【米国市況】株・国債ともに反落、利下げ巡る楽観後退-ドル全面高
25日の米国株式市場では、主要株価3指数がそろって反落。重要なインフレ指標の発表を週内に控え、利下げを巡る楽観ムードが後退した。利下げ期待から前週末に大幅高となっていた米国債も反落。一方、ドルは主要通貨に対して全面高となった。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6439.32 -27.59 -0.43% ダウ工業株30種平均 45282.47 -349.27 -0.77% ナスダック総合指数 21449.29 -47.25 -0.22%パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は前週末22日の講演で9月利下げに道を開いたが、市場ではその後の利下げペースに対して懐疑的な見方がくすぶっている。FRB内で見解が割れていることに加え、市場は29日に発表される個人消費支出(PCE)価格指数が望ましくない内容となる展開に身構えている。
インフレ率はなおFRBの2%目標を上回り、加速の兆しも出ている一方、労働市場には弱含みの兆しが見えており、FRB当局者は相反する課題に対して難しい対応を迫られている。また今後数カ月でそれぞれの要因がどのように推移するかについても不確実性が高く、金融政策運営を一段と複雑にしている。
FRBがインフレ指標として重視するコアPCE価格指数は7月に伸びが加速した可能性が高く、前年同月比で2.9%上昇と予想されている。そうなれば過去5カ月で最も高い伸びとなる。
モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのクリス・ラーキン氏は「下げ基調が続いていた先週の株式市場は、パウエル議長が利下げにゴーサインを出したことでプラス圏に浮上して終えたが、今後はFRBがどれほど積極的に利下げを進めるかに焦点は移るだろう」と指摘。
「現時点では労働市場の減速を示す兆候がインフレ懸念を上回っているようにみえるが、FRBが2%のインフレ目標を放棄したわけではない」と述べた。
S&P500種株価指数は0.4%下落。構成銘柄のうち約400銘柄が値下がりした。一方、注目の決算発表を控えるエヌビディアは1%上昇した。
TDセキュリティーズのストラテジスト、オスカー・ムニョス氏とイーライ・ニル氏は「7月のコアPCE価格指数は、スーパーコア・サービスの影響で加速し、コア財への関税転嫁は限定的だったとみられる」と指摘。「個人消費および所得も7月は伸びが加速した可能性が高い」との見方を示している。
投資家は9月の利下げに対する手掛かりを求め、今週相次ぐFRB高官の講演にも注目している。ウォラー理事のほか、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁、ダラス連銀のローガン総裁、リッチモンド連銀のバーキン総裁らが発言する予定だ。
TDのムニョス、ニル両氏はFRB高官の講演について「労働市場への懸念の高まりを踏まえ、9月利下げがあり得ると示唆したパウエル議長の見解を総じて踏襲した内容になると予想している」と述べた。
短期金融市場では9月の米利下げ確率が約80%となっており、年内に2回の利下げを織り込んでいる。
エバコアISIのクリシュナ・グーハ氏は、パウエル議長の講演を受けた利下げ確率の見直しの動きは「過度ではない」と話す。
「われわれの見方が正しければ、焦点は9月より後の動向に移るだろう」とグーハ氏。「次回の雇用指標がそれほど悪くなければ、慎重な再調整としての利下げを打ち出しつつ、『早過ぎる過度な緩和』への期待を抑えようとする」との見方を示した。
グレンミードのジェイソン・プライド、マイケル・レイノルズ両氏によると、FRB内では関税の影響や経済全般の状況を巡って見解が分かれており、とりわけ利下げのペースなど金利の先行きについては依然として議論の余地がある。
「次期FRB議長候補として取り沙汰されている人物の多くは、パウエル議長よりも緩和的と広く見なされており、指導部交代は長期的にハト派へのシフトを示唆する可能性がある」と両氏は述べた。
米国債
米国債相場は反落(利回りは上昇)。前週末22日は9月利下げに道を開いたパウエル議長の発言を好感して大幅高となっていたが、週内に一連の国債入札を控え、この日は売りが優勢となった。ユーロ圏の国債が売られたことも相場の重しとなった。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.89% 1.5 0.31% 米10年債利回り 4.28% 2.3 0.55% 米2年債利回り 3.72% 2.7 0.74% 米東部時間 16時53分短中期ゾーンの国債がアンダーパフォーム。2年債利回りは約3ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇した。
パウエル議長の発言を受けて、市場では9月利下げ観測が強まったが、今後発表されるインフレ指標や労働関連指標の内容がFRBの対応を左右するとの指摘も出ている。
TDセキュリティーズの米金利戦略責任者、ジェナディー・ゴールドバーグ氏は「FRB当局者はこれらの指標を非常に注意深く見極めようとするだろう」とブルームバーグ・ラジオで発言。「今回の利下げ局面は、これまでの大半のサイクルとは異なる形で進む」との見方を示した。
ナットアライアンス・セキュリティーズのアンドルー・ブレナー氏は「当社では、前週末22日の低い利回り水準は続かないとみている」と指摘。「FRBが9月に利下げを実施するとの見通しは変わらないが、それが『ハト派的な利下げ』になるのか、『タカ派的な利下げ』になるのかを見極める必要がある」と述べた。
その上で「インフレが重要でないと受け取られたくないが、経済にとって真の不確実リスクは雇用情勢にある」と続けた。
為替
ニューヨーク外国為替市場では、ドルが主要10通貨に対して全面高。重要なインフレ指標の発表を控え、利下げへの過度な楽観論が後退したことが支援した。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1207.61 6.12 0.51% ドル/円 ¥147.75 ¥0.81 0.55% ユーロ/ドル $1.1621 -$0.0097 -0.83% 米東部時間 16時53分ブルームバーグ・ドル・スポット指数は0.5%上昇と、7月30日以来の大幅高となった。パウエル議長の講演を受けた利下げ観測の高まりで、前週末は0.8%低下していた。
ドルが買い戻される中、円は対ドルでじりじり下げ幅を広げる展開。一時は0.7%安の147円94銭まで売られた。
スペクトラマーケッツのブレント・ドネリー社長は「状況が一段落した今、結局のところ何も変わっていないとの結論に傾いている」と指摘。「市場は引き続き、コアPCE価格指数、非農業部門雇用者数、消費者物価指数(CPI)の発表待ちだ。FRBはデータをハト派的な視点で評価しながら、対応を判断することになるだろう」と述べた。
その上で「9月会合で金利を据え置くハードルは高くなったとはいえ、これら3つの指標全てが強い内容になれば、利下げ見送りは依然としてあり得る」とも語った。
一方、ユーロは対ドルで一時、約1%下落。
ジェフリーズの為替グローバル責任者、ブラッド・ベクテル氏は「フランス政局を巡る懸念を背景に、仏独国債の利回り差(スプレッド)が拡大し、ユーロにも打撃を与えた」と指摘。夏季休暇中の薄商いが「値動きを増幅している側面もある」と述べた。
原油
ニューヨーク原油先物相場は4営業日続伸。重要なテクニカル水準を上回ったため、利下げ観測に支えられた先週からの上昇が勢いづいた。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は1.8%上昇して1バレル=65ドルに迫り、終値としては約3週間ぶりの高値となった。北海ブレント原油は69ドル近辺で引けた。
WTIが64.45ドル前後の100日移動平均線を上抜くと、アルゴリズムに基づいた買いも誘発された。
ウクライナは25日未明、バルト海に面するロシアの港を攻撃した。エネルギーインフラを標的とした攻撃の一環で、今月に入ってからウクライナはすでにロシアの製油所8カ所を攻撃しており、燃料市場の逼迫(ひっぱく)懸念が強まっている。
一方で、中長期的な需給見通しは弱気ムードが続いている。投機筋の買い越し幅は約17年ぶりの低水準にまで減少。主要な2つの国際機関が、来年には在庫が過剰になるとの予測を示したことが背景にある。原油相場は8月初め以降、狭いレンジで推移しており、短期的な地政学的要因と長期的な供給過剰懸念が交錯する展開が続いている。
米国は、ロシア産原油の輸入を続けるインドに対し、全輸入品に対する関税を50%に倍増させる措置を警告しており、これは27日に発動される見通し。ただ、インドの外交当局は、現地の製油業者は引き続きロシアからの原油調達を続ける方針だとしている。
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスは、9月の大幅増産で原則合意に達しており、供給過剰への懸念が高まっている。原油先物価格は年初来で約10%下落している。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)10月限は前営業日比1.14ドル(1.8%)高の1バレル=64.80ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント10月限は1.6%上げて68.80ドルで終えた。
金
金相場は小幅安。今週発表される重要なインフレ指標を前に、米国の金利見通しを見極めたいとの思惑が強く、前週末の終値を挟んだ方向感に欠ける展開となった。
金は利子を生まないため、借り入れコストの低下は相対的に金の魅力を高める傾向がある。
ペッパーストーンのリサーチ・ストラテジスト、アフマド・アッシリ氏はリポートで、「足元ではリスク・リワードのバランスが金有利に傾いている」と指摘。「パウエル議長の発言によって、利下げが近いとの見方が一段と強まった。もっとも、その見通しはやや先走っている面もある」と述べた。
今後については、「労働市場のさらなる軟化が示されれば、利下げ観測が一段と強まり、金の需要を後押しするだろう」と語った。
スポット価格はニューヨーク時間午後4時2分現在、前営業日比6.36ドル安の1オンス=3365.50ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、1ドル安の3417.50ドルで終えた。
原題:Stocks Halt Rally as Yields Rise Before Price Data: Markets Wrap
Treasuries Slide as Traders Weigh Rate Cuts After Powell (2)
Dollar Jumps Most in Nearly Four Weeks, Peers Fall: Inside G-10
Oil Advances After Fed Signals Possible Return to Rate Cuts
Gold Wavers as Traders Weigh Fed Rate Path Before Inflation Data(抜粋)