破天荒ぶり健在…異端児ブリアトーレが十数年ぶりに公式会見に―ホーナーも思わず。何を語り、何を煙に巻いたのか?

2025年F1第9戦スペインGP初日、カタロニア・サーキットのメディアセンターに一人の男が現れたことで、その場の空気は一変した。フラビオ・ブリアトーレ――F1界では知らぬ者のない「伝説的な異端児」が、十数年ぶりにチーム代表記者会見の席に姿を現したのだ。

75歳となったブリアトーレの代表会見復帰は、アルピーヌというチームが置かれた深刻な状況を物語っている。オリバー・オークス前チーム代表の突然の退任により、その「代理」として、ブリアトーレが矢面に立つこととなったのだ。

如何に型破りな会見であったかは、同席したレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表の次の発言によく表れている。「フラビオが戻ってきてホント新鮮だね。少しの間、離れてたけど、やっぱり面白いよ。君が戻ってくる前の記者会見は本当に退屈だったからね」

ブリアトーレがベネトンやルノーを率いていた1990年代から2000年代と、現在のF1は全く異なる世界だが、それでもブリアトーレ特有の、どこか煙に巻くようでいて、歯に衣着せぬ言い回しは健在だった。

それを象徴するのが、ミック・シューマッハに関する質問への対応だった。

世界耐久選手権(WEC)プログラムを通してチームと関係を持つシューマッハについて、アルピーヌのF1シート候補になり得るかという、当たり障りのない質問に対してブリアトーレは、「何が聞きたいのか分からない」「今ここでするべき質問じゃない。次の質問」と返し、再度、確認を求められると「その話はしたくない」と切り捨てた。

シューマッハが現実的なF1シート候補でないのはパドックの共通認識だが、通常のチーム代表であれば外交的な回答で場を収める場面だ。だが、ブリアトーレにとってそうした「建前」は無用なのだろう。

このやり取りは、アルピーヌが抱える目下の課題――すなわち、オークスが担っていたように、どのような質問に対しても柔軟に対応し、チームやスポンサーへの不利益を最小限に抑える能力を備えた、現代F1に適応したチーム代表の必要性を浮き彫りにした。

Courtesy Of Alpine Racing

アルピーヌのF1チーム代表に就任したオリバー・オークスとエグゼクティブ・アドバイザーを務めるフラビオ・ブリアトーレ、2024年7月31日

暫定的な立場とチーム内の混乱

とは言えブリアトーレ自身も、自らが長期的に今のポジションに留まるつもりがないことを認めている。

「今探しているところだ。間違いを犯したくないので、時間をかけたいと思っている。新しいチームマネージャーを決めた時点で、皆さんにお知らせする」

これに対してホーナーが「安上がりな人材か?」とツッコミを入れると、ブリアトーレも大笑いしながら「そう、安く雇える人材だ!」と返した。

同チームは2021年にルノーからアルピーヌへと改称して以降、チーム代表を含む上層部の交代が相次いでいる。オトマー・サフナウアー、ブルーノ・ファミン、オークスと続いたリーダーの短命ぶりは、組織としての一貫性の欠如を物語る。

オークスの退任について、ブリアトーレは「オリーのことは残念に思っている。彼との関係は非常に良好だった。優秀なチーム代表だったが、皆が知っているように、個人的な理由で辞任した」と語った。だが、その控えめな表現の裏に何があったのかは未だ明確にはされていない。

昨年のスペインGPでアルピーヌに復帰した際、ブリアトーレは「2年でチームを軌道に乗せる」と豪語していた。だが10ヶ月が経過した現在(ブリアトーレは「給料を数えているから何ヶ月経ったかは正確に分かる」と皮肉を込めて語った)、その野心的なプランは大きな修正を迫られている。

「簡単な話じゃない。特にアルピーヌは過去4、5年間で多くの変化を経験してきたのだから」

そう語るブリアトーレは、チームがまだ「自らの望むようには機能していない」ことを認めた。「なぜならチーム内の状況に関して、明確でない部分が多いからだ」

現在、アルピーヌはコンストラクターズランキングで9位に沈んでいる。車体開発を通して一定の改善は見られるが、それがコース上での結果に直結していないのが実情だ。

それでもブリアトーレは2027年の世界選手権争いという大胆な目標を掲げる。「夢を持つことも必要だ」と彼は語る。「F1にいる以上、希望を持って仕事をするために夢を見るものだ」

