田沼派・蔦重、ついに反撃! 大奥も揺らす松平定信の質素倹約令と“書を以って抗う”決意

*TOP画像/蔦重(横浜流星) 意次(渡辺謙) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK

吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第34話が9月7日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

<<この記事の前編:あまりに酷な江戸の刑罰、50日も手錠につながれる「手鎖の刑」!命がけで贅沢を楽しんだ江戸っ子と、そこから生まれた華やかな文化

市中、松平定信の老中首座就任に期待高まる

いつの時代にも、政のトップが変れば、その話題で市中はよくも悪くも持ち切りです。それにともない、さまざまな憶測も飛び交います。

例にもれず、越中守様・定信(井上祐貴)が老中首座に昇進すると、彼について民の間でさまざまな噂が流れました。「江戸の米不足をお嘆きになってお国の米を何百俵と…」と話す人だけでなく、「五つの時には「論語」をそらんじたんだろ?」と話す人までいます。彼の人気を高めるのに役立ったものの一つに読売があり、自分の評判を高めるために、お金を払って書かせているんだとか…。

市中  大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK

読売 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK

一方、蔦重(横浜流星)は定信を“ふんどし野郎”と呼び、彼にうさんくささを感じています。というのも、打ちこわしを収めたのは意次であるものの、自身の手柄であるようにふるまう定信に怒りを感じているためです。

そうした中、定信は老中首座に就任してすぐ、市井の人たちが「田沼病」を患い、奢侈(しゃし)にやたらと憧れているとし、人びとの浮ついた心を抑え込もうと試みます。

読売 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK

「田沼病」とは「奢侈」に やたらと憧れる病である。「奢侈」をしたいがために 武家は恥を忘れ賄をもらうことに血道を上げた。商人は徳を忘れ己が儲けることばかり考え 百姓は分を忘れ田畑を捨て 江戸に出てきた。上から下まで己の欲を満たすことばかり考え わがまま放題に振る舞った。[中略]これを治すための薬は ただ一つ。万民が「質素倹約」を旨とした 享保の世にならうことである!

定信が示したこの新たな方針は、蔦重の周囲でも賛否が分かれました。蔦重はこの方針について“世のため 死ぬまで働け遊ぶな 贅沢すんな”と解釈し、批判的である一方、真面目な性格のてい(橋本愛)は定信の考え方はまっとうなものだと評価しています。

ていが言うように、“働くな 死ぬまで遊べ贅沢しろ”では世が成り立たないものの、蔦重が言うように“死ぬまで働きづめ”の人生なんてつまらない。特に、蔦重のような“おもしれぇもの”が大好きな江戸っ子にとって“死ぬまで働け遊ぶな”という命令の下での世は、心が死んでしまいそうです。

そうした中で、蔦重一派の中で定信の方針の矛先が最初に当たったのは、あから先生こと南畝(桐谷健太)でした。

南畝(桐谷健太) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK

蚊の戯歌を理由に呼び出され、“越中様をぶんぶんうるさい蚊”と表現したと咎められたのです。南畝は自身にどのような罰が下されるのか不安げな表情を見せていました。一方、蔦重や南畝の仲間たちはこの状況を“見せしめ”と解釈しつつも、突然起きたこの事態をあまり理解できていないようでした。

史実においても、定信は世の秩序を守るため、民を抑えたことで有名です。また、飢饉などで農村から江戸に流れて来た人たちに対し、地元に戻って農業を再開するための資金援助を行う政策も実施しています。地方の人口減少や農業の担い手不足が問題となっている今、このような政策を出したらどうなるかと一瞬考えてしまいました。東京の刺激に慣れ、都会ならではの娯楽を知ってしまうと、生活が経済的に厳しくても、支援金が出るからといって田舎に戻る選択をする人は少ないようにも思います。

蔦重の決意 次ページ


Page 2

蔦重も意次も成り上がりの男。自分の力と運で成り上がった者同士だからこそ共感し合えるものがあります。

蔦重(横浜流星) 意次(渡辺謙) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」34話(9月7日放送)より(C)NHK

「私は 先の上様のもと田沼様が作り出した世が好きでした。皆が欲まみれで いいかげんで。でも だからこそ 分を越えて親しみ心のままに生きられる隙間があった」

意次が作り出した世は自由な気風があり、源内(安田顕)のような時代の寵児、蔦重のような立身出世を成し遂げた男が生まれました。さらに、南畝のような狂歌師や吉原の遊女を描いた『青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)』のような美しい本も。また、欲望は人を破滅させることもあるけれど、欲があるからこそ、生み出せるものがあります。

蔦重が意次に誓ったのは、“最後の田沼の一派として、書を以って、定信の世に抗うこと”でした。意次の世の風を守るために彼の名を貶める方法を使ってでも、意次や源内の想いを世に残すことを決めたのです。

蔦重は定信のご政道をからかう黄表紙の出版を決めました。とはいえ、お上をネタにすることが禁じられている世で、定信をあからさまに貶める表現はできません。その抜け道として選んだのは、ふんどしの守様こと定信を持ち上げ、意次を極悪人としてたたくことでした。自身も相良城を取り壊され、部下が次々と罰せられる中、意次にとっては新たな打撃となるかもしれない方法。それでも、意次は蔦重に自身の志を託すため、この方法を快く認めました。

史実では、蔦重や彼の仲間の作家たちも禁書の容疑で処罰を受けますが、本作では蔦重の運命はどうなるのだろうか。

<<この記事の前編:あまりに酷な江戸の刑罰、50日も手錠につながれる「手鎖の刑」!命がけで贅沢を楽しんだ江戸っ子と、そこから生まれた華やかな文化

関連記事: