疑われた「17stop」と、 DJI「Osmo Pocket 4P」が映した「光」の正体

17stop。 DJI「Osmo Pocket 4P」のスペックを初めて目にしたとき、正直なところ、その数字をすぐには信じられなかった。

近年、シネマカメラの世界では16〜17stopというダイナミックレンジを掲げるモデルは珍しくない。しかし、スペックシートに記された数字と、実際にカラーグレーディングで引き出せるラチチュードは、必ずしも一致しない。ましてや撮影環境が十分でなければ、その結果は散々なものにもなり得る。

私は普段、LEICA SL3やBlackmagic Cinema Camera 6K FFといったカメラボディを使いながら作品を制作している。スペック的にはダイナミックレンジに秀でたシネマカメラではない。とはいえ、それが劣るかといえばそうでもなく、個人的には十分に満足している。その経験から、カメラを評価するときはスペックではなく、「編集耐性」で判断するクセがついているのかもしれない。

「がっかりする」ことの方が実際には多い。特にスマートフォンや小型カメラの領域においては散見されるが、それはミラーレスから派生したシネマ機についてもいえることだろう。

実際には数値上のダイナミックレンジに優れたカメラを使うことよりも、現場の光を読んだり、キーライトをしっかりとコントロールすることの方が大事であり、それが結果に直結することを知っているつもりだ。

          スチールの性能も侮れないOsmo Pocket 4P(上 20mm 下 60mm) ※画像をクリックして拡大

だから今回も、期待はそこそこに、まずはテストシュートを行うことにした。

展示会の帰り道、友人の運転する車の助手席から曇天の東京を映した後は、DJI mimoアプリ経由でiPhoneに読み込んでLiitを使い、LUTをあてつつ簡単にカラーを整えてみた。

そこで、思わずタイムラインを止めた。

撮影したのは、決してドラマチックな光ではない。梅雨時のどんよりとした車窓だ。

しかし、一見フラットに見えた空には、雲の厚みや重なり、わずかな光の差まで豊かな階調として残されていた。ハイライトへ向かうグラデーションは滑らかで、白へ転ぶ寸前の情報まで失われていない。それはサイズとしては同じ1インチのセンサーを備えた、前機種のOsmo Pocket 3からかけ離れた、まるで違う景色だった。

その瞬間、私の興味は「17stopあるらしいカメラ」から、「なぜ、この映像が撮れるのか」へ変わっていった。

          ひきとよりの画角の違い(上 20mm 下 60mm)※画像をクリックして拡大

その答えを探っていく中で、最も興味深かったのが、Osmo Pocket 4Pに採用されたLOFIC(Lateral Overflow Integration Capacitor)というセンサー技術だった。

一般的なイメージセンサーは、受け止められる光の量に限界がある。

その限界を超えた瞬間、画素は飽和し、ハイライトは白飛びとして失われる。

LOFICは、その余剰となる電荷を画素内に設けられた専用の蓄積領域へ一時的に逃がすことで、飽和そのものを抑制する。

つまり、後から白飛びを補正する技術ではない。

失われるはずだった光を、その瞬間にとどめる技術なのである。

この発想が非常に面白い。

逆光では空の階調がしっかりと残り、木漏れ日では葉の質感が白く飛ばない。夕景では雲の立体感や空気の厚みまで描き出してくれる。

LOFICが生み出しているのは、単なるダイナミックレンジではない。

作品へ仕上げるための「光の情報」そのものなのだ。

     iPadのDJI mimoアプリを使った際の転送速度も申し分ない※画像をクリックして拡大

D-Log 2は、その光を作品へと橋渡すためのフォーマット

しかし、光をとどめるだけでは作品にはならない。

どれほど豊富な情報をセンサーが取得しても、それを記録するフォーマットが受け止められなければ、その情報は失われてしまう。

そこで重要になるのが「D-Log 2」だ。

まれにLogで撮ったものの、グレーディングの甘い映像を見かけることがあるが、Logは眠い映像を撮るためのものではない。

撮影現場で映像を完成させるのではなく、カラーグレーディングという最後の工程で、クリエイター自身が光や色、空気感を表現するための余白を残すための仕組みだ。

D-Log 2は、LOFICがとどめた光を、10bitという豊富な階調情報のまま編集工程まで届けてくれる。

DaVinci Resolveでグレーディングを進めると、その恩恵はすぐに実感できた。

ハイライトを戻しても色が崩れない。シャドウを持ち上げてもノイズが暴れない。空だけを落としても階調が滑らかにつながり、不自然なトーンジャンプが起こりにくい。極端なカラーグレーディングにも映像がしなやかについてくる。

それは単純にLogだからではない。

Logへ記録できるだけの情報を、LOFICが最初から持っているからである。

私は今回、この二つを別々の機能として見るべきではないと感じた。

LOFICは、光をとどめる技術。

D-Log 2は、その光を最大限に表現へ落とし込むためのフォーマット。

センサーが光を受け止め、D-Log 2がその光を作品制作の最後まで運び、カラーグレーディングによって初めてクリエイターの表現へ昇華される。

この流れがあって初めて、「17stop」という数字はスペックシート上の値ではなく、クリエイターが実際に使えるラチチュードになる。

ここには、センサーと記録フォーマットを別々に考えるのではなく、一つの映像品質を目指して設計したDJIの思想が見えてくる。

DJIはこれまでも、画質を大きく進化させる局面では、Mavic 3シリーズで4/3型CMOSセンサーを採用したように、センサーサイズそのものを拡大するアプローチを選んできた。

