2億人超の暮らしが危機に…衛星解析で判明した洪水リスク研究
気候変動は、河川地域に深刻な影響をもたらすことが明らかに…。
人類は、歴史的にも肥沃な土壌、豊富な淡水、そして食料源にも恵まれた、河口付近の低地である河川デルタ地帯に定住してきました。現在もこれらの地域は世界的にも人口密集地となっているわけですが、そこに暮らす数億人の人々は、脅威にさらされています。
沿岸部の洪水は河川デルタ地帯の人口に大きな影響を及ぼしていて、インフラの崩壊、海水の浸食といった深刻な問題に直面しているわけですが、その原因のひとつは、気候変動による海面上昇です。先日、科学誌「Nature」に掲載された論文によると、世界の多くの河川デルタでは、海面上昇のスピードを上回る速さで地盤沈下が進んでいることが明らかになりました。
この論文では、近い将来、2億3600万人以上もの人が洪水リスクに晒されていることか書かれています。しかも、この洪水リスクは、単に人々の住民の土地が奪われるだけでなく、世界の食料安全保障にも関わる問題です。
本研究の共著者であり、バージニア工科大学の地球科学教授であるマヌーチェフル・シルザエイ氏は、「何十億人もの人々が、これらのデルタ地帯で生産される食料に依存しています」と米ギズモードに語りました。
河川デルタ地域の洪水の原因は?
現在はカリフォルニア大学アーバイン校の助教授で、元バージニア工科大学の大学院生であるレナード・オヘンヘンが率いる研究チームは、衛星データを用いて世界の主要な40の河川デルタ地域の地盤沈下地図を作成しました。
衛星データはInSAR(干渉合成開口レーダー) という強力なリモートセンシング技術によって取得されました。この技術は地表を撮影した複数のレーダー画像から、時間の経過とともに生じるわずかな標高の変化を可視化する手法で、5大陸・29か国にまたがる河川デルタ全体の地盤沈下を高解像度で捉えることを可能にしました。その中でも、ベトナム南部のメコン川、エジプト北部のナイル川、タイ南部のチャオプラヤ川、インド東部のガンジス・ブラマプトラ川、中国北部の黄河、そしてメキシコ湾のミシシッピ川が地盤沈下の進行が速いことが判明。これらのデルタ地帯の中には、バンコク、カイロ、コルカタなど、世界でも特に人口密度の高い都市が含まれています。
分析の結果、年間平均でおよそ4ミリメートルほど沈下していて、現在推定されている世界平均の海面上昇速度よりも速い状態です。
シルザイ氏は「これは非常に速いペースです」と述べています。
年間4ミリと聞いても、一瞬大した事ないように思うかもしれませんが、徐々に、洪水、侵食、そして塩水の浸入(土壌や淡水の塩類汚染)のリスクが非常に高まるとのこと。
地盤沈下と海面上昇は、どちらも洪水のリスクに関わりますが、これらのデルタ地帯では海面上昇よりも速いペースで地盤沈下が進んでいることから、短期的な洪水リスクの主因は地盤沈下であるとシルザイ氏は指摘しています。
海面上昇は地盤沈下の影響をさらに悪化させますし、その逆はありません。適応戦略を立てたり、レジリエンス計画を策定するのであれば、2100年の海面上昇予測ではなく、こうした実測データを見るべきです。
地盤沈下の原因と解決策
せめてもの救いは、地盤沈下の問題は、海面上昇と比べれば短期的には解決策が見出しやすいというところです。海面上昇は地球規模の気候変動に起因するため、解決には世界人類が一体となる必要がありますが、地盤沈下は地下水の過剰な汲み上げとか地下資源の採掘など、地球規模ではなく地域レベルの取り組みで対応可能だからです。
地域でこれらの活動を抑制して対策を講じることができれば、地盤沈下を止めさせることは可能です。
そのための工学的な解決策として特に有効なのが「管理帯水層涵養」。これは枯渇した地下の帯水層に水を再び入れて、地表を持ち上げると同時に地下水資源を回復させる方法です。
シルザイ氏は、河川デルタ地域の住民が地盤沈下に対処できるように、意思決定に必要な観測データを提供すべく、今後は世界各国の河川デルタ地域におけるインフラの違いも考慮し、地盤沈下が主因となる洪水リスクをより正確に評価していくことが必要とのこと。研究チームの今後の展望としては「Google Earthの地盤変動版」のような世界全体の地盤沈下地図を作成するだそうです。
気候変動が進むにつれ、世界中の海岸線で地盤沈下の影響は深刻化します。データに基づく客観的な事実の分析は、今後ますます重要になります。
Source: Nature