安青錦と安治川親方の絆が生んだ金星と殊勲星 話し方も似てきた!?

3日目、豊昇龍を破った安青錦

<大相撲名古屋場所>◇4日目◇16日◇IGアリーナ

ウクライナ出身の安青錦(21=安治川)が連日、土俵をわかせている。3日目は横綱豊昇龍を破った。初土俵から12場所目での初金星は史上最速だった(年6場所制以降、付け出しのぞく)。4日目は関脇若隆景に勝った。その裏には、師匠の安治川親方(元関脇安美錦)との信頼関係があった。

まずは3日目のこと。豊昇龍戦に向け、部屋を出発する前の安青錦に、安治川親方が声をかけた。「心配そうな顔をしてたからね。大丈夫だって。『オレが大丈夫だって言って、大丈夫じゃなかったことあるか?』って言った。『大丈夫だから安心しろ』って」。安治川親方は、安青錦の力を信じているからこそ、気持ちを落ち着かせた。安青錦は、師匠の言葉を信じた。

そして安青錦は金星を挙げた。

NHKのインタビューは、次の通りだった。

-初金星です。おめでとうございます

「ありがとうございます」

-横綱に勝ちました。今どんな気持ちですか

「うれしいです」

-今日の内容振り返ってどうですか

「(上体が)起きなかったんでよかったです」

-豊昇龍関の強い投げにもついていきました。あのあたりは、意識はありましたか

「体勝手に動いただけです」

-昨日に続いて結びの一番でした。昨日の経験は今日に生きましたか

「ちょっと分からないです」

-序ノ口から初土俵という中でいくと、最も早い金星獲得になりました。このあたりはどうですか

「あんまり意識してないです」

-ここまで2場所連続11番勝って敢闘賞受賞、東の筆頭まで上がってきました。自分の力が今、幕内の土俵、上位でも通じている、そんな感覚はありますか

「まったくないっす」

-どういうことを意識して毎日土俵に上がっていますか

「まあ、自分の相撲を取りきることです」

-横綱大関戦3連戦で2勝1敗、この先につながっていきそうでしょうか

「これから長いんで、1日1番しっかりやっていきたいです」

-おめでとうございます

「ありがとうございます」

表情は変えず、淡々とした受け答えだった。でも、それが良かった。力士らしかった。

安治川親方は金星の瞬間をテレビで見た。その後、ネットで「インタビューが安美錦っぽくない」とか「面白くない」と書き込まれていることを知った。

安美錦は、インタビュールームでも業師だった。アナウンサーとウイットに富んだ受け答えを繰り返し、視聴者を楽しませる余裕まであった。

そんな安美錦の初金星は、24歳の時。横綱貴乃花に引退を決断させた一番だった。インタビューがあったのかも、何を話したのかも覚えていない。冗談を言えるような状況ではなかったことは確か。

だから、安青錦のインタビューにも「まだそんな余裕はない。あれでいい」。多くを語らず、相手を思いやる。そんな語り口は「そういう話もしているけど、本人も気をつけている」という。

「話し方が安美錦に似ている」という書き込みも知ったが「よく話すから似てきたのかもしれない」と、うれしそうに教えてくれた。

打ち出し後、金星を挙げた安青錦が部屋に戻り、あいさつに来た。記念の懸賞袋を1つ持ってきた。

「いらないよって言ったんだけどね。1本持ってきたから(受け取った)」

安治川親方にとっても、記念の初金星になった。

そして4日目。

安治川親方は、安青錦に「オレが土俵下で見ている時は、負けてないから大丈夫」と声をかけた。審判委員として、幕内後半が出番だった。

すると、安青錦は若隆景に勝った。

師匠が審判に入った時に、必ず勝っているとは限らないが、信じることで落ち着けたのかもしれない。

IGアリーナから部屋への帰路は、マネジャーが運転する車に師弟が揃って乗り込んだ。「じゃあねえ」と言って後部座席に滑り込んだ安治川親方は、スライドドアが閉じる間もなく、安青錦とがっちり握手をかわしていた。【佐々木一郎】


