コーヒーは腸を介して認知機能に影響する? アイルランドでの調査結果、Nature系列誌で研究発表:Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークやイタリアのパルマ大学に所属する研究者らがNature Communicationsで発表した論文「Habitual coffee intake shapes the gut microbiome and modifies host physiology and cognition」は、日常的に飲むコーヒーが、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)や人間の生理機能、認知能力にどのような影響を与えるかを調査した研究報告だ。
本研究は、腸と脳が互いに影響を及ぼし合う経路において、コーヒーがどのように作用するのか、そしてそれがカフェインによるものなのか、コーヒーの成分全体によるものなのかを検証している。
実験は、アイルランドに住む30~50歳の健康な成人62人を対象に行われた。まず、コーヒーを全く飲まない非飲用者31人と、毎日3から5杯飲む習慣的な飲用者31人を比較した。続いて、コーヒー飲用者のグループに2週間コーヒーを完全に断ってもらい、その後カフェイン入り、またはカフェインレス(デカフェ)のコーヒーのどちらかを3週間毎日飲ませて、心身や腸内環境の変化を観察した。
心理面や行動面の分析によると、コーヒーを日常的に飲む人は、飲まない人に比べて衝動性や感情の起伏が高い傾向にあった。しかし、2週間のコーヒー断ちを行うとこれらの数値は低下し、落ち着きを見せた。
その後にコーヒーの摂取を再開すると、カフェインの有無に関わらず、参加者の感じているストレスや気分の落ち込みが和らぐことが確認された。さらにコーヒーの種類による明確な違いもあり、カフェイン入りは不安を軽減して注意力などの認知パフォーマンスを向上させる一方、デカフェはエピソード記憶のスコアや睡眠の質、日常の運動量を向上させるという効果を示した。
また、免疫機能や腸内環境に対するポジティブな影響も明らかになった。初期調査において、コーヒー飲用者は非飲用者に比べて、体内の炎症を示すマーカーが低く、逆に炎症を抑える物質が多い状態であった。実験でコーヒーを一時的にやめると炎症マーカーの上昇が見られたことから、コーヒーの成分が体内の炎症を抑える保護的な役割を果たしていると考えられる。
さらに、便や尿の分析によって腸内環境と代謝物の違いも判明した。コーヒー飲用者の腸内では、非飲用者に比べて「クリプトバクテリウム」や「エゲルテラ」といった特定の腸内細菌の割合が増加していた。
一方で、リラックス効果に関わる神経伝達物質「GABA」や、認知機能の改善に関連するとされる「IPA」(インドール-3-プロピオン酸)といった特定の代謝物の値は、非飲用者よりも低下していることがわかった。
また、コーヒーに含まれるポリフェノールなどの成分は、カフェインの有無に関係なく代謝物を増加させた。
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