『放送局占拠』“ツッコミどころ”だらけでSNS盛況 ふざけてるのに本気な令和型ドラマ
『大病院占拠』『新空港占拠』に続き、シリーズ第3弾となる『放送局占拠』(日本テレビ系)が幕を開けた。第1話放送直後からSNSでは「銃、飾りかよ」「懺悔の内容が雑すぎる」といったツッコミが溢れ、トレンド入りするなど、早くも恒例行事のような盛り上がりを見せている。
特に今回は、銃を持っているにも関わらず、犯人側は実質ほとんど撃たず、緊張感があるようでない。この“撃たない”演出は、リアリティを削ぐどころか、むしろツッコミを誘発する余白として機能しているようにも思える。懺悔のシーンも同様で、登場人物の過去があまりに唐突に暴露され、「それを告白してどうなるのか?」という視聴者の疑問を誘った。だが、これこそが『占拠』シリーズの核心でもある。
シリーズを通じて一貫しているのは、緊張感と緩さのあわいに生まれる、視聴者の“ツッコミ参加型”体験だ。犯人の動機や暴露のカタルシスが“ツッコミどころ”として消費される前提で設計されているからこそ、SNS上でのリアクションが物語の一部になる。まるで観客自身が放送局の視聴者として取り込まれているかのように、作中の懺悔番組と現実世界のSNSがリンクしていく。
この巧妙さは、近年のテレビドラマにおける新たな潮流と無関係ではない。リアルタイム視聴の減少が叫ばれる中、ドラマにおいても「実況性」や「バズ」が作品の評価軸になりつつある。『放送局占拠』はその点、あえてツッコミたくなるような場面を配置することで、能動的な参加を促す設計になっている。いわば、ドラマとしての完成度以上にSNS上での盛り上がりや解釈の余地に価値を置いた、メタ的な視点な作りが際立っているのだ。
だからこそ、作中の懺悔もまた、真実の追及というよりは、視聴者の中に「これって本当に罪なの?」「こんな唐突な告白あり?」という違和感を生み出すように設計されている。それによって、ただ観るだけでなく、ツッコミそのものが娯楽となる。これは、旧来のドラマの物語構造とは異なる、開かれた視聴体験であるとも言える。
また、主演の櫻井翔が演じる武蔵の存在も、この緩急の演出において重要なバランサーとなっている。どれだけ状況が突拍子なく進行しても、武蔵の真っ直ぐすぎるセリフ回しと汗だくの熱演が、ドラマの世界観をつなぎとめている。彼の正義を貫く刑事というキャラクターが、どこか昭和的で古風なヒーロー像を思わせる一方で、作中の空気感や他の登場人物との温度差が際立ち、彼の存在だけが少しだけズレて見える瞬間もある。だがその浮きっぷりすら、演出の計算内にあるように思える。
懺悔を強要する鬼たちの演出も、仮面の下にそれぞれの正義を抱えた人間としての輪郭が透けて見える構造になっている。今作では「番組関係者への糾弾」をテーマにしているため、テレビ局という“語るメディア”そのものが舞台となるのも興味深い。視聴者に真実を届ける立場にいるはずのテレビ局が、じつは加害性や責任を孕んでいるという構図は、エンタメにおけるメタ構造として秀逸だ。
ツッコミどころが話題の中心になりがちなシリーズではあるが、製作陣が“真面目にふざける”ことへの覚悟は、随所に見て取れる。銃が撃たれないのも、懺悔が茶番に見えるのも、すべては「ツッコミながら観る」視聴スタイルを意識しての設計なのだとしたら、それは“考察ブーム”に続く、もうひとつの新しい視聴体験の提示なのかもしれない。
もちろん、緻密なプロットや深みのあるキャラクター描写を求める層にとっては、物足りなさを感じる部分もあるだろう。だがそれも含めて、今作はツッコませることを恐れず、ドラマとしての正しさよりも観られ方に比重を置いている。そこには、テレビというメディアが今直面している視聴スタイルの変化やコンテンツが目まぐるしく消費されていくスピード感に、なんとか応えようとする工夫もうかがえる。
『放送局占拠』は、ツッコミどころ満載の“B級エンタメ”を装いながら、ツッコミを前提とした“参加型コンテンツ”として成立している。情報が飽和する現代において、完璧であることよりも、話題性のほうが求められる時代にあって、本作のアプローチはある種の戦略的な割り切りとも言える。『放送局占拠』が描いているのは、SNSでツッコミを交わしながら楽しむ“共有型エンタメ”というスタイルなのかもしれない。
『占拠』シリーズ第3作目。『大病院占拠』では鬼、『新空港占拠』では干支をモチーフにしたお面が印象的だった武装集団だったが、『放送局占拠』では、妖怪のお面をかぶった妖が500名の人質をとり、放送局を占拠する。
■放送情報 『放送局占拠』 日本テレビ系にて毎週土曜21:00〜放送 出演:櫻井翔、比嘉愛未、ソニン、瀧内公美、ぐんぴぃ、高橋克典、加藤清史郎、曽田陵介、吉田芽吹、戸次重幸、福澤朗、片岡礼子、齊藤なぎさ、山口大地、真山章志、亀田佳明、北代高士、宮部のぞみ、菊池風磨 チーフプロデューサー:道坂忠久 プロデューサー:尾上貴洋 演出:大谷太郎、茂山佳則、西村了 脚本:福田哲平 音楽:ゲイリー芦屋 制作協力:AX-ON ©日本テレビ 公式サイト:https://www.ntv.co.jp/dbs3/
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