日本がアジア太平洋で防衛体制を強化、台湾有事抑止へ中国をけん制
日本は、中国の軍事的台頭に対抗するため、アジア太平洋地域での防衛体制を強化している。トランプ米政権の安全保障政策が不透明な中、日本を含む米国の同盟国は地域における中国の影響拡大に向けた明確な方針を求めている。
事情に詳しい関係者によると、最近数カ月の間に海上自衛隊の護衛艦が台湾海峡を2度通過した。初めてのことで、台湾を巡り軍事的圧力を強める中国をけん制する意思の表れと受け止めることができる。インド洋や南シナ海といった地域での演習を行う頻度も増やしている。
元海上自衛官で笹川平和財団主任研究員の山本勝也氏は、「私がまだ若かった頃や、21世紀の最初の10年間というのは、海自の活動は日本の周りだけだった」と述べ、海自の活動が国際的になってきたと実感している。中国への厳しい国内世論も背景に、「中国がやっていることに反論しない日本政府はダメな政府だと評価されるように時代が変わった」との見解を示した。
地域の緊張を高める中国の活動は台湾への空や海からの軍事的挑発にとどまらない。フィリピン艦船との衝突、豪シドニー沖の国際水域への軍艦派遣。25日から26日にかけては尖閣諸島周辺を航行していた空母「遼寧」などから戦闘機の発着艦も行った。中国の動きに各国が身構える構図となっており、30日にシンガポールで始まるアジア安全保障会議でも議論の焦点になる。
同会議ではへグセス米国防長官が演説するほか、各国の安全保障担当者が参加する。中国の董軍国防相については欠席しない予定だと英紙フィナンシャル・タイムズが報じた。
ウクライナ侵攻
戦争放棄などを唱えた現行憲法下で、日本は外国との軍事的関わりには抑制的だった。局面が変わったのは2022年だ。2月にロシアがウクライナ侵攻を開始し、8月には中国人民解放軍が台湾周辺での軍事演習でミサイルを発射し、将来の「台湾有事」が意識された。
防衛問題専門家の桜林美佐氏は、中国の脅威は以前から指摘されていたものの、経済的な結びつきの強さなどから、日本国内で危機感が共有されにくかったとみている。ウクライナ侵攻は中国への対応という意味でも「大きな問題提起をした出来事」であり、「中国の脅威というものが理解しやすくなった」と述べた。
当時の岸田文雄首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返し発言し、同年末に新たな国家安全保障戦略を策定。防衛費を大幅に増額し、23年度からの5年間で43兆円程度とする防衛力整備計画も決めた。25年度の防衛関連支出は政府全体で9兆9000億円に達する見込みで、その中には迎撃ミサイルの探知精度を高めるための衛星ネットワーク構築費も含まれている。
元台北駐日経済文化代表処代表の許世楷氏は、海自の積極的な動きについて単なる地域防衛を超えた意味を持つ、とインタビューで語った。自衛隊単独での中国に対する軍事的な抑止効果は限定的だが、日本が行動することで台湾のリスクを国際的に広め、日本と近い国からの支援につながる可能性を指摘した。
多国間連携
昨年10月に石破茂首相が就任して以降も日本は自国の防衛力強化に加え、オーストラリアやフィリピンなど地域の民主主義諸国との協力を進めている。
特にフィリピンは南シナ海の領有権を巡って中国と激しく対立している。日本は23年に創設した外国支援の枠組みである政府安全保障能力強化支援(OSA)を活用し、同国に沿岸監視レーダーシステムなどを供与。4月29日に行った首脳会談では自衛隊とフィリピン軍が物品などを提供し合う物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向けた交渉開始でも一致した。
石破首相はマニラでマルコス大統領との会談後、中国を念頭に東シナ海や南シナ海で力による一方的な現状変更の試みに反対し、「法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、引き続き両国で緊密に意思疎通をしていきたい」と語った。共同記者発表で発言した。
3月に訪日したへグセス国防長官は日本を含む同盟国と共に中国への抑止力を再構築すると述べた。日本に新しい軍事司令部を設置するというバイデン政権の計画を実行に移すことを約束し、フィリピンにより高度な能力を配備すると述べた。
ただ、トランプ大統領は日米安全保障条約について、ワシントンよりも東京にとって良い取引だと不満を述べており、アジアにおける米政