ウクライナの新型自爆ドローン(カナード付きクリップトデルタ翼)について飛行中の映像と墜落残骸を比較(JSF)
2025年7月にウクライナ軍が新型自爆ドローンでロシア領に対して長距離攻撃を仕掛けたことが映像で確認されましたが、その新型機の大きな特徴は「カナード付きクリップトデルタ翼」という形式でした。他の部分の特徴は機体後部にエンジンと推進プロペラ、翼端に垂直安定板という、ロシア軍のシャヘド136自爆無人機と似ている設計です。
2025年7月、ロシアのロストフ州のシャフティ
2025年7月、ロシアの北カフカスのスタヴロポリ
カナード付きクリップトデルタ翼
カナード(canard)とは仏語のカナール(鴨)の英語読みで、機体前方の小翼を意味しています。ウクライナの新型機は揚力を発生させる目的のカナードで、機体前方に重い弾頭を搭載したことに対する釣り合いを取る設計の意図だと推定できます。
クリップトデルタ(Clipped Delta)とはデルタ(三角形)の主翼の翼端をカットした形状の主翼です。ウクライナの新型機はこのカット量が非常に大きいのが特徴です。航続力よりも高速性を取った設計です。
このウクライナ新型自爆ドローンは4気筒レシプロエンジンが機体後部にあるプロペラ推進式です。大きさはロシア軍のシャヘド136自爆無人機と比べるとやや小さいくらいのサイズだと思われます。上記の設計からシャヘド136と比較すると射程は短く、速度はやや高速であり、弾頭重量は同程度(50kg前後)かそれ以下だと思われます。
2025年4月、ヘルソン(露占領地域)に落下した宇無人機
これに先立つ2025年4月25日に、ロシアが任命した傀儡ヘルソン州知事ウラジーミル・サルド氏のテレグラム投稿にウクライナ軍の新型自爆ドローンの残骸が報告されているのですが、これが7月に飛行の様子が目撃された「カナード付きクリップトデルタ翼」の新型機とよく似ています。4月に発見された残骸は機首が脱落しておりカナード小翼の部品は見当たりませんが、デルタ主翼の翼端カット量が非常に大きい特徴が酷似しています。出典:Владимир Сальдо
ロシアが任命した傀儡ヘルソン州知事ウラジーミル・サルドより宇無人機の残骸ロシアが任命した傀儡ヘルソン州知事ウラジーミル・サルドより宇無人機の残骸ロシアが任命した傀儡ヘルソン州知事ウラジーミル・サルドより宇無人機の残骸:弾頭※墜落ドローンの残骸には機体左にウクライナ国籍マーク(青色と黄色のラウンデル)と、機体中央に英語で「ARMY OF DRONES」の書き込みが見える。後者はウクライナ軍に寄付を呼び掛けてドローン軍団を作ろうという公的な運動の標語。
※墜落ドローンの残骸の動翼であるエレベーター(昇降舵)に書かれたウクライナ語「НЕ БРАТИСЯ」の意味は「手で掴むな」であり、可動部品なのでここに荷重を掛けて持ち運ぶことを禁止する注意書き。なおロシア語では「НЕ БРАТЬСЯ」でありシャヘド136の同様の部品にも書き込まれている。
※4気筒エンジンを搭載している。
2025年4月の墜落残骸と7月の飛行機体の形状比較
左:SNS投稿より2025年7月の宇新型無人機、右:傀儡ヘルソン州知事より宇無人機の残骸※デルタ翼の翼端カット量が非常に大きい特徴が酷似。
※残骸は部品の脱落が多い。機首部分、右主翼端の垂直安定板は見当たらない。左右のエルロン(補助翼)は外れており主翼の上に置かれている。弾頭は離れた場所で発見されている。
おそらく2025年7月にロシア領への攻撃で飛来し撮影された飛行中の映像の機体と、2025年4月にヘルソン(ロシア支配地域)に落下し発見された残骸は、同一の機種ではないかと推定します。
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