女子枠批判はなぜ起こる?「学力に大差なし」芝浦工大副学長の反論(Hanasone)

 大学入試では、理工系学部が女子学生を増やすための「女子枠」入試を拡大している。東京科学大学(旧東京工業大学)が2024年度入試から大規模な女子枠入試を実施したところ、一般選抜の割合が縮小され、そのため男子学生を中心に反発が起き、SNSでも「逆差別だ」と批判の声が広がっている。 【写真特集】女子枠を批判する学内の学生と対話した芝浦工大の女性副学長  しかし芝浦工業大学は、こうした議論が盛んになるはるか以前の2018年度入試から、すでに女子枠入試を実施してきた。同大学で副学長を務めるシステム理工学部環境システム学科の磐田朋子教授に、女子枠への反発にどう向き合うかを聞いた。  ◇「女子枠」をスモールスタート  芝浦工大が女子枠を設けたのは2018年度からだ。  「当時は今のように注目されることもなく、広報的な意図は全くありませんでした。工業界にとって必要な選択として、ジェンダーギャップの解消が社会貢献につながるという信念からのスタートでした」と磐田副学長は振り返る。  導入にあたっては、学内の反対意見にも配慮した。  「女子にげたを履かせる」という意見が学内で上がることを予想し、まず女子学生が特に少ない機械・電気系の学科でごく小さな枠で開始した。女子枠を経て入学した学生の入学後の成績を、一般選抜入学者と継続的に比較しながら、「大学に入学してからの学びに問題がない」ことを確認しつつ、少しずつ拡大してきた。  「スモールスタートで進めたことで、『女子枠はちゃんとした選抜試験になっている』という確信が持てるようになりました。そのプロセスが大事だったと思っています」(磐田副学長)  女子枠の入試では、評定平均の基準を設けた上で、全学科で学力を測る基礎学力調査と面接を課す。物理の履修を必須条件とする学科も多い。  「女子枠は楽に入れるというイメージを持たれると困ります。全然実際とは違います」(磐田副学長)  実際、これまでに取材した高校の進路指導の先生たちは「芝浦工大の女子枠は特に“うまみ”はほぼない。指定校推薦と大きく差がない条件だ」と話す。  女子枠だけではなく、指定校推薦や総合型選抜で入学した学生は、入学直後は一般入試の学生との間に基礎学力の差が見られることもある。  しかし、芝浦工大では学習サポート室を設けて無料で個別に学習支援を提供し、「卒業時点では統計的に大きな差はない」という。  2027年度の女子枠(理工系女子特別選抜)の定員は182人で全体の約8・8%、そう大きい枠ではない。一方で芝浦工大全体の女子率は26・6%と上がっている。  なぜ、芝浦工大で女子率が上がったかというと、芝浦工大が地道に高校に対して呼びかけてきた効果が出ていると筆者は考える。女子校と教育連携協定を締結するなど、コツコツと高校側とコミュニケーションをとる努力をしてきた結果、女子率が上がっているように見える。  ◇急浮上した批判、SNSを通して拡大  これまで8年ほど、大きな反発なく運営してきた芝浦工大の女子枠だが、ここにきて状況が変わった。東京科学大学の理工系の女子枠が大規模に行われたことで、女子枠入試への反発が強くなっている。SNSを中心に女子枠批判が広がる中で、芝浦工大の学内の学生からも意見書が提出されるまでになった。  磐田副学長は「これまで一度もそういうことはなかったのに、ここに来て急に」と戸惑いを隠さない一方で、対話から逃げない姿勢だ。意見書を出してきた学内の学生とも対面で話し合いをした。  学生からは「高大接続でもっと早い段階から女子に理工系の魅力を伝えるべきでは」と問われ、「それはずっと前から一生懸命、地道にやっていて、それでも女子が増えなくて、だから女子枠入試をはじめた」と説明すると、「そういう取り組みが以前からされていたのを知らなかった」という反応が返ってきたという。  「こちらがどういう背景で、どんな歩みを経てきたのかを丁寧に説明すると、分かり合えるんだなと感じました」(磐田副学長)  ◇反対派ともきちんと対話をしていく  芝浦工大は近々、女子枠に対する大学としての考え方をまとめた文書を一般公開する予定だ。在学生に向けても、学外に向けても、選抜基準や導入の背景を丁寧に説明することで、根拠なき先入観の拡散を防ぐ狙いがある。  「女子枠で入ってきた学生が、学力が足りなかったのに入ったという目で見られるような風潮が広がることが、一番怖い」と磐田副学長。  近年、女子枠への反発が広がる主な理由について、磐田副学長はこう考えている。  「ほっといても女子学生が増えないという社会構造的な問題が、一般の人たちに広く認識されていないことが一番大きい。長い目で見れば絶対に女子学生を増やすことは必要なことなのに、“今この瞬間の入試”における逆差別という部分だけフォーカスされてしまう」  理解を促すために、今後もきちんと説明をしていくという。  ◇女子たちも感じる「女子枠」への違和感  「私たちの目的は女子を増やすこと自体ではなく、多様な視点を大学の学び合いの中に取り込むことです」(磐田副学長)  実際、一部の学科ではすでに女子学生比率が5割を超えるか、それに近い水準に達している。そうした学科については、女子枠の縮小・廃止をしていくという。  「女子が十分に集まれば、女子枠は役割を終えます」(磐田副学長)  今後は、一般入試を通じた女子学生の増加傾向も考えながら、柔軟に対応していく方針とのことだ。デザイン・建築・生命科学系は女子比率が比較的高いが、機械・電気系はまだ低く、この分野での取り組みは続く。  就職面では、女子学生の就職率が3年連続で100%を達成。企業側からの需要は非常に高い。  一方で学生側の情報収集が課題で、理工系女性の活躍の場がいかに広いかが、高校生にも在学中の学生にも十分に届いていないという。  また、学内の女子率が上がったことで、女子学生の中でも「女子だからと特別扱いされることへの違和感が生まれている」という。女子学生に特化したOGとの交流イベントにも学生が集まらなくなっている。  現在の女子学生は男女差はないという感覚で育ってきた。その彼女たちからすると「女子だから」という理由で男子と分けて扱われることに抵抗感があるのは当然かもしれない。  実際、塾や予備校を取材すると、女子高校生の中には「女子枠は受験しない。共学の大学で女子しか受けられない入試があるのは違和感がある」と話すケースもある。  女子枠に対する疑問の声にも、きちんと説明をする選択をした芝浦工大。今後の取り組みに引き続き注目したい。 (受験ジャーナリスト・杉浦由美子)

Hanasone
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