北欧で見つかった古代船に新発見、「出発地」のなぞ解明へ前進

1920年代に発掘された「ヒョルトスプリング船」は国立博物館に展示されている/Sahel Ganji/Lund University

(CNN) デンマークの湿地帯で約100年前に見つかった古代の木造船について、新たな研究結果が発表された。この船はどこから来たのかというなぞの解明に、一歩近づいた可能性がある。

「ヒョルトスプリング船」と呼ばれるこの船には剣や槍(やり)、盾などの武器が積まれていた。襲撃隊がデンマークのアルス島を攻めようとして、失敗に終わったことがうかがえる。島を防御した勢力が、船を沼地に沈めた。船は1920年代初めに発掘されるまで2000年あまりの間、そのままになっていた。

発掘後も、襲撃隊がいつ、どこから来たのかなどの疑問が残っていた。

新たな研究結果はこのほど、オープンアクセスの科学誌プロスワンに発表された。放射性炭素年代測定のデータや船の材料を分析した結果を基に、船がこれまで考えられていたよりも遠くから来た可能性を指摘している。

研究を率いたスウェーデン・ルンド大学のミカエル・フォーベル准教授は「船に乗った襲撃隊がどこから来たのかというなぞの解明に向け、重要な手がかりが得られた」と述べた。

フォーベル氏はメールを通し、「青銅器時代のスカンジナビア人が青銅づくりに必要な銅やすずを手に入れるには、海を渡る必要があった。当時、北欧では採掘されなかったからだ」と説明した。「つまりヒョルトスプリング船は、スカンジナビアの初期の海洋文化がたどり着いた先を象徴している」

「船を研究することで、鉄器時代初期だけでなく、それに先立つ青銅器時代の航海についても重要な情報が得られる」(フォーベル氏)

今回の研究ではさらに、船から意外なものが見つかった。タール片に残された人間の指紋の一部だ。フォーベル氏は、船に乗っていた人物と直接つながるかもしれない貴重な発見だと指摘する。

船のルーツをひもとく

タール片から人間の指紋の一部が見つかった/Sahel Ganji/Lund University

ヒョルトスプリング船は全長20メートル近くで、最大24人が乗り込める大きさだった。底板に両側面の板と船首、船尾をひもで結びつけた構造だ。現在はコペンハーゲンのデンマーク国立博物館に展示されている。

研究チームに参加した同博物館の上級研究員、フレミング・カウル氏によれば、板張りの船としては北欧で最古とみられ、鉄器時代初期のスカンジナビアに高度な造船技術があったことを示している。

出発地をめぐっては、発掘直後にも詳しい研究が実施されていた。だが100年以上経った昨年になって、研究チームが船のコーキング(防水のためにすき間を埋める材料)や積み込まれていたロープを初めて分析し、大きな手がかりをつかんだ。

それまで、コーキングには地元で調達できるアマニ油や牛脂が使われたと考えられていた。ところが実際は、動物の脂肪と松ヤニの混合物だったことが分かった。

デンマークには当時、松林がほとんど存在しなかった。つまり、船は松林のあったバルト海沿岸部など、別の場所でつくられたと考えられる。その方面からやって来たとすれば長距離の航海だったことになり、組織的、計画的な襲撃だった可能性があると、チームは指摘する。

フォーベル氏によると、スカンジナビアではバイキング時代に代表される略奪と交易の航海史が、鉄器時代初期や青銅器時代まで何千年もさかのぼる深い根を持っていたことが分かる。現代と同じように、政治的な紛争や連合は地域の境界を越え、人々は相当遠く離れた相手とも接触していたと考えられる。

今回の研究に参加していないロスキレ博物館の上級研究員、オーレ・カストホルム氏も、コーキングに松ヤニが使われていたのは興味深い発見だと話し、ヒョルトスプリング船がバルト海周辺から襲来したとの説に同意している。

カストホルム氏はメールで「現代の私たちは古代人を過少評価しがちだが、実際には小舟をこいで北海やバルト海を渡っていた」と述べた。

同氏はさらに、博物館で収蔵品を保存管理することの重要性が示されたと強調した。「ヒョルトスプリング船が発掘された当時は、100年後に高度な専門技術が登場し、些細(ささい)な部分から知識が得られるようになることなどだれも想像しなかった。この船の地理的な起源を、正確に突き止められる日が来るよう願っている」

予想外の発見

板張りの船としては北欧で最古のものだと考えられている/Sahel Ganji/Lund University

研究チームは保管庫からコーキングの破片を取り出した時、完全な状態で保存されたロープも偶然発見し、中に含まれる放射性炭素で年代を測定した。

この測定法は発掘当時には存在せず、開発された後も船板には適用できなかった。博物館に展示するため、板には保存用の薬剤が使われていたためだ。しかしロープの年代測定で、船は紀元前4~3世紀につくられたと判明し、従来の推定と一致した。

そのうえさらに、指紋も見つかったというわけだ。フォーベル氏によればこの時期、この時代と地域の指紋は非常に珍しいという。

研究チームは現在、船の出発地を突き止めようと、船板のX線画像を調べている。フォーベル氏は、木の年輪が見えるかもしれないと語る。同氏によれば、チームはさらに、タールから古代のDNAを抽出することで、襲撃隊の出身地を特定できるのではと期待している。

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