九州のリサイクル店から1兆円企業へ下剋上 西友買収、トライアルの武器は「小売DX」

低価格で食品や日用品を販売するトライアルの店舗=福岡県須恵町(一居真由子撮影)

九州を地盤にディスカウントストア「トライアル」を展開するトライアルホールディングス(HD、福岡市)が7月、関東を中心に出店する総合スーパー「西友」を買収した。西友の完全子会社化により、一気に勢力を拡大して全国区に。業界に大旋風を巻き起こし、売上高1兆円企業の仲間入りを果たしたトライアルHDとは、どんな会社なのか。

首都圏攻勢の幕開け

7月2日、西友の買収完了を発表する記者会見が東京都内で開かれた。首都圏攻勢の〝幕開け〟で、トライアルHDの永田洋幸社長は「流通情報革命をともに進めていきたい」と力を込めた。

同社は前日の1日付で米投資ファンドなどから約3800億円で西友の全株式を取得した。出店エリアの重複が少ないことから、相乗効果が見込めると判断。買収で店舗数は全国585店に、売上高は単純合算で約1兆2千億円となり、大手コンビニエンスストア「ローソン」や、ドラッグストア大手「ツルハホールディングス」を上回る。

記者会見するトライアルホールディングスの永田洋幸社長=7月2日、東京都港区

トライアルHDは西友を足掛かりに、空白区だった東京都内を含め関東への出店を加速する。食品が充実した小型店「トライアルGO」を、西友の店舗周辺にサテライト(衛星)のように配置する計画で、出来たての総菜を高頻度で配送する。

ウォルマート参考に

トライアルGOは、顔認証による決済や、時間に応じてレジで自動値下げするシステムなどを導入し、九州では〝スマートストア〟として浸透している。同社はこうしたデジタル技術の活用を強みとし、運営コストを削減することで低価格での商品提供を可能にしている。その技術はスーパー参入以前、事業形態を模索する中で培ったものだ。

創業は昭和49年。当時の社名は「あさひ屋」で、スーパーでもIT企業でもなく、リサイクルショップだった。家電を修理して販売する一方、59年には「挑戦する仲間たち」の意味を込め、社名を「トライアルカンパニー」に変更。小売店向け情報管理システムの開発や、家電量販店にも参入した。電機メーカーから「コンピューターの時代が到来する」と聞き、ソフトウエア会社も設立した。広報担当者は「今ほど売り上げがない中で、長く事業の模索を続けていた」と説明する。

ディスカウントストアへの参入は創業から18年後の平成4年。IT技術を活用した店舗運営を行う米国の人気大型スーパー「ウォルマート」を参考に、日本の小売業を変えたいと考えた。出店の加速を目指す時期とダイエーなど大手総合スーパーが撤退する時期が重なり、機を逃さず、撤退した後の「居抜き物件」に可能な限り出店した。

ソフト開発にも注力

豊富な品ぞろえと低価格を武器に徐々に浸透。出店を進める一方、店舗運営効率化の〝頭脳〟となるソフト開発への投資も続け、購買履歴の管理システムなどを自社で開発した。他社に先駆け、レジの待ち時間を短縮する決済機能付き買い物カートを大量投入。出来たての総菜を知らせて客の購買を促すデジタルサイネージ(電子看板)を導入するなど、デジタル技術を駆使した取り組みは業界の注目を集める。

トライアル店内で導入している決済機能を搭載したタブレット端末付きのカート。レジの待ち時間を短縮する=福岡県須恵町(一居真由子撮影)

こうした店舗でのデジタル技術の活用に大きく寄与しているのが、福岡市郊外の宮若市にメーカーの担当者を集めて定期的に開催する研修会だ。

花王やサントリーなど49社の担当者が流通の無駄や無理を解消しようと泊まり込みで議論を交わし、トライアルの店舗でアイデアを実践する。

永田社長は「日本一の小売業になりたいというのではなく、流通の『ムダ・ムラ・ムリ』を解決したいというビジョンが先にある」と強調する。

「少子高齢化や人手不足の時代、テクノロジー化をしないと地方の人を支えることはできない。生活を支えることが流通業の使命であり、存在意義だ」。トライアルHDの挑戦は続く。(一居真由子)

スーパー西友の買収完了 完全子会社に トライアル、事業拡大へ 米投資ファンドから

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