コラム:EUの輸入EV最低価格制度、結局中国が得する構図に
[ロンドン/香港 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州連合(EU)と中国は中国製電気自動車(EV)の対EU輸出について、関税の代わりに最低価格を導入する方向で協議を進めている。しかしこのような手法はリスクをはらんでおり、EVを巡る関税戦争の緊張が緩和しても、EUよりは中国に有利に働きそうだ。
EUは昨年秋、中国製EVについて、政府補助金や低賃金労働から得ている競争上の優位性を相殺するために最大35%の追加関税を課すことを決めた。これに対して中国は目下、代替策の導入を画策しており、それは輸入関税の代わりに自動車メーカーが販売価格を一定の水準以下に抑えると約束するモデルだ。この方式は以前に太陽光パネルで採用されている。
しかしこの手法は水面下に問題を抱えている。欧州側は関税と同様に、各自動車メーカーが享受する補助金の程度に応じて最低価格を決めるように求めだろう。関税の場合でも、中国側が望みそうな単一の水準では正確な反映は難しくなっただろう。いずれにせよ、多くの部品からなる複雑な仕組みのEVに最低価格基準を設定するのは至難の業だ。
また、最低価格はいったん決定しても、すぐに現状にそぐわなくなる恐れもある。ルノーとVWは中国と競合するためにより安価なEVを発売しており、バッテリー技術の進化でコストは下がる見込みだ。最低価格が導入されれば技術革新への意欲が削がれるかもしれない。
制度の実行はより大きな課題を伴う。関税の利点は単純さにある。一方、自動車の価格は流動的で、ディーラーは値引きを行い、低金利ローンなどのインセンティブもある。
つまり、欧州メーカーは依然として価格面で中国メーカーに打ち負かされる可能性があり、それは中国での生産を促す要因となる。確かに、欧州は1980年代に日本に対して導入したように中国製EVに最低輸入割当を課すこともできる。あるいは、価格の下限を高めに設定し、その水準に届かない分については関税を課すこともできる。しかし全体として最低価格制度は、欧州が中国との関係を維持し、レアアース(稀土類)へのアクセスを確保するために払う代償となりそうで、結局のところ得をするのは中国という公算が最も大きい。
●背景となるニュース
*中国商務省は7日、中国製EVの対EU輸出について、最低価格設定を巡る中国とEUの協議が最終段階に入ったとの認識を示した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
このような詳細な洞察については、クリックしてください ここ, opens new tab Breakingviews を無料で試してください。
ロイターBreakingviewsは、重要な争点となるべき金融に関する知見を提供する世界有数の情報源です。1999年にBreakingviews.comとして設立。2009年にトムソン・ロイターが買収、金融コメンタリ―部門としてロイターブランドの一員となりました。日々の主要金融ニュースについて、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリード、香港、北京、シンガポールに駐在するコラムニストが、専門的な分析を提供します。英文での最新コラムを掲載した電子メールの定期購読を含め、breakingviews.comの解説や分析(英語)をすべてご覧になりたい方は、[email protected]までご連絡ください
Neil Unmack is a Reuters Breakingviews Associate Editor based in London. He covers credit markets, hedge funds, and Italy. Previously he was a corporate finance reporter at Bloomberg News in London. He started his career as a financial journalist in 2001 at Euromoney Institutional Investor, where he covered structured finance for EuroWeek magazine. He was educated at Eton College and Oxford University, graduating with a first class degree in modern languages.
Katrina Hamlin is global production editor, based in Hong Kong. She is also a columnist, writing on topics including autos and electric vehicles, as well as the gambling industry in Macau and Asia. Before joining Reuters in 2012, Katrina was deputy managing editor of Shanghai Business Review magazine. She graduated from the University of Oxford with an MA in Classics, and earned a Masters of Journalism with distinction from the University of Hong Kong.