【米国市況】S&P500種の記録更新ストップ、国債利回り軒並み上昇

11日の米株式相場は反落。S&P500種株価指数は前日に終値ベースで過去最高値を更新したが、この日は上昇一服となった。

株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6259.75 -20.71 -0.33% ダウ工業株30種平均 44371.51 -279.13 -0.63% ナスダック総合指数 20585.53 -45.13 -0.22%

  S&P500種採用銘柄のうち400銘柄近くが下げる中、エヌビディアをはじめとする大型ハイテク株は好調となり、指数をこの日の安値から浮上させた。クラフト・ハインツ株は急伸。会社分割の準備を進めているとの報道が材料となった。大手銀行6行は来週発表予定の4-6月期(第2四半期)決算で、トレーディング収入の増加が明らかになるとアナリストは予想している。

  トランプ米大統領はカナダからの輸入品の一部に8月1日から35%の関税を適用すると明らかにした。NBCニュースとのインタビューでは、新たな関税率を提示していない大多数の貿易相手国・地域に対し、15%ないし20%の関税を一律に課す予定であり、数字をこれから詰めると述べた。

  ミラー・タバクのマット・メイリー氏は「株式相場が軟調なのは、トランプ大統領が関税に関する姿勢を一段と硬化したからだ」と指摘。「市場は買われ過ぎになっており、極めて割高だ。調整の時期を迎えつつある」と述べた。

  UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのウルリケ・ホフマン・ブハーディ氏は今後数週間、貿易に関する悪いニュースや脅しのような発言が急増する可能性はあるが、米国の通商政策は今年後半にかけて安定性を増す方向だとみている。

  「当社の基本シナリオは、米国の実効関税率が年末までに15%近辺で決着し、米経済は今後6カ月に成長ペースを落とすものの、リセッション(景気後退)にはならないというものだ」とブハーディ氏は説明。「S&P500種でウエートの大きい銘柄の多くは、関税リスクに対してかなり耐性がある。同指数はボラティリティーの大きい期間を経て、来年6月までに6500に到達可能だと当社は考えている」と述べた。

  米株式相場は力強い決算シーズンに後押しされて上昇するが、年末にかけて勢いが弱まると、投資家はみている。バンク・オブ・アメリカ(BofA)のストラテジストらが述べた。同社ストラテジストのマイケル・ハートネット氏は、「誰も」経済や株式バリュエーションを心配していないとリポートで指摘した。

  ブルームバーグ・インテリジェンスがまとめたデータによれば、今回の決算シーズンに対するウォール街の期待は低い。S&P500種採用企業の増益率は前年比2.8%と、2023年以来の低い伸びが予想されている。前期の14%増益から大幅な減速になりそうだ。

  ランズバーグ・ベネット・プライベート・ウェルス・マネジメントのマイケル・ランズバーグ氏は「第2四半期決算は良好だとみているが、第1四半期ほどではないだろう」と語る。「第2四半期のほとんどが関税と貿易問題にさいなまれた。一部の業界では顧客が様子見パターンに入っている可能性があり、業績に何らかのひずみが生じたかもしれない」と述べた。

  ランズバーグ氏はS&P500種採用企業の業績に対する期待が「若干低い」とみている。

  「ボラティリティーの高さや、関税による未知の状況があることは認識しているが、決算は全般として今の予想より良好になるだろう。この低いハードルをクリアすれば、市場は良好なパフォーマンスが期待できる」と述べた。

  個別企業のニュースとしては、デルタ航空がエンジン不足解消と輸入関税回避のため、欧州にある新造のエアバス機からエンジンを取り外し、米国で運航停止中の機体に装着して再稼働させるという手段を講じている。

  食品卸売り大手パフォーマンス・フード・グループは、同業USフーズ・ホールディングから買収の打診を受けたと、事情を知る複数の関係者が明らかにした。実現すれば、およそ1000億ドル(約14兆7400億円)を売り上げる食品流通大手が誕生する。

  クラフト・ハインツは食品事業の大部分を新たな事業体として分離する準備を進めていると、事情に詳しい複数の関係者の話として報じた。

米国債

  米国債市場ではインフレ懸念が再燃する中、利回りが軒並み上昇。国債相場は週間ベースで2週連続安となった。

国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.95% 8.2 1.68% 米10年債利回り 4.41% 6.1 1.41% 米2年債利回り 3.89% 1.7 0.44%     米東部時間 16時55分

  30年債利回りは一時9ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り上昇し、10年債利回りは6月中旬以来となる4.42%を付けた。いずれも月初から20bp近く水準を切り上げた。

  連邦公開市場委員会(FOMC)は年末にかけて利下げを再開すると予想されているが、トランプ大統領による関税の脅しと原油高によるインフレへの影響に投資家は慎重になっている。

  TDセキュリティーズの米金利ストラテジスト、モリー・ブルックス氏は「この日の売りは主にインフレ懸念によるもののようだ」と話す。「金利は年末までに下がるはずだと当社ではなお考えている。FOMCは成長不安に対応し、10月に利下げに踏み切るだろう」と述べた。

