

甘味や塩味を、デザインの力で高めるテーブルウェアが誕生した。 ポーランドのデザイン&リサーチスタジオ、HAK Studioによるテーブルウェア・コレクション「UMA」は、神経科学の研究をもとに、器の造形と質感で味覚に働きかけるデザインを形にしたプロジェクトである。 【画像多数】「味が変わる器…」脳が“甘い”と錯覚する驚きのテーブルウェア オックスフォード大学のチャールズ・スペンス教授による「ガストロフィジクス(gastrophysics)」の理論を応用し、視覚・触覚・素材が脳の味覚認知にどのように影響するかを探りながら、科学とクラフトを融合させた。

プロジェクトの出発点は、スペンス教授が提唱する「味は脳の中で形成される」という考え方にある。人は食べる前から、器の色や手触り、形によって味を「予測」しており、その印象が実際の味覚体験を変える。 HAK Studioはこの理論を実践に移すため、COVID-19後に味覚障害を経験した人や高齢者を対象にリサーチを実施。まず、スペンス教授の著書『Gastrophysics – The Science of Eating』に基づき、味覚を強める感覚要素(色・形・素材など)を抽出した。続いて、AIツールを用いて視覚刺激を生成し、被験者に提示して味覚の錯覚効果を検証。得られたデータをもとに、「甘味」と「塩味」を高める要素を導き出し、器のデザインへと具体化した。

UMAコレクションは、甘味を引き立てるデザートプレートと、塩味を際立たせるボウルの2種から成る。 デザートプレートは磁器とクォーツを用い、ピンクとクリームの釉薬を混ぜて流し込むことでストロベリーキャンディのような渦巻き模様を生み出す光沢と動きが視覚的な「甘さ」を喚起する。 制作はコペンハーゲンのMK Studioとの協働で行われた。釉薬は職人が手作業で流し込み、混ざり方や模様の出方が一点ごとに異なる。HAK Studioはこの手法を「ニューロ・エステティクス(neuro-aesthetics in craft)」と呼び、脳科学とクラフトの融合として位置づけている。偶然のゆらぎが感覚を刺激し、食事をより多層的な体験へと変えている。 塩味用のボウルは、内側を光沢のある釉薬で仕上げ、外側をあえて乾いた質感にした。塩の結晶のようなざらつきが指先に残り、塩味の知覚を強める。視覚と触覚の連動が、味覚を導く仕掛けとなっている。


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HAK Studioは、Zanetta KorsakとPawel Lasotaが率いるポーランドのデザイン・スタジオだ。 リサーチや戦略から産業デザインまでを手がけ、既存の仕組みや使い方を創造的に「ハック(hak=工夫)」する発想を核としている。その名のとおり、同スタジオは日常の問題や習慣をデザインによって書き換え、新たな体験を生み出してきた。 「UMA」はその理念をもっとも明快に体現した作品であり、神経科学の理論とクラフトの感性を融合させたデザインの結晶だ。 器が味覚の知覚に介入する―その静かな実証が、食とデザインの関係に新しい視点を与えている。 (The use of the Instagram embed is permitted by the account holder, @hakdesignstudio.)

文:宮田華子

Pen Online
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