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3日目、豊昇龍を破った安青錦

<大相撲名古屋場所>◇4日目◇16日◇IGアリーナ

ウクライナ出身の安青錦(21=安治川)が連日、土俵をわかせている。3日目は横綱豊昇龍を破った。初土俵から12場所目での初金星は史上最速だった(年6場所制以降、付け出しのぞく)。4日目は関脇若隆景に勝った。その裏には、師匠の安治川親方(元関脇安美錦)との信頼関係があった。

まずは3日目のこと。豊昇龍戦に向け、部屋を出発する前の安青錦に、安治川親方が声をかけた。「心配そうな顔をしてたからね。大丈夫だって。『オレが大丈夫だって言って、大丈夫じゃなかったことあるか?』って言った。『大丈夫だから安心しろ』って」。安治川親方は、安青錦の力を信じているからこそ、気持ちを落ち着かせた。安青錦は、師匠の言葉を信じた。

そして安青錦は金星を挙げた。

NHKのインタビューは、次の通りだった。

-初金星です。おめでとうございます

「ありがとうございます」

-横綱に勝ちました。今どんな気持ちですか

「うれしいです」

-今日の内容振り返ってどうですか

「(上体が)起きなかったんでよかったです」

-豊昇龍関の強い投げにもついていきました。あのあたりは、意識はありましたか

「体勝手に動いただけです」

-昨日に続いて結びの一番でした。昨日の経験は今日に生きましたか

「ちょっと分からないです」

-序ノ口から初土俵という中でいくと、最も早い金星獲得になりました。このあたりはどうですか

「あんまり意識してないです」

-ここまで2場所連続11番勝って敢闘賞受賞、東の筆頭まで上がってきました。自分の力が今、幕内の土俵、上位でも通じている、そんな感覚はありますか

「まったくないっす」

-どういうことを意識して毎日土俵に上がっていますか

「まあ、自分の相撲を取りきることです」

-横綱大関戦3連戦で2勝1敗、この先につながっていきそうでしょうか

「これから長いんで、1日1番しっかりやっていきたいです」

-おめでとうございます

「ありがとうございます」

表情は変えず、淡々とした受け答えだった。でも、それが良かった。力士らしかった。

安治川親方は金星の瞬間をテレビで見た。その後、ネットで「インタビューが安美錦っぽくない」とか「面白くない」と書き込まれていることを知った。

安美錦は、インタビュールームでも業師だった。アナウンサーとウイットに富んだ受け答えを繰り返し、視聴者を楽しませる余裕まであった。

そんな安美錦の初金星は、24歳の時。横綱貴乃花に引退を決断させた一番だった。インタビューがあったのかも、何を話したのかも覚えていない。冗談を言えるような状況ではなかったことは確か。

だから、安青錦のインタビューにも「まだそんな余裕はない。あれでいい」。多くを語らず、相手を思いやる。そんな語り口は「そういう話もしているけど、本人も気をつけている」という。

「話し方が安美錦に似ている」という書き込みも知ったが「よく話すから似てきたのかもしれない」と、うれしそうに教えてくれた。

打ち出し後、金星を挙げた安青錦が部屋に戻り、あいさつに来た。記念の懸賞袋を1つ持ってきた。

「いらないよって言ったんだけどね。1本持ってきたから(受け取った)」

安治川親方にとっても、記念の初金星になった。

そして4日目。

安治川親方は、安青錦に「オレが土俵下で見ている時は、負けてないから大丈夫」と声をかけた。審判委員として、幕内後半が出番だった。

すると、安青錦は若隆景に勝った。

師匠が審判に入った時に、必ず勝っているとは限らないが、信じることで落ち着けたのかもしれない。

IGアリーナから部屋への帰路は、マネジャーが運転する車に師弟が揃って乗り込んだ。「じゃあねえ」と言って後部座席に滑り込んだ安治川親方は、スライドドアが閉じる間もなく、安青錦とがっちり握手をかわしていた。【佐々木一郎】


