兵庫県知事選の分断、SNSで深まる溝 意見異なる相手に心ない投稿相次ぐ 顔写真さらされる事例も

 兵庫県の告発文書問題と斎藤元彦知事の評価をめぐり、一部の「親・斎藤」と「反・斎藤」の対立が激化している。交流サイト(SNS)では互いに意見の異なる相手への心ない書き込みが相次ぎ、アカウント名や顔写真をインターネット上で拡散させようとする事例もある。見知らぬ相手の攻撃にさらされる恐怖は、双方の不信や嫌悪感、敵意を増幅させている。(特集取材班)

市街地を練り歩く「楠公武者行列」。武将にふんし、手を振る斎藤元彦・兵庫県知事に、沿道から「さいとうさーん、頑張れ!」といった声援と共に、「知事を辞めろ!」などのやじが飛んだ=5月25日午前、神戸市兵庫区新開地5

 「斎藤やめろ!」

 5月25日、神戸市中央区で知事の辞職を求めるデモ行進があった。声を上げる千人以上の中に、帽子を深くかぶり、マスクで顔を隠した阪神地域在住の60代女性の姿があった。

 「県民として立ち上がらないといけない。でも、ネットで動画や写真をさらされたら怖いので」

 政治的な活動に参加するのは初めて。意識するのは、今年1月に亡くなった竹内英明・前県議のことだ。SNS上などで告発文書問題の「黒幕」などと中傷され、個人情報がさらされ、嫌がらせの電話を受けたり、押しかけられたりした。

 デモの様子は斎藤知事の支持、不支持の双方がスマホを向け、投稿し合っていた。女性は「SNSがきっかけで人が亡くなるのが今の時代。自分の身は自分で守らないと」と表情をこわばらせる。

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 昨秋の知事選で斎藤知事の対立候補をボランティアで手伝い、X(旧ツイッター)で知事を批判してきた尼崎市の50代の主婦は、自宅に突然見知らぬ人がやってきた経験がある。それも午前3時半のことだ。

 インターホンの音で目覚めて画面を確認すると2人組の女性が映っていた。その数日前には、ウオーキング中、誰かに後ろを付けられる感覚があったと話す。

 SNS上では自身の写真とアカウントがさらされ、「クーデターを策略したやつ」などと、根も葉もないデマが拡散されていた。

 「もしかして、特定されたのかも…」。警察に相談したが恐怖で外出ができず、手の汗や動悸(どうき)が止まらなくなった。投稿を控えると、勝ち誇るようなコメントが増えた。プロバイダーに通報しても対応してもらえない。悩んだ末、投稿を再開した。

 「自分が投稿をやめれば、相手の思うつぼ。黙っているなんてできない」。今も毎日、Xで数十件の発信や拡散を続ける。

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 「斎藤さんを支持している人の『手配書』があるんですよ。ひどい」。斎藤知事の選挙ボランティアだったという西宮市のパート女性は、Xに出回っているホワイトボードの写真に憤る。

 ボードには約20人の顔写真が貼られ、アカウント名や名前が記されていた。斎藤知事を批判する集会の会場で掲示されていたという。

 自分は普段から投稿しないので特定される被害は免れたが、仲間は顔をさらされ「家から出たくない」とおびえる。「私たちにとって斎藤さんを応援することが正義。『アンチ斎藤』の行動は想像を超えている」

 集会を主催する団体の関係者は神戸新聞の取材に対し、ホワイトボードの存在を認め「こちらを盗撮したり、家を特定しに来たりする恐れのある要注意人物を警戒するため」と説明。拡散や攻撃が目的ではなく「あくまで自衛のためのものがネットに出た」と正当性を主張した。

 そして「『斎藤派』は亡くなった県議や元県民局長らに対してひどい投稿を繰り返している。そんな人たちが『怖い』とか言うのはおかしい。自業自得では」と強い口調で反論した。

■暴力的言動に嫌悪と疲弊 県政巡るSNSアンケート

兵庫県政をめぐり、SNSで経験した誹謗中傷や人間関係の変化の一例

 昨年11月の兵庫県知事選では、暴力的な言動がインターネット上にあふれ、県民の間に深い溝が生じた。神戸新聞社は双方向型報道「スクープラボ」で、一連の問題に絡み交流サイト(SNS)で誰かを誹謗(ひぼう)中傷する言葉を見たかどうか尋ねるアンケートを4月に実施。計499件の回答のうち7割が「見た」とし、67人は実際に被害を受けたと答えた。取材班は一部の回答者に追加取材した。

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