しかしOsmo Pocket 4Pは違う。

センサーサイズは前モデルと同じ1インチのまま、LOFICというセンサー構造の進化によって、映像表現そのものを一段引き上げてきたのである。

     Mavicなどのドローンと同じ仕様でフィルターの取り付けができる※画像をクリックして拡大

キヤノン「DGO」とは、目指す場所は同じでも、たどる道が違う

このLOFICという技術を見ていて、真っ先に思い浮かんだのがキヤノンの「DGO」(Dual Gain Output)だった。

キヤノンはCINEMA EOSシリーズでDGOという独自技術を磨き、それをEOS C70やEOS C300 Mark IIIへ投入した。

DGOは、一つの画素を異なるゲインで同時に読み出し、ハイライト用とシャドウ用、それぞれに最適化された信号をリアルタイムで合成することで、広いダイナミックレンジを実現している。

一方、LOFICは合成という考え方ではない。

画素そのものが飽和しにくい構造を持ち、物理的に光をとどめることでハイライトを守っている。

つまり、キヤノンは「読み出し」でダイナミックレンジを広げ、DJIは「センサー構造」でダイナミックレンジを広げた。

どちらが優れているという話ではない。同じ山頂を目指しながら、まったく異なるルートを選んだ技術者たちの思想がそこにはある。しかも、アクションカメラ的な用途を目指した場合には、DJIの設計の方がハイスピード領域において実用度は高い。

     Osmo Pocket 4PとOsmo Pocket 3、カメラ部分以外はほとんど同じ大きさに感じた※画像をクリックして拡大

RED V-RAPTORとの思想の違い

さらに興味深いのは、RED V-RAPTORとの違いだ。

V-RAPTORは大型センサーとREDCODE RAWによって、映画制作を前提とした圧倒的な情報量を持つ。

一方、Osmo Pocket 4Pは、1インチという物理的な制約の中で、LOFICによって光をとどめ、D-Log 2によってその光を最後まで守り抜くことを目指している。

V-RAPTORが「より多くの情報を取りにいくカメラ」だとすれば、Osmo Pocket 4Pは「失われる情報を極限まで減らすカメラ」なのである。

同じ17stopという言葉でも、その設計思想はまったく異なる。

トラッキングしながらのズームインとズームアウトも精度が高い model : nonu

     D-Log2 10bitの設定では、ズームできないのが残念だ※画像をクリックして拡大

作品づくりの頼れる一台へ

Pocketシリーズはこれまで、「このサイズなのにブレずによく撮れる」という驚きで語られることが多かった。スポーツ系をはじめとする、多くのインフルエンサーに支持されるのも理解できる。

しかしOsmo Pocket 4Pは、その評価をプロからも支持される実用的なカメラへと変えうるポテンシャルを秘めている。

小さいから選ぶカメラではない。手軽だから持ち出すカメラでもない。この画を撮りたいから、このカメラを選ぶ。

このLogフッテージが撮れるなら、これまで大型機材を持ち出していたシーンの一部を置き換えられる可能性すら感じた。

映像とは、あらゆるシチュエーションの中で、目の前に広がる光景を記録する仕事である。

LOFICは、その一瞬で失われるはずだった光を受け止める。D-Log 2は、その光をカラーグレーディングという表現の追い込み段階まで丁寧に運び、撮影者・編集者が思い描いた色や空気感へと育てていく。

つまり、この二つは独立した技術ではない。

一つは「光をとどめる」ための技術であり、もう一つは「その光を表現に落とし込む」ためのフォーマットなのである。

     撮影協力 : Sentido

※画像をクリックして拡大

     テーブルフォトにも十分の画質だ※画像をクリックして拡大

まとめ

     ※画像をクリックして拡大

私は今回、このカメラを使ってあらためて、「17stop」という数字の意味を理解した。

それは、センサー性能を誇示するためのスペックではない。

クリエイターが目の前の光と向き合い、その瞬間の空気や温度、感情までも映像へ込めるために存在する余白だった。

疑われた「17stop」。

EOS C70の16+stop、RED V-RAPTORの17+stop、そしてOsmo Pocket 4Pの17stop。 近い数字が並んでいても、その設計思想は決して同じではない。 キヤノンはDGOという読み出し技術で光を守り、REDは大型センサーとRAWワークフローによって膨大な情報量を記録する。そしてOsmo Pocket 4Pは、LOFICによって失われるはずだった光をとどめ、D-Log 2によってその光を作品へと受け渡していく。

だから比較すべきなのは、数字ではない。

その数字を、どのような思想で実現し、どのように作品へ結びつけているか。

その答えは、スペックシートの中にはなかった。

撮影し、グレーディングし、一つの作品へ仕上げたその映像の中にこそ、それぞれのメーカーが「光」とどう向き合い、どのような映像表現を目指してきたのか、その思想が確かに刻まれていたのである。

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