人類史上最大の出会い、人はなぜ「炎」を使うようになったのか
人が人である理由。
人類がほかの生物と大きく違うところ、その1つが「火の使用」です。火の発見は、人類が発展するうえで、根本ともいえる第一歩だったといわれています。ただ、一体どんな経緯で「炎」を使用するにいたったのか、その経緯についてはよくわかっていません。
数十万年前、もしかしたら100万年以上前かもしれませんが、人類は火を起こす方法を発見しました。これは先史時代の人類の発展における最も重要な進歩の1つだったことはすでに証明されています。ただ、その起源はいまだ学者の間で論争が繰り広げられています。
食生活の変化が「炎」の必要性を生んだ
先月、Frontiers誌に掲載された研究で、テルアビブ大学の研究チームが新たな説を提唱しました。それは、動物から食料を守るため。そして、肉を燻製・乾燥させることで保存期間を延ばすため、だというのです。
いわば、先史時代の「スペック」ですね。研究者チームによると、今回の仮説はこれまで誰も提唱したことがなく、しかも今まで彼らが展開してきた理論にも矛盾していないというのです。
その理論とは、「人類が大型動物を消費し、大型動物の絶滅後には小型動物も食べるようになった。それが、先史時代の大きな発展を促した」というものです。
共著者のラン・バーカイ氏は声明で、次のように説明しています:
火の使用の起源は、世界中の先史学者にとって、文字通り“燃えるような”テーマです。
40万年前には、一般家庭で火が日常的に使われてきたことは、広く認められています。おそらく肉を焼くため、さらに照明や暖房としても使われていたのでしょう。
しかし、それ以前の100万年前については議論があり、初期の人類が火を使い始めた理由を説明するためにさまざまな仮説が提唱されてきました。
本研究では、この問題に対する新たな視点を探ろうとしました。
火を起こし、維持することは大変な重労働だった
共著者のミキ・ベン=ドール氏によると、約40万年以上前、ホモ・エレクトスといった初期の人類にとって「火」というのは「特定の場所で、特別な目的のために」使用するもので、その頻度もごくまれだったそうです。
火を起こし、維持することはとても労力のかかることで、「説得力のある、エネルギー効率の高い動機」がなければできなかったのです。
バルカイ氏とベン=ドール氏はそうした「動機」を調査するため、180万年前から80万年前までの遺跡9カ所に関する過去の研究を調査しました。これらはすべて、火が使用された痕跡が確認されている遺跡です。
そして、彼らは9カ所すべての遺跡で、ゾウやカバ、サイなどの大型動物の遺骨が多数発見されていることを発見しました。
ベン=ドール氏は次のように語っています。
過去の研究から、これらの動物が初期の人類の食生活に非常に重要であり、重要なカロリー源だったことがわかっています。たとえば、ゾウ1頭の肉と脂肪は数百万カロリーで、20~30人の集団が1カ月以上生きていくのに十分な量です。
(狩猟に成功したゾウやカバは)捕食動物だけでなくバクテリアからも狙われており、何日も保護・保存する必要のある“肉と脂肪の『銀行』”でした。
生きるためのカロリーを維持するために「炎」が必要だった
研究者チームは9つの先史時代の遺跡を分析。大型の獲物を保存することのメリット、そして現代における狩猟採集社会への観察を組み合わせ、人類が火を起こす動機となったのは、「肉の『銀行』を他の動物から守るため」、そして「長期保存のために燻製や乾燥を行うため」であったという考えに至りました。
まずはこうした目的で火を採用し、その後、調理にも使うようになった可能性があるとバーカイ氏は付け加えました。
研究者チームは、このアプローチは、先史時代の大きな変化は食生活の変化に対応したものであると考えられ、これまで展開されてきたよりも大きな理論を裏付けるものだと話しています。人類はまず大型動物の狩猟を行ない、それらの種が減少するにつれて、食料としてより小型の獲物に頼るようになりました。
「アイスマン」として知られる5000年ほど前の凍結ミイラ(エッツィ)やフロリダ南西部の古代ネイティブアメリカンなど、古代の人類が数千年前から肉の塩漬けや燻製を行なっていたことは既に知られていました。
しかし、今回発表された新たな理論は、このアプローチよりもさらに数十万年も前に遡り、先史時代を生きた人類の大きな発展を示す大きな発見と言えるでしょう。