ロボタクシーが「日常」となった1年を振り返る、ウェイモを追うテスラとアマゾン、中国勢も国外展開を加速(小久保重信)
2025年は、ロボタクシー(完全自動運転タクシー)がSFの世界を脱した1年として記憶されるだろう。長らく「次世代の移動手段」とされてきたが、米国や中国の大都市では、一般の利用客にとっての「日常的な選択肢」として定着した。
米アルファベット傘下のウェイモ(Waymo)は、圧倒的な走行実績を背景に全米や他国へ"版図"を広げている。これに対し、米テスラや米アマゾン・ドット・コム傘下のズークス(Zoox)も独自の技術思想を掲げて追随。さらに中国の百度(バイドゥ)などが物量作戦で猛追しており、覇権争いは質・量ともに新たな次元に突入した。
■ウェイモの「着実な拡大」が結実
2025年を通じて業界のベンチマークであり続けたのはウェイモだ。同社は同年、米国内の5市場で一般向けサービスを本格化させた。年間乗車件数は1400万件を超えた。
注目すべきは、同社が長年掲げてきた「安全最優先の段階的な拡大」戦略が、実用面で大きな成果を上げたこと。11月にはサンフランシスコ、フェニックス、ロサンゼルスの3都市で高速道路(フリーウェイ)での有償サービスを開始した。
一般道での複雑な判断に加え、高速域での合流や車線変更といった難関を、10年超にわたる検証データをもってクリアした。これにより空港アクセスなどの所要時間が大幅に短縮され、利便性が飛躍的に向上している。
ウェイモは現在、東京やニューヨークを含む国内外26市場での展開を視野に入れている。2026年には欧州初の拠点として、ロンドンへの進出を計画している。だが、この欧州戦略は決して安泰とはいえない。かつてウェイモの慎重な技術展開を批判していたテスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)に加え、強大なプラットフォームを背景にした中国勢との直接対決がロンドンで始まろうとしているからだ。
■テスラの「AI革命」とアマゾン傘下「専用設計」
対照的なアプローチで挑むのがテスラである。同社は、カメラ映像をAIで解析する「エンド・ツー・エンド(E2E)AI」方式を採用。高精細マップに依存しない「AI革命」を提唱している。2025年後半にはオースティン(テキサス州)などで「Robotaxi」アプリを通じたライドシェアサービスを開始した。
12月にはテスラが一部地域で、完全無人のテスト走行を開始したことも報じられた。だが、依然として多くの車両で安全監視員の同乗が必要なのが実情だ。ウェイモが先行する「レベル4(特定条件下での完全自動運転)」の壁をいかに突破するかが今後の焦点となる。
一方、アマゾン傘下のズークスは、ハンドルやペダルのない「馬車型」の専用車両をラスベガスとサンフランシスコの公道に投入した。既存車両の改造ではなく、移動空間そのものを再設計するアプローチだ。これにより乗車体験の質で差異化を図る。6月に本格稼働した専用工場により、年1万台規模の量産体制を整えつつある点も、商用展開に向けた大きな布石となる。
■中国勢の台頭とグローバル競争
米国勢を脅かす勢いを見せているのが、「アポロ・ゴー」を展開するバイドゥなどの中国勢。アポロ・ゴーは武漢市全域をカバーするなど、圧倒的な物量で市場を席巻した。無人運転による週間乗車件数は25万件を突破。同時期のウェイモに肉薄する水準だ。
中国勢は国内での成功を足掛かりに、世界展開を加速させている。中でも特筆すべきは、バイドゥが米ウーバーテクノロジーズ及び米リフトと電撃的な提携を発表したことだ。ロンドンにおいて、両社のアプリを通じてバイドゥ車両を配車する実証実験が始まる。欧州の主要都市を舞台に、米中の自動運転大手が直接対決する初の事例となる。
また、ソフトバンクグループなどが投資するロンドン発のスタートアップ、ウェイブ・テクノロジーズも独自技術で参戦を予定しており、ロンドンは世界で最も激しい「自動運転サンドボックス(実験場)」と化す。
■浮かび上がる課題と将来の展望
サービスが日常化するにつれ、新たな課題も顕在化している。2025年後半には、ウェイモ車両による動物との接触事故や、スクールバスに対する違法な追い越しを理由としたソフトウエア・リコールが発生した。
さらに同年12月20日には、サンフランシスコでの大規模停電により車両が交差点で立ち往生し、広域災害時における対応力の課題も露呈している。テスラにおいても安全監視員の居眠り問題が表面化している。こうした個別の事案は、技術的な「完成度」がまだ道半ばであることを示している。
しかし、産業全体として普及に向けた最大の鍵は、単なるエラーの根絶以上に「法整備」にある。英国の台頭を支えているのは、2024年に制定された「自動運転車両法」だ。同法では事故時の法的責任を車内の個人から「認可された自動運転主体」へと移管することを明文化しており、この明確な責任所在のルール化が、他国に先駆けた商用化を後押ししている。
2026年、ロボタクシー業界は「技術の証明」から「事業の持続性」を問われるフェーズへと移行する。各社は2027〜28年の黒字化達成を目指している。だが中国・小馬智行(ポニー・エーアイ)などの上場勢がいまだ赤字であるように、採算性の確保は容易ではない。
専門家は、完全無人のロボタクシーと人間が運転する従来のタクシーを混在させて運用する「ハイブリッド・ネットワーク」が、需要変動を管理する上で最も現実的なモデルだと指摘する。
2026年は、自動運転の未来を左右する正念場の1年となる。技術の進化、法整備の成熟、そしてビジネスモデルの確立。これらが三位一体となり、社会インフラとして名実ともに受け入れられるか、その真価が問われることになる。
【執筆者コメント】
2025年は、完全自動運転タクシーが空想から現実へと移り変わった象徴的な年となりました。先行するウェイモを筆頭に、独自路線を貫くテスラ、そしてウーバー等の巨大プラットフォームと手を組み国外展開を加速させるバイドゥなど、勢力図は日々刻々と塗り替えられています。
特に英国の事例に見られるような、事故時の責任主体を明確にする法整備の進展は、技術の進化と同等以上に重要なパラダイムシフトです。2026年は「技術の競い合い」を超え、「法と社会とビジネスがいかに調和するか」を問われる一年となるでしょう。本稿が、激変する自動運転の未来を見極めるための一助となれば幸いです。
- (本コラム記事は「JBpress」2026年1月15日号に掲載された記事に、その後の最新情報を加えて再編集したものです)