『あんぱん』出てこなかった「やなせたかしと親交あった著名人」 自伝にある「冷や汗もの」「警察沙汰」の話見てみたかった?
『あんぱん』ではこれまで多数の著名人がモデルのキャラが登場していますが、やなせたかしさんの交友録はさらにすごいものでした。
『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢さんの人生をモデルにした2025年前期の連続TV小説『あんぱん』では、これまでやなせさんと交流があった各界の著名人がモデルのキャラが登場してきました。18週目で上京してから「柳井嵩(演:北村匠海)」は、その多彩な仕事でさまざまな天才たちと関わっています。
ただ、やなせさんの仕事はドラマ以上に多岐にわたっており、とても全部は描き切れないほど多くの有名人と関わりがあったようです。やなせさんの自伝で名前が登場するも、『あんぱん』には出て来なかった人物を振り返ります。
NHK出版が出しているドラマのガイドブック「連続テレビ小説 あんぱん Part2 (2) (NHKドラマ・ガイド) 」には、「困ったときのやなせさんと時代を彩ったスターたち」というコーナーがあり、すでにモデルのキャラが登場している手塚治虫さん、永六輔さん、いずみたくさん、宮城まり子さん、立川談志さん一緒に、昭和を代表する脚本家、向田邦子さん(『寺内貫太郎一家』『阿修羅のごとく』『あ・うん』など)の名前が出ていました・
やなせさんは1950年代後半、雄鶏社の「映画ストーリー」という雑誌の編集者で映画評論のコーナーを持っており、当時編集者をしていた向田さん(当時20代)と出会いました。やなせさんは自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)で、「目が大きくベレー帽をかぶった」当時の向田さんに「やなせ先生の原稿は面白くて、毎号読むのが楽しみ」と言われ、意気投合して一緒に展覧会に行ったことも語っています。
その後の1964年4月、やなせさんは東京12チャンネル(現・テレビ東京)でドラマ『ハローCQ』(『あんぱん』では『CQCQ』)の脚本を担当していた際、フリーの脚本家になっていた向田さんに頼んで台本を2本書いてもらったそうです。
やなせさんは彼女のシナリオを修正したそうで、のちの大脚本家の文を直したことを、「今思うと冷汗ものです」と語っていました。さらにその後、やなせさんは向田さんに頼まれて、彼女のエッセイ『父の詫び状』の挿絵も担当しています。
主人公「のぶ(演:今田美桜)」の妹「朝田蘭子(演:河合優実)」が、映画のレビューを書く仕事をしているため、彼女に向田さんの設定が一部反映されているのではないかという説もありますが、はっきりとしたモデルのキャラは出ていません。
また、やなせさんの漫画家仲間として見てみたかったという声もあるのが、『おそ松くん』『天才バカボン』などで知られる赤塚不二夫さんです。やなせさんは1950年代から大人向けのマンガを描く漫画家の団体「漫画集団」に所属しており、60年代からは赤塚さん、手塚さん、石ノ森章太郎さん、ちばてつやさんなど、当時は若手の才能あふれる漫画家たちも加入しました。
当時、漫画集団は年末に箱根で忘年会を開いており、そこでは大物漫画家たちが本気で宴会芸や寸劇を披露していたそうです。やなせさんは『人生なんて夢だけど』で、赤塚さんが「下ネタを熱演しすぎて警察沙汰になった」ことを振り返っていました。いったい何があったのか、詳細は不明ですが、相当な宴会芸を披露したようです。
やなせさんは「赤塚不二夫は宴会芸といえども決して手を抜かなかったですね。世評と違って基本的な性格は真面目すぎる一途な人とぼくは思っています」とも語っていました。若き日は美青年だったことで知られる赤塚さんは、登場していれば誰が演じていたのか、気になるところです。
また、24週117話で大ヒットしたことが語られた、アニメ映画『千夜一夜物語』(1969年公開)の主演声優も登場しませんでした。
アラビアンナイトが元ネタの『千夜一夜物語』の主人公「アルディン」の声を担当したのは、小説家、作詞家、タレント、俳優とマルチに活躍し、のちに東京都知事にもなった青島幸男さんです。やなせさんは『あんぱん』の「六原永輔(演:藤堂日向)」のモデルである永六輔さんを通じて、60年代から青島さんと顔見知りでした。
『千夜一夜物語』が大ヒットした後に、やなせさんと青島さんとは手塚さんから赤坂の料亭に招待され、英国屋の背広の仕立券を貰ったといいます。さらに、やなせさんは手塚さんのポケットマネーで短編映画を作っていいと言われ、1970年に『やさしいライオン』を映画化しました。
そのほか、やなせさんが三越の社員時代にマンガを持ち込んでいた雑誌「モダン日本」の編集長だった作家の吉行淳之介さんや、ラジオの仕事を通じて知り合っていた声優の増山江威子さん(『ルパン三世』の「峰不二子」役ほか)、『ハローCQ』に出演していた若き日の演出家の蜷川幸雄さん、やなせさんが似顔絵を教えてもらった漫画家の針すなおさんなど、やなせさんの自伝には驚きの名前が多数出てきます。『あんぱん』で全員出すのは難しかったようです。
参考書籍:『人生なんて夢だけど』(フレーベル館 著:やなせたかし)、『アンパンマンの遺書』(岩波書店 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)
(マグミクス編集部)