西側制裁とドローン攻撃に苦しむプーチンの大統領令、燃料・エネルギー情報の統制から見える戦時下の実情(Wedge(ウェッジ))
プーチン大領は9月28日、大統領令第686号「燃料・エネルギー部門におけるアクセス制限対象情報一覧の承認およびその利用手続について」に署名した。この大統領令の第1条および付属リストは、アクセス制限の対象となる燃料エネルギー部門の情報として「輸出商品の名称・数量、価格、売主・買主、運送業者・保険会社、決済方法、使用船舶、輸送ルート、積出・積替・仕向地、海上ターミナル名、輸出に係る税関統計、石油精製商品の精製・生産量、ガソリンおよびディーゼル燃料の販売・取引」を列挙する。同3条は、こうした情報の拡散は、マスメディアまたはインターネットを含む情報通信ネットワークを用いて行うものを含め、許容しないと規定した。
要すればロシア産の燃料エネルギーが「誰から誰へ、何を、いくらで、どの船で、どのルートを通じて、いつ、どれだけ動いているか」というサプライチェーンに関する情報の外部への拡散を制限する統制令だ。ロシアでこの情報統制令が公布された理由として二つ挙げられる。
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ロシアにとって、中国、インド、トルコといった西側諸国の制裁に加わらない国々への石油・LNG輸出は、戦費で逼迫する国庫を支える生命線だ。ロシア大統領令第686号の冒頭には、米国等の非友好的かつ国際法に反する行動への対応措置と明記されており、グラハム法の成立が契機になったのは確かだろう。
二つ目はウクライナ軍によるドローン攻撃に利用されうる情報の流出を抑制したい狙いがある。ウクライナ軍によるロシア国内製油所へ燃料貯蔵庫へのドローン攻撃が相次ぎ、ロシアの石油精製能力は大幅にダウンしている。ロシア国内で深刻なガソリン不足と価格高騰が表面化したため、ロシア政府は、年末までガソリンの輸出を禁止し、ディーゼル燃料の生産者による輸出は10月31日まで禁止され、さらに年末まで延長される見込みだ。
製油所の稼働率や製品の生産・販売・取引量を明らかにしないことで、数ある製油所の中でも、どこを叩けばロシアが最も困るかという戦術的なヒントをウクライナに少しでも与えないようにするロシアの防衛策といえよう。
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西側制裁の実行手続きとウクライナのドローン攻撃をスローダウンさせる効果を狙うことが今回の燃料エネルギー情報統制の本質といえるが、その裏返しとして、ロシアが前述した米国の「地獄の制裁法」による二次関税とウクライナのドローン攻撃を、従来以上に切迫した脅威として受け止めている証左といえる。 石油・ガス税収はロシア政府歳入の約5分の1を占めるが、ロイターの2026年10月15日時点の推計では、26年1〜10月のロシア政府の石油・ガス収入は前年同期比14%減となる見込みだ。また、国際エネルギー機関(IEA)によると、26年7月、ウクライナ国境から約2500km離れたロシア最大のオムスク製油所が攻撃対象となり、26年1〜8月、ロシアの製油所は平均3日に1回の頻度で攻撃された。 もっとも、ロシア大統領令第686号と対を成すグラハム法とウクライナ軍のドローン攻撃は、11月3日に中間選挙を控えるトランプ政権下、当初の思惑と異なる展開を見せている。トランプ大統領の支持率低迷の背景には、インフレや生活費の上昇に対する国民の不満があるが、中でもディーゼル(軽油)価格は26年10月19日時点で1ガロン6.276ドルと高水準にあり、国民の物価高への不満を増幅させる一因となっている。 かかる中、10月9日の米露首脳電話会談後、トランプ大統領はロシア産ディーゼルを米国含む世界市場に供給することでプーチン大統領と合意したと発表した。翌10日には、ウクライナによるロシア製油所へのドローン攻撃が世界的なディーゼル不足を悪化させ、米国の農家や牧場主を含め世界に問題を引き起こしているとして、ゼレンスキー大統領に攻撃の停止を強く要求、「合意をまとめられる新しい指導者に代えた方がいい」とまで述べ、ゼレンスキー大統領への批判を強めた。
さらに、トランプ大統領は10月16日、グラハム法の対ロシア制裁・関税の主要部分について適用をwaive(免除)する大統領令に署名している。米軍によるイラン攻撃とホルムズ海峡の封鎖がエネルギー価格高騰の原因として争点化することを避けるかのように、エネルギー価格高騰の矛先をウクライナによるロシア製油所攻撃へ向ける発言を繰り返していると見えなくもない。
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ロシア大統領令第686号は、単なる情報統制にとどまらず、製油所の生産・販売動向をブラックボックス化することで、ロシア産ガソリンやディーゼルの供給不安を市場に意識させる効果を持つ。折しもトランプ大統領は、米国内の軽油価格の上昇とウクライナ軍によるロシア製油所への攻撃を関連づける発言を繰り返している。 プーチン大統領による燃料エネルギーの情報統制とトランプ大統領の発言に直接的な連携があることを示す証拠はないが、ロシアが燃料エネルギー情報を遮断すれば、「ロシアの製油所を攻撃すれば世界の燃料価格が上昇する」という主張の真偽を外部から検証することは難しくなる。そこにトランプ大統領がウクライナの製油所攻撃を燃料価格高騰と結びつける発言を重ねることで、結果としてロシアに有利な情報環境が生まれている。
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