海賊版ソフトが動く改造Switch 2、ヨーロッパでは文鎮化されない?実は地域ごとに違う任天堂の規約

多根清史アニメライター/ゲームライター
(写真:ロイター/アフロ)

任天堂はNintendo Switch 2について、利用規約違反が認められた場合、ユーザーのSwitch 2を「文鎮化」(実質的に使用不能にする)と警告していることは以前もお伝えしました。米国や日本向けの規約はSwitch 2の発売前に改定され、そうした記述が追加されました。

しかし、この規約は地域ごとに異なります。ヨーロッパ向けEULA(ユーザー利用規約)では、「ゲーム機そのものの文鎮化」が認められていないことが明らかになりました。

米国のEULAには、「規約違反(例:違法コピー、ハードウェア改造など)があった場合、任天堂はSwitch 2本体やオンラインサービスを部分的または完全に永久使用不能(文鎮化)にする権利を持つ」と明記されています

日本向けSwitch 2利用規約でも、ガイドライン等に従わなかった場合は、事前通知なしに「本システムの一部または全部の使用を停止し、本規約を解除する等の措置をとることができます」と記載されています。ここでいう「本システム」はSwitch 2を指し、やはり文鎮化を警告しています。

一方、EUのEULAでは、違法コピーが疑われる場合でも「特定のゲームソフトへのアクセス制限」にとどまり、ハードウェアそのものを物理的または遠隔で使用不能にする措置は明記されていません。あえて「ゲームソフト」としている点は、ハードウェアを除外していることを意味します。

こうした地域差について、海外ゲームメディアMeriStationは、米国と欧州の著作権法や消費者保護法の違いによるものであり、任天堂の姿勢そのものが地域で異なるわけではないと説明しています。つまり、法制度が許す範囲での措置を取っているということです。

欧州の法制度はユーザー保護を重視しており、任天堂が一方的にハードウェアを文鎮化することはできません。消費者保護法により購入者の「所有権」と「利用権」が尊重され、製品寿命を延ばして廃棄物を減らす観点からも文鎮化は事実上禁止されています

米国EULAでもう一つ注目すべきは、文鎮化された場合の紛争解決手段です。規約違反でSwitch 2を文鎮化されたユーザーは裁判や集団訴訟を起こせず、仲裁条項により個別の私人仲裁のみが可能です。この条項に同意した時点で、ユーザーは訴訟権を放棄することになります。

日本向け規約では「本規約に起因または関連する紛争については、京都地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします」としており、通常の裁判を起こすことができます

さらに、米国EULAには文鎮化されても任天堂は返金義務を負わない旨が明記されています。欧州(そもそも文鎮化されない)や日本向け規約には、この記載はありません。

もしどうしてもSwitch 2を改造しつつ文鎮化を避けたい場合、ヨーロッパに移住すればある程度の望みは叶うかもしれません逆に米国では、同じ境遇のユーザーを集めて集団訴訟を起こすことすら難しい、お金も返ってこないという点は覚えておきたいところです。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、マグミクスで記事を執筆中。

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