the cabs復活ライブでまさかの新曲披露、豊洲PITで3000人が目撃した再生の風景
the cabsのライブツアー「the cabs tour 2025 “再生の風景”」が、11月5日に東京・豊洲PITでの追加公演をもってファイナルを迎えた。
広大な空間は、一瞬にして独特な世界観に
2013年1月に1stフルアルバム「再生の風景」を発表後、そのリリースツアーを目前に控えた同年2月に解散したthe cabs。彼らが約12年ぶりにステージに立った再結成ツアーは8月の東京・LIQUIDROOMを皮切りに全9公演が行われ、どの会場もチケットは瞬く間に完売。キャパ3000人の豊洲PITは12年前に予定していたツアーの会場とは比べ物にならないほど大きなライブハウスであり、しかも11月1日に東京・Spotify O-EAST公演が行われたばかりだったにもかかわらず、フロアは最後方まで観客でパンパンに膨れ上がっていた。解散からの12年間、彼らの音楽がどれほど深く、そして新しく聴き継がれてきたかを証明する光景だった。
会場がうっすらとスモッグに包まれる中、高橋國光(G, Vo)、首藤義勝(B, Vo)、中村一太(Dr)の3人が登場し、ステージの真ん中でそれぞれ定位置につく。高橋がひと言、「the cabsというバンドです。よろしくお願いします」とつぶやくと、即座に「anschluss」の鋭利なアンサンブルが放たれた。広大な空間は、一瞬にしてthe cabsの独特な世界観に染め上げられる。
曲が終わった瞬間、せきを切ったようにフロアから大歓声が沸き起こる。しかし、その余韻に浸る間も与えず、バンドは間髪いれず「カッコーの巣の上で」に突入。激しい演奏と轟音が会場を支配した。満員のフロアは熱気に満ちているはずなのに、そこにはムンムンとした暑苦しさはなく、むしろどこか清涼感さえ感じる。爆音で手数の多い演奏が繰り広げられているにもかかわらず、不思議とどこか静かな印象を受ける。
曲が終わるたびに大歓声と大きな拍手が
そして「わたしたちの失敗」の象徴的なギターリフが鳴り響くと、再びフロアから歓声が上がる。這い回るようにうねる硬質なベースライン、激しくも精密に乱れ撃つドラム、空間を切り裂くような鋭利でノイジーなギター。3つの楽器が複雑に絡み合いながら、曲中で目まぐるしく展開を変え、たった3人だけで多彩な世界を作り出していく。
12年前の活動時を考えれば不釣り合いにも思えるほど大きな会場。だが今の彼らが鳴らすサウンドは、むしろこの規模の会場にこそふさわしい、圧倒的なスケール感を伴っていた。首藤、高橋、中村の3人が、この12年の間にそれぞれの場所で積み重ねてきた経験が、音の厚みと深みとなって確かに表れていた。
ライブは中盤、さらに熱を帯びていく。「二月の兵隊」では、柔らかく降り注ぐ橙色の光を浴びて首藤が優しく歌い上げたかと思えば、ストロボが激しく明滅する中で高橋が魂を絞り出すような絶叫を響かせる。「解毒される樹海」で首藤の澄んだハイトーンボイスと高橋の激情的なシャウトが交差。そのまま爆撃機のような苛烈なドラムソロを経て「花のように」へと雪崩れ込む。
さらに、ステージが真っ赤な照明に染まる中、高橋のハイテンションなボーカルによる「sarasa」で観客を高揚させ、「チャールズ・ブロンソンのために」へと畳み掛けた。そのパワフルで圧倒的なパフォーマンスに、曲が終わるたびに大歓声と大きな拍手が送られた。
「我々3人でthe cabsというバンドです。これからもよろしく」
高橋はMCで「僕らが活動してなかった期間に継続して聴いてくれたり、聴き始めてくれた人たちがたくさんいたおかげで、今この場が成立してる。改めて皆さん本当にありがとうございます」と感謝を述べ、解散期間中にバンドの評価が高まった状況に触れつつ「僕らは、活動していなかったゆえの過大評価みたいなのも受けてきたんですけども、3000人お客さんを入れておいて『過大評価です』っていうのはちょっとうざすぎるので、今日だけは(過大評価だと言うのを)やめておきます(笑)」と苦笑。そして、このツアーの意味を改めて言葉にした。
「行われなかった『再生の風景』というツアーを終わらせられて、本当に安心してるしうれしく思ってます。13年前に一度眠りについた『再生の風景』というアルバムが目を覚まして、皆さんのおかげで楽しい思い出になりました。このファイナルをもって『再生の風景』というアルバムはもう一度眠りますが、眠る前の最後の景色がここから見える景色でよかったなと心から思います」
「我々3人でthe cabsというバンドです。これからもよろしく」と、再会を約束するように高橋が挨拶したのち、3人が演奏したのは「地図」。美しくも切ないバンドサウンドが、オーディエンス1人ひとりの胸を震わせ、ライブ本編は締めくくられた。
「もしかしたらこの12年間は必然だったのかもしれない」
アンコールを求める熱烈な拍手に3人がステージに呼び戻されると、高橋は「今そこでいろいろ話し合って決まったことを発表させていただきます」と告げて、2026年3月よりツーマンツアー、5月よりワンマンツアーを開催することを報告。さらにツーマンツアーの対バン相手として、愛知・DIAMOND HALL公演にcinema staff、大阪・なんばHatch公演にストレイテナー、神奈川・KT Zepp Yokohama公演にindigo la Endが出演することが告知され、高橋の口から対バン相手の名前が読み上げられるたびに、フロアからは歓喜の声が上がった。
この発表を受けて首藤は「少なくとも来年の6月までは、両脇の化物に挟まれながら歌を歌わなければいけないと思うと、手から汗がにじみ出てきますが、せっかくなんで楽しませてもらおうと思います」と語り、フロアの笑いを誘う。
ツーマンツアーのタイトルは「MORGEN」。このドイツ語のタイトルを付けたのは中村だという。高橋から「どういう意味?」と振られた中村は、その名に込めた思いを丁寧に説明し始めた。
「MORGENには『朝』と『明日』という2つの意味があります。僕らは今ツアーを終えて、『再生の風景』というアルバムに一旦区切りがつきました。でも僕らは続いていきます。もしかしたらこの12年間は必然だったのかもしれない。2人の素晴らしい才能がここにいて、僕はドラムを叩けて、次の対バンツアーを仲のいい友達とできて、僕らが次なる一歩を踏み出すという意味でMORGENという単語が当てはまるんじゃないかと思って付けさせていただきました」
そして「来てくださった皆さん、スタッフの皆さん、本当にありがとうございます。皆さんのおかげで今のthe cabsがあります」と、中村は力強く感謝を伝えた。
そしてまさかの新曲披露
首藤が「パーッとやって帰ります」と告げて始まったアンコールの1曲目は、なんと再結成後に作られたという新曲だった。ラストで繰り返される「死を分かつまでは!」というリフレインが深く印象に残るこの曲は、スリリングなサウンドも、耳に残るメロディも、すべてにおいて「誰もがイメージする通りのthe cabsそのもの」。彼らの時計が再び動き出したことを証明するような1曲だった。満員の観客は、その新たな音を一瞬たりとも聴き逃さないよう、ステージにじっと聞き入っていた。
そして最後にバンドはもう1曲「キェルツェの螺旋」を披露。オーディエンスも残る力をすべて出し切るように、この日一番の盛り上がりを見せた。すべての演奏が終わり、ステージを去る3人には、惜しみない拍手が送られた。
セットリスト
「the cabs tour 2025 “再生の風景”」2025年11月5日 豊洲PIT
01. anschluss02. カッコーの巣の上で03. purusha04. わたしたちの失敗05. ラズロ、笑って06. Leland07. 第八病棟08. 二月の兵隊09. 解毒される樹海10. 花のように11. sarasa12. チャールズ・ブロンソンのために13. camm aven14. すべて叫んだ15. 地図<アンコール>16. ※新曲
17. キェルツェの螺旋