対イラン作戦の戦費負担、米海軍の活動資金は夏までに枯渇する見込み
米軍が実施した対イラン作戦の戦費は現時点で290億ドル=約4.5兆円に達し、これを賄う補正予算の成立も相当時間がかかる見込みで、米海軍のコードル作戦部長は議会の公聴会で「夏までに資金枯渇の影響が出る」「7月までに見直し(海軍の活動縮小)を決断しなければならない」と証言した。
参考:Navy to run into financial constraints this summer due to current operations, CNO says
米軍は2月末に開始した対イラン作戦=エピック・フューリー作戦で膨大な資金を溶かし、Washington Postは3月9日「イラン攻撃の最初の2日間で56億ドル相当の弾薬を消費した」「この数字は希少な精密誘導兵器の備蓄を急速に使い果たしているという警戒感を浮き彫りにしている」「ダン・ケイン統合参謀本部議長はトランプ大統領に対して『イランとの紛争が長期化すればウクライナに対する数年間の支援、少なくともトランプ政権が世界7カ国で行っている軍事行動によって枯渇した精密誘導兵器の在庫が底をつく可能性がある』と警告していたが、政権はこの評価を軽視してきた」と言及。
出典:DoD photo by Benjamin Applebaum
The Jerusalem Postも「戦費は非常に高額だ。CSISによればエピック・フューリー作戦の最初の100時間でかかった戦費は37億ドルだ。10日目までの累積戦費は推定65億ドル=約1兆円に達している。ペン・ウォートンモデルの予測では2ヶ月間の戦争には400億ドル〜950億ドル(6.3兆円~15兆円)の戦費が必要で、経済的影響は500億〜2,100億ドルに達するだろう」と報じたが、The New York Timesも3月12日「イラン攻撃の最初の6日間で戦費が113億ドル=約1.7兆円を超えた」と報じた。
この113億ドルという数字は「イラン攻撃作戦に伴う直接的な支出のみの控えめな見積もり」で、作戦開始までの戦力・物資集積にかかる費用、2個空母打撃群を中東へ派遣するための費用等は含まれていないため、NYTは「最初の1週間の最終的な総額はさらに膨らむ見通しだ」「上院の国防歳出小委員会の民主党筆頭委員=クリス・クーンズ上院議員は113億ドルという数字について『概ね正確』であるとの認識を示した」「実際の運用コストはこれを大幅に上回ると予想している」「1日あたりの戦費は15億ドルを優に超えているというのが妥当な推測だ」「戦費の多くは精密誘導兵器の極めて速い消費ペースに起因している」と指摘。
出典:U.S. Central Command
現在の米議会は2027会計年度予算審議に向けた公聴会が連日開催されており、ピート・ヘグセス国防長官とダン・ケイン統合参謀本部議長は上院と下院の公聴会で「エピック・フューリー作戦の戦費が290億ドルに達した」「この数字の大部分(240億ドル)は消耗した弾薬、ドローン、航空機装備の修理や交換費用に関連している」と、ジュールズ・ハースト国防総省会計監査官代行も「この見積もりには損害を受けた軍事施設への被害は含まれていない」「将来の態勢がどうなのか分からないし、損傷した基地をどうやって再建するのか、同盟国やパートナー国が再建費用の何パーセントを負担するのかも分かっていない」と述べた。
下院歳出委員会国防小委員会のベティ・マッカラム議員は国防総省に対して「人件費、作戦費、作戦投入した艦艇の追加整備費、弾薬費、作戦で破壊された装備品の交換費用、消費した燃料の最新額、軍事施設への損害額の内訳など委員会が国防予算案を審議する6月11日まで提出しろ」と指示し、これはエピック・フューリー作戦の戦費を賄う補正予算を編成するためだが、ダリル・コードル作戦部長は下院歳出委員会の公聴会に出席した際「現在の作戦ペースで推移すればいつ資金が枯渇すると予想しているか」と質問され「夏までに影響が出る」と回答。
出典:U.S. Central Command
現在の作戦ペースとはエピック・フューリー作戦のことではなく、米海軍が通年を通して実施している海外展開、国内外の訓練、国内演習の実施や国外演習への参加、各種資格認定、イベントなどを指し、コードル作戦部長は「戦力維持のため7月までに作戦ペースの見直しを決断しなければならない」と述べた。
下院歳出委員会の国防小委員会で委員長を務めるケン・カルバート議員は「補正予算案を最終的に誰が可決させるかは分からないが、我々だけでなく上院でも補正予算案を検討しなければならないので時間がかかるだろう。我々は2027会計年度の国防予算も同時に審議しなければならないが、作戦部長の話を聞く限り補正予算案の可決を優先して、できるだけ早く資金を確保しなければならないように見える」と言及したが、予算編成には柔軟性がないため補正予算額を決める根拠、つまりエピック・フューリー作戦の正確な戦費と内訳が提示されない限り、上院と下院による補正予算の検討や審議は始まらない。
出典:U.S. Central Command
米海軍は補正予算から資金を確保するまで「2026会計年度予算で手に入れた資金の枯渇」を回避しなければならず、その補正予算も審議や可決に時間を要するため夏頃には作戦ペースの調整(米海軍の活動縮小)が避けられない格好で、さらに想定を超える艦艇配備によるメンテナンスコストの高騰も現実的な問題だ。
フン・カオ海軍長官代行は下院歳出委員会の公聴会で「空母フォードは標準的な7ヶ月間を超えて配備されたため通常よりも多くのメンテナンスが必要になる」「艦船の配備期間が30日延長されるごとにメンテナンス費用が6%増加する」「つまり配備期間が5か月間延長された空母フォードのメンテナンス費用は30%増加することになる」と証言し、エピック・フューリー作戦が艦艇メンテナンスのスケジュールと費用に与える影響も小さくないことを示唆している。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Central Command