FRB次期議長、利下げへの合意形成は困難な見通し―エコノミストら
米連邦準備制度(FRB)の動向を注視している専門家らは、次期議長が利下げを「お膳立て」してくれると期待する向きに対し、「安易に期待すべきではない」と警告している。
可能性は低いものの、一部の投資家は、パウエル議長の任期が2026年5月に終了した直後に金利が下がると見込み、先物市場でポジションを取っている。背景には、トランプ米大統領が「金利を引き下げる人物を議長に指名する」と公言していることがある。
一部の投資家は、フェデラルファンド(FF)金利と密接に関連している「担保付翌日物調達金利(SOFR)」に連動する先物に注目し、パウエル氏の任期満了前に期限を迎える取引を売り、トランプ氏が指名すると予想される次期議長の着任直後に満期を迎える取引に資金を投じている。FRBがどのように金利を決定するかという制度的枠組みは軽視し、トランプ氏の思惑通りに事が進むという前提に賭けるものだ。
だが、ニューヨーク大学のマーク・ガートラー教授(経済学)は「議長は独裁者のように振る舞うことはできない」と述べた。同氏は、FRBのベン・バーナンキ元議長やリチャード・クラリダ元副議長と共著論文を執筆した経験を持つ。
ガートラー氏は、金利の調整には連邦公開市場委員会(FOMC)での多数派の支持が必要だと指摘する。FOMCの会合には19人の政策当局者が出席し、うち12人が投票権を持つ。新議長が利下げを実現するには、説得力ある理由を示し、他の委員の賛同を得なければならない。
今年、FRB当局者らはFF金利の誘導目標を4.25-4.5%に据え置いている。ただ、金利見通しに関する予測を見れば、年内の利下げを巡り当局者の間に見解の相違があるのは明らかで、その主因はトランプ氏の関税がインフレに与える影響をどう見るかという点にある。
関税による物価への影響をどちらかと言えば一時的と見なす10人の政策当局者は、年内に2-3回の利下げを予想している。このほか、2人は1回の利下げが適切とし、7人は現行水準の維持を見込んでいる。来年に向けては見通しの幅が広がっており、26年末時点のFF金利の上限は、2.75-4.25%とされている。予測は匿名で示されており、どの当局者の見解か、特定することはできない。
トランプ氏は9日も利下げ要求を繰り返し、ソーシャルメディアへの投稿で、政策金利は「少なくとも3ポイント高過ぎる」と述べた。
JPモルガン・チェースの米国担当首席エコノミスト、マイケル・フェローリ氏は「FRBの独立性が損なわれるとの懸念は、当然ながらある。だが、たとえ議長であっても、委員会をすぐに説得して大きな政策変更に持ち込むのは、そう簡単ではないと思う」と語った。
多数派工作
トランプ氏がパウエル氏の後任に指名する人物だけが、利下げ方針に賛成する唯一の存在というわけではない。18年にトランプ氏がFRB理事に任命したボウマン副議長(銀行監督担当)は、今年は今のところ据え置きを支持してきたが、最近、今月後半の利下げは「適切な可能性がある」と発言した。同じくトランプ氏が任命したウォラー理事も、同様に利下げを視野に入れている。
トランプ氏は、26年1月にクグラー理事の任期が満了するタイミングを、次期議長をFRB理事会に送り込むための空席として利用する可能性がある。また、パウエル氏が理事職を退けば、もう1枠指名することができる。慣例的に退任議長は理事職も離れるが、パウエル氏は退任するかについて明言を避けている。
ただし、仮にパウエル氏が理事を退任しても、それだけでは追加の利下げに必要な票数には届かない。他の理事が利下げに同調するかは、実際の経済情勢に大きく左右されることになる。異論が出ること自体は珍しくないが、特に政策変更時には広範な合意形成を重視するFRBでは、票が大きく割れることはほとんどない。
ドイツ銀行証券の米国シニアエコノミスト、ブレット・ライアン氏は「最終的には委員会としての決定になる。誰であれ、次の議長も合意形成が求められる」と語った。
ブルームバーグは、FRB次期議長の有力候補としては、ケビン・ウォーシュ元FRB理事、ベッセント財務長官、ハセット国家経済会議(NEC)委員長の名前が挙がっていると報じた。ウォラーFRB理事や、デービッド・マルパス元世界銀行総裁の名前も取り沙汰されている。
原題:Powell’s Successor May Struggle to Get the Rate Cuts Trump Wants(抜粋)