東京国際映画祭のグランプリは「パレスチナ36」、福地桃子・河瀨直美が最優秀女優賞
第38回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが本日11月5日に東京・TOHOシネマズ 日比谷で開催され、各部門の受賞結果が発表された。
ジャーナリストで作家のカルロ・シャトリアンが審査委員長、俳優のグイ・ルンメイ、編集者のマチュー・ラクロー、監督・俳優の齊藤工、監督・プロデューサーのヴィヴィアン・チュウが国際審査員を務めたコンペティション部門。東京グランプリ / 東京都知事賞には「パレスチナ36」が選ばれた。
英国委任統治時代のパレスチナを舞台とする「パレスチナ36」では、アラブ人たちが起こした民族主義的な反乱が描かれる。このたびの受賞に際して、監督のアンマリー・ジャシルからはビデオメッセージが到着。代理でトロフィーを受け取ったキャストのワーディ・エイラブーニは「東京に来られてうれしいです。この受賞はあまりに大きな意味があること。チームの皆様に感謝しています」とほほえんだ。審査委員特別賞はリティ・パンが監督を務めた「私たちは森の果実」、最優秀監督賞は「春の木」のチャン・リュル、「裏か表か?」のアレッシオ・リゴ・デ・リーギとマッテオ・ゾッピスが獲得。観客賞には岩田剛典(三代目 J SOUL BROTHERS)が主演を務めた「金髪」が選ばれた。
最優秀女優賞を贈られたのは「恒星の向こう側」の福地桃子、河瀨直美。福地は「映画が撮影されたのは1年前。主人公の未知という人物を見つめ、追いかけて、溶け合っていくような時間は1人では乗り越えられなかった。多くの人の支えによって、映画の中にちりばめられた言葉や感情が未知の内側を引き出してくれました」と喜びをあらわに。「この先自分がどんなふうに歳を重ねていくのかわかりませんが、この経験を胸に1つひとつの作品にまっすぐ向き合っていきたい」と言葉を紡ぐ。
俳優としてトロフィーを手にした河瀨は「この場に立てたのは中川(龍太郎)監督はじめスタッフのおかげ。自分のすべてを出し切れました」と胸がいっぱいの様子で、「福地さんとは衣装合わせの頃からあまり話さないという、徹底した“役積み”をしていました『嫌われたかな?』と思いながらも、最後に彼女の温かさを背負った瞬間に涙があふれました。人はそんなふうに誰かの温かみを自分のものとして感じたとき、『生きていてよかった』と思える生き物なんだと」とコメント。「ちなみに中川監督は私の最新作に俳優として参加しているんです。表現者が立場を越えてつながり合っています」と充実感をにじませた。
最優秀男優賞は「春の木」のワン・チュアンジュンが受賞。彼は「私自身は目立つのが非常に怖くて、プレッシャーを感じてしまうことが多いんです」とポツリ。「共演のリウ・ダンさんの演技が光となって、陰にいる私を照らしてくれました。今度は私がほかの人を照らす光になれたらいいなと思います。母校の上海戯劇学院が創立80周年を迎えるので、いいギフトにもなりました」と晴れやかな様子を見せる。最優秀芸術貢献賞を獲得した「マザー」の監督テオナ・ストゥルガル・ミテフスカは「50歳を過ぎ、ようやく18歳の少年のような大胆さを身に着けられました。この映画が女性に力を与えることを祈っています。私たちに力を!」と語りかけた。
アジアの未来部門の作品賞に選ばれたのは「光輪」。監督のノ・ヨンワンは「影の中にいる人が、光を目指して進んでいく映画です。宅配ドライバーをしている主人公をはじめ、普段見えないところで生活をしている平凡な市民の物語が描かれます」と同作を紹介したあと「今日はプロデューサーでもある妻の誕生日なんです。喜びを分かち合いたい」と話した。
クロージングセレモニーの終了後、東京・LEXUS MEETS…では受賞者会見が実施された。「パレスチナ36」のエイラブーニは、ラストシーンについて質問されると「監督からは役になりきるのではなく『あなたのままでいいの』『あなたがこの状況に置かれたらどう感じる?』と伝えられ、自らが思うまま演じさせていただきました。観ていて痛ましくつらい映画ではありますが、終盤はある種ハッピーエンドだとも思っています」と回答する。リティ・パンは「私たちは森の果実」がカンボジアの先住民ブノン族を題材とするドキュメンタリーであることに触れつつ「絶対に彼らの言語で撮りたいと思い、私は観察者に回って手作業や文化・伝統を捉えていきました」と述懐。「資本主義によってさまざまなことが破壊され、危機に瀕しています、私たちの周辺だけでなく、遠くで違う生き方をしている人も同様に傷を負っているのだということを伝えたかった」と本作に込めたメッセージを口にする。「金髪」の監督・坂下雄一郎は「日本の独特な“校則”が題材だったので、『国際映画祭の観客に伝わるかな?』と思っていたのですが、このような結果をいただけてホッとしています」と安堵の表情を浮かべた。
加えてチャン・リュルは「春の木」に複数の方言が登場することの意図を問われると、「登場する言葉を理解できる人とできない人では、同じ映画を観ていても受け止め方に差が生じますよね。監督としてその差をどう埋めていくのかが大切。私はまだまだ腕が足りないですが、その表現に努力しました」と答える。「裏か表か?」のプロデューサーを務めたアレックス・C・ローは、共同監督を務めた2人の協業を「個性がまったく違う“でこぼこコンビ”なのですが、非常にいいタッグで、センスを組み合わせるとうまくいくんです。彼らはイタリア民話が好きで、今作でもそれをどう新しく表現するかに挑みました」と振り返った。
第38回東京国際映画祭の受賞結果は下記の通り。
第38回東京国際映画祭 受賞結果
コンペティション部門
東京グランプリ / 東京都知事賞
「パレスチナ36」
審査委員特別賞
「私たちは森の果実」
最優秀監督賞
チャン・リュル(「春の木」)アレッシオ・リゴ・デ・リーギ、マッテオ・ゾッピス(「裏か表か?」)
最優秀女優賞
福地桃子、河瀨直美(「恒星の向こう側」)
最優秀男優賞
ワン・チュアンジュン(「春の木」)
最優秀芸術貢献賞
「マザー」
観客賞
「金髪」
アジアの未来部門
アジアの未来 作品賞
「光輪」
黒澤明賞
特別功労賞
東京国際映画祭エシカル・フィルム賞
「カザ・ブランカ」
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