この楽観主義の背景には、2026年から導入される新レギュレーションと、メルセデス製のパワーユニットとギアボックスの採用がある。

「レッドブルや他のチームで起こったことを見てみろ」とブリアトーレは言う。彼の描くロードマップは、2025年に体制を整え、2026年に表彰台争いへ加わり、2027年にタイトルを争うというものだ。

現在のドライバー起用方針にも、ブリアトーレの実用主義が色濃く反映されている。ジャック・ドゥーハンに代えてフランコ・コラピントを起用した決定について、彼は一貫して「5レース限定」という公式発表を否定し続けている。

「何レース? 正直分からない。5レース、3レース、4レース、1レース等とは一度も言っていない。様子を見よう」

だが、これは明らかな事実の歪曲だ。アルピーヌの公式プレスリリースには「次の5レース」と明記されており、ブリアトーレ自身のコメントも含まれていた。体裁を繕うという行為は彼の辞書には存在しない。

イモラでの予選クラッシュ、モナコでの苦戦を経て、スペインGPを「コラピントにとって初の真のレース」と位置づけたブリアトーレは、「フランコがパフォーマンスを発揮すれば、彼がクルマをドライブし続ける。駄目なら考える」と語り、「必要な”実験”はすべてやる」と結果至上主義を強調した。

ガスリーへの微妙な評価

最も興味深いのは、チームのエースドライバーであるピエール・ガスリーへの評価だった。昨年後半にエステバン・オコンを圧倒し、今季もドゥーハンやコラピントを寄せ付けていないガスリーだが、ブリアトーレの評価は意外にも歯切れが悪かった。

「鶏が先か卵が先か、という話だ。競争力のあるクルマがなければ、ドライバーの真の力を判断するのは難しい」

そう前置きした上で、「まずはバランスの取れた、競争力あるマシンが必要だ。そうでない今の状態では、ガスリーがどのレベルにあるのかを判断するのは非常に難しい」と語り、評価を保留した。

中団チーム所属ドライバーの実力評価が難しいのは事実だが、それでもチームのトップが自チームの明確なナンバー1ドライバーについて、これほど曖昧な評価を下すのは異例だった。

ブリアトーレはさらに、ホーナーに対して「(ガスリーがチャンピオンの器かどうかは)クリスチャンの方がよく分かってるかもしれないけどね」と話を振ったが、ガスリーの元上司であるホーナーは「何の話をしているのかサッパリ分からない」と答え、質問の真意を測りかねた様子を見せた。

その後、ホーナーが「君が戻ってくる前の記者会見は本当に退屈だった」と続けると、ブリアトーレは「20年経っても何も変わってない。まあ、白髪が増えたくらいか」と返答。ホーナーが「いや、髪がない人も増えたね」と応じると、「俺も君もそうだな」と笑った。さらに、同席していたピレリのモータースポーツ部門責任者マリオ・イゾラに話を振り、「でもイゾラはまだイケてるよ」と場を和ませた。それは同窓会のような雰囲気だった。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

チーム代表記者会見に出席したクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)、フラビオ・ブリアトーレ(アルピーヌF1エグゼクティブアドバイザー)、マリオ・イゾラ(ピレリF1ディレクター)、2025年5月30日(金) F1スペインGPフリー走行(バルセロナ・カタロニア・サーキット)

組織的な不安定さ、時代と相反するトップの態度、そして容赦ない現実主義。ブリアトーレの復帰後初の記者会見は、アルピーヌの現状をありのままに映し出していた。

それでも、この老練な策士が持つ豊富な経験と揺るぎない野心は、チームにとって無視できない資産でもある。過去にベネトンでミハエル・シューマッハを、ルノーでフェルナンド・アロンソを世界王者に導いたその手腕をチームが高く買っているであろうことは明白だ。

「隣に座っているマエストロ(ホーナー)を見てみろ。勝てるクルマ、勝てるレース、勝てるチームを作るのには膨大な時間が必要だ。私も以前、やったことがある。それをまた成し得ることを願っている」

この言葉に込められた決意こそが、迷走を続けるアルピーヌにとって、唯一の希望なのかもしれない。だが、その希望を現実に変えるには、第一歩として、まずは現代のF1に適応できる新たなチーム代表を見つけることが不可欠だろう。

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