  今年1-6月の米国債相場は、上期としては5年ぶりの堅調となったが、貿易相手国に対するトランプ氏の威嚇や、財政支出拡大への懸念で大きく変動することが時折あった。

  それでもボラティリティーは低下し、米国債利回りの予想変動を示すICE・BOFA・MOVE指数は、2022年1月以来の水準に低下した。

  ジェフリーズ・インターナショナルのチーフ欧州ストラテジスト、モヒト・クマール氏は、今週の10・30年債入札が良好な結果となり、いくらか懸念が和らいだとリポートで指摘。ただし、財政不安を理由に米国と欧州、英国の「長期債は引き続き敬遠している」と述べた。

  米財務省はこの日、四半期ごとのプライマリーディーラー調査で、国債買い戻しプログラムの改善について意見を募った。同省は5月の四半期定例入札で、幅広い変更案を検討していると述べていた。

外為

  ドル指数は上昇。大多数の貿易相手国・地域に対し、15%ないし20%の関税を一律に課すとしたトランプ氏の発言が影響した。対ドルでの下げは円が顕著となり、147円台前半。カナダ・ドルは関税を嫌気して圧迫されたが、予想外の雇用者大幅増で下げ渋った。

為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1199.49 2.75 0.23% ドル/円 ¥147.42 ¥1.16 0.79% ユーロ/ドル $1.1692 -$0.0009 -0.08%     米東部時間 16時55分

  週間ベースでのドル・円は2%余り上昇し、今年最良のパフォーマンス。この日は147円52銭まで上昇した。

  ジェフリーズの為替グローバル責任者、ブラッド・ ベクテル氏は今月20日の参院選について「市場の関心度は少し高まり始めた」と指摘。「選挙結果はドル・円相場をほんの少し動かしそうだが、いずれの方向でも1%を超えるような値動きは誰も予想していない」と述べた。

  「日本銀行は当面、追加利上げは不可能な状況にあり、それはしばらく続く可能性が高い」とベクテル氏。「日本の財政と経済を巡る状況はやや不安定で、これもしばらく続く可能性が高い」と述べた。

  主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、週間ベースで0.7%上昇した。2月以来の大幅高となった。

  ミハリス・ルサキス、クラウディオ・パイロン両氏を含むバンク・オブ・アメリカ(BofA)のチームは「貿易政策の不確実性が高まっている」とし、選択的な措置や、見通せない結末、高いリスクプレミアムを指摘。「経済の不確実性に変わりはなく、いずれ起きる米利下げも重しとなり、ドルの大幅上昇は難しいだろう」と述べた。  

原油・金

  ニューヨーク原油先物相場は反発。ロシアのエネルギー輸出抑制を目指す米国の新たな取り組みが意識された。

  トランプ米大統領は、ロシアを巡り「重要な声明」を14日に発表する考えを示した。また、ロシアによるウクライナへの攻撃が続いていることを巡り、プーチン大統領を改めて批判した。少なくとも85人の米上院議員が支持する対ロシア制裁法案は、中国とインドに対して、ロシア産エネルギーを購入した場合は500%の関税を課す内容となっている。

  コメルツ銀行は「米国は早ければ来週初めにもロシアに対する新たな制裁を決定する可能性がある」とリポートで指摘。「石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスの大幅な生産引き上げにもかかわらず、原油相場がそれを吸収してこれまで比較的安定を保ってきたのは、ロシアからの原油供給の減少が一因とみられる」と続けた。

  国際エネルギー機関(IEA)によれば、OPECの盟主サウジアラビアは先月、OPECプラスが定めた割当量を大幅に上回る石油生産に踏み切った。イスラエルとイランの間で戦争が勃発する中で、ペルシャ湾の産油国が石油輸出を急いだ。

関連記事:OPECの盟主サウジが産油枠超え異例の増産、戦争勃発影響-IEA

  CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「市場はIEAのリポートを精査し、地政学リスクと同地域の需要が特に高まった局面に増産が実施されたと判断している」と指摘。「注目すべきは、サウジから中国への供給が8月に増加するとみられる点だ。価格が堅調を維持する中、これは6月の供給過剰よりも市場にとって重要なシグナルだ」と述べた。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物8月限は、前日比1.88ドル(2.8%)上昇し、1バレル=68.45ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント9月限は2.5%高の70.36ドル。

  金相場は続伸。金スポット価格はニューヨーク時間午後3時36分現在、前日比35.12ドル(1.1%)高の1オンス=3359.17ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は38.30ドル(1.15%)高の3364ドルちょうどで終了した。

原題:S&P 500 Halts Record-Breaking Run as Bonds Slide: Markets Wrap(抜粋)

原題:Treasuries Set for Second Week of Declines on Inflation Jitters(抜粋)

原題:Dollar Advances Amid Tariff Threats; Yen Lags: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Rises on Speculation Trump Plans to Sanction Russian Crude(抜粋)

原題:Silver Rises to Highest Since 2011 as US Premiums Grow(抜粋)

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