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3日目、豊昇龍を破った安青錦

<大相撲名古屋場所>◇4日目◇16日◇IGアリーナ

ウクライナ出身の安青錦(21=安治川)が連日、土俵をわかせている。3日目は横綱豊昇龍を破った。初土俵から12場所目での初金星は史上最速だった(年6場所制以降、付け出しのぞく)。4日目は関脇若隆景に勝った。その裏には、師匠の安治川親方(元関脇安美錦)との信頼関係があった。

まずは3日目のこと。豊昇龍戦に向け、部屋を出発する前の安青錦に、安治川親方が声をかけた。「心配そうな顔をしてたからね。大丈夫だって。『オレが大丈夫だって言って、大丈夫じゃなかったことあるか?』って言った。『大丈夫だから安心しろ』って」。安治川親方は、安青錦の力を信じているからこそ、気持ちを落ち着かせた。安青錦は、師匠の言葉を信じた。

そして安青錦は金星を挙げた。

NHKのインタビューは、次の通りだった。

-初金星です。おめでとうございます

「ありがとうございます」

-横綱に勝ちました。今どんな気持ちですか

「うれしいです」

-今日の内容振り返ってどうですか

「(上体が)起きなかったんでよかったです」

-豊昇龍関の強い投げにもついていきました。あのあたりは、意識はありましたか

「体勝手に動いただけです」

-昨日に続いて結びの一番でした。昨日の経験は今日に生きましたか

「ちょっと分からないです」

-序ノ口から初土俵という中でいくと、最も早い金星獲得になりました。このあたりはどうですか

「あんまり意識してないです」

-ここまで2場所連続11番勝って敢闘賞受賞、東の筆頭まで上がってきました。自分の力が今、幕内の土俵、上位でも通じている、そんな感覚はありますか

「まったくないっす」

-どういうことを意識して毎日土俵に上がっていますか

「まあ、自分の相撲を取りきることです」

-横綱大関戦3連戦で2勝1敗、この先につながっていきそうでしょうか

「これから長いんで、1日1番しっかりやっていきたいです」

-おめでとうございます

「ありがとうございます」

表情は変えず、淡々とした受け答えだった。でも、それが良かった。力士らしかった。

安治川親方は金星の瞬間をテレビで見た。その後、ネットで「インタビューが安美錦っぽくない」とか「面白くない」と書き込まれていることを知った。

安美錦は、インタビュールームでも業師だった。アナウンサーとウイットに富んだ受け答えを繰り返し、視聴者を楽しませる余裕まであった。

そんな安美錦の初金星は、24歳の時。横綱貴乃花に引退を決断させた一番だった。インタビューがあったのかも、何を話したのかも覚えていない。冗談を言えるような状況ではなかったことは確か。

だから、安青錦のインタビューにも「まだそんな余裕はない。あれでいい」。多くを語らず、相手を思いやる。そんな語り口は「そういう話もしているけど、本人も気をつけている」という。

「話し方が安美錦に似ている」という書き込みも知ったが「よく話すから似てきたのかもしれない」と、うれしそうに教えてくれた。

打ち出し後、金星を挙げた安青錦が部屋に戻り、あいさつに来た。記念の懸賞袋を1つ持ってきた。

「いらないよって言ったんだけどね。1本持ってきたから(受け取った)」

安治川親方にとっても、記念の初金星になった。

そして4日目。

安治川親方は、安青錦に「オレが土俵下で見ている時は、負けてないから大丈夫」と声をかけた。審判委員として、幕内後半が出番だった。

すると、安青錦は若隆景に勝った。

師匠が審判に入った時に、必ず勝っているとは限らないが、信じることで落ち着けたのかもしれない。

IGアリーナから部屋への帰路は、マネジャーが運転する車に師弟が揃って乗り込んだ。「じゃあねえ」と言って後部座席に滑り込んだ安治川親方は、スライドドアが閉じる間もなく、安青錦とがっちり握手をかわしていた。【佐々木一郎】

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