【125】男性不妊と寿命の関係:精子の数が教えてくれることとは?|シティリビングWeb

こんにちは。産婦人科医の齊藤英和です。 今回は、不妊症の検査の一つに男性の精液検査から見える、男性の健康について考えてみたいと思います。

精液検査は不妊治療だけではなく、将来の健康を維持する戦略を立てる上でも大切な指標

不妊症の検査の一つに男性の精液検査があります。この精液に影響を及ぼす原因は多岐にわたります。先天的な原因もありますが、後天的なものとしては、食生活、生活習慣、感染症などがあります。一例としては、飲酒や喫煙、過体重、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの発熱があります。これらは健康を害すとともに、造精機能にも影響します。ですので、精液所見が悪いと、これを引き起こした元の原因が全身にも何らかの影響を及ぼしている可能性があります。

近年、男性不妊と精液の質が特定の疾患の発症率の増加や寿命の短縮と関連していることを示す研究が増えています。今回、以前に報告された研究規模よりも、格段に長期にわたり、大規模な精液データベースを用いて、精液の質と全死因死亡率との関連を調査した研究が報告されたので、この研究についてお話しします(Priskorn L, :Hum Reprod. 2025 Apr 1;40(4):730-738. doi: 10.1093/humrep/deaf023.)。

この研究の対象者は1965年から2015年に精液検査を施行した78,284人の男性で、そのうち8,600人(11.0%)が追跡期間中に亡くなりました(追跡期間の中央値:23年)。精液サンプル提出時の年齢の中央値は32歳でした。精子濃度の中央値は46百万/ml(5–95パーセンタイル:0–182百万/ml)でした。さらに、1987年から2015年に精液サンプルを提出したこの研究の後半グループの男性(n=59657)は、精液検査を受けた日より、10年前までの健康状態の記録もあります。後半グループの男性では、基準時の年齢の中央値も32歳で、追跡期間の中央値は20年であり、その間に3,059人(5.1%)が死亡しました。後半グループにおける精液パラメーターは全体のデータと類似していましたが、精子濃度と総精子数はわずかに高かったです。後半グループでは、基準時の10年前までに病院で診断を受けた人が20.7%いました。最も多かったのは骨折や原因不明の疾患に関連する診断で、それぞれ10.4%と6.1%を占めていました。他の診断<例:悪性腫瘍(0.6%)、栄養および代謝関連疾患(0.4%)>は少数でした。過去に疾患の診断を受けた男性は受けていない男性よりも精子濃度が高い傾向にありました(中央値:51対47百万/ml)。ただし、特定の診断群<例:悪性腫瘍(中央値:35百万/ml)、循環器系疾患(中央値:44百万/ml)、泌尿器系疾患(中央値:43百万/ml)>では、これらの疾患の診断がない男性(中央値:48百万/ml)よりも精子濃度が低かったです。 精液の質と平均生存時間の関係を見ると、無精子症の男性または運動性精子数が0–5百万の男性の寿命は、それぞれ78.0歳と77.6歳であり、運動性精子数が120百万を超える男性(80.3歳)と比較して寿命が2.3年および2.7年短いとされています(P < 0.001)。他の精液パラメーターについても、最低および最高のグループ間で同様の差が観察されました(図1)。

また、精液の質と全死因死亡率の関連を見ると、全体の症例では、すべての精液パラメーターが全死因死亡率と用量依存的に負の関連を示しました(P-trend < 0.001)。ただし、無精子症の男性の死亡リスクは、次のカテゴリ(例:精子濃度が0–5百万/ml、総精子数が0–10百万、または運動性精子数が0–5百万の男性)に比べてやや低い傾向がありました。 1987年から2015年に精液サンプルを提出した後半グループでは、全体の傾向と同様の結果が示されましたが、推定値はより顕著でした(図2)。 教育状況や基準時前の疾患診断で調整した後でも、生存の差異は持続しました(P-trend < 0.001)。調整後の分析では、基準値(運動性精子数 > 120百万)と比較して、他のすべてのグループで死亡リスクが有意に高い結果となりました。

これらの結果より、精液検査は単に不妊治療のためだけではなく、将来の健康を維持する戦略を立てる上でも大切な指標となることがわかりました。

PROFILE齊藤英和先生

1953年東京生まれ。梅ヶ丘産婦人科ARTセンター長。昭和大学医学部客員教授。近畿大学先端技術総合研究所客員教授。国立成育医療研究センター臨床研究員。浅田レディースクリニック顧問。専門分野は生殖医学、特に不妊症学、生殖内分泌学。

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