アタッキングフットボールの陰に、マリノス伝統の堅守あり。 歴史で勝ち取った価値ある1勝だ [J18節 鹿島戦レビュー] (無料記事)

一気呵成の3得点

トリパラの花が満開に咲き誇った。316日のガンバ大阪戦以来、実に70日ぶりの勝利だ。ゴール裏を中心として日産スタジアムに駆け付けたファン・サポーターは、舞い、踊り、そして笑って泣いた。

ゴールショーの幕開けを告げたのは永戸勝也の右足だ。「どちらも得意」と豪語する利き足とは反対足でのシュートが、低い弾道でサイドネットに突き刺さる。キックオフからわずか4分の出来事だった。

ゴールに至る過程も見事で、GK飯倉大樹の鋭いパントキックが右サイドの加藤蓮へ。加藤のクロスはファーサイドに流れたが、遠野大弥の折り返しからアンデルソン・ロペスが粘り強くシュートへ持ち込み、こぼれ球に反応したのが背番号2である。

「気持ち的に思い切りやることが大事だし、自分もシュートを得意としている。迷わず打つことがいいコースに飛ぶと僕は思っていて、結果的にそうなったと思う」。永戸は安堵とともに今季初ゴールを喜んだ。

試合の趨勢を決めるという意味で、テンポ良く追加点を奪えたことに大きな意味があった。13分、喜田拓也の縦パスに反応したロペスがダイレクトでつなぎ、3人目の動きで走り込んだ山根陸が相手をあざ笑うかのようなラストパス。ヤン・マテウスは得意の角度から左足で流し込むだけだった。

27分にもショートカウンターからヤンが華麗なゴールを決めて3-0。その直後のピンチには、三竿健斗の際どいヘディングシュートに対して飯倉大樹が左手一歩のファインセーブを披露する。自身がゴールマウスを守るようになってから5試合目でようやく手にした白星に、チーム最年長の守護神は殊勝に言う。

「何で自分はここにいるのか自問自答をこの4試合プレーしていた。そういう意味でこの結果につながってくれたことで、自分にとっての最低限の仕事をできたかなと思っている。自分が勝たせることができれば、それは良しとなる。自分のプレーがどうのこうのではなく、結果として勝ちにつながってくれたことがよかった」

まさしくチーム一丸。全員の力で掴み取った勝ち点3の味は格別だ。

自陣ゴール前での守備を選択

この試合で記録したマリノスのポゼッション率は34%。約3分の1で、多くの時間帯は鹿島アントラーズがボールを持っていた。必然的に押し込まれる時間帯も長くなり、自陣で守る時間は増えた。

ならば両センターバックの奮闘を記さないわけにはいかない。

彼らの頑張りを称えると同時にチームとしての守り方が一本化されていたことを明かしたのは左サイドバックの永戸だ。

「守り方としては2つで、荒木選手にタイトに付いて前を向かせないのか、そこからパスを通されても頑張って戻ってゴール前で守るのか。あそこでパスを通されてもセンターバックの2人が戻りながら触ってくれたシーンがあったし、そうやって守ることができたので失点につながらなかった」

バイタルエリアで巧みにフリーになる荒木遼太郎が厄介な存在で、結果として攻撃の起点を作られて自陣左サイドを何度も突かれた。ただ、マリノスの選択は自陣ゴール前での耐久力を上げること。中途半端なアプローチを避け、最後の最後で守り切る意思統一ができていた。

本職ではないセンターバックで獅子奮迅の活躍を見せた松原はMOM候補のひとりだろう。

「不運な失点もあったし、オウンゴールしそうな場面も23回あったので、ギリギリで綱一本を渡ったかなという感じ。分析のところで相手のストロングポイントはわかっていたので、クロス対応のところは集中しようとディフェンスラインやボランチの選手と話をしていた。相手のストロングポイントを消してこそ自分たちに運が回ってくるし、流れを掴める」

一気呵成の3得点は間違いなく大きかったが、それを生かすも殺すも自分たち次第。2点を先行しながら逆転負けした清水エスパルス戦のような悔しい例もある。だからこそ松原は「今はただ目の前の試合に対して勝ちたいという気持ちを出すしか僕にはない。センターバックのセオリーのところをいま一度確認して落とし込んでやっているだけ。特に何が良かったとかはほぼほぼないけど、今は内容よりも結果が重要なので、まず勝ててよかった」と慎重に言葉を紡ぐ。

アタッキングフットボールの陰に、マリノス伝統の堅守あり。歴史で勝ち取った価値ある1勝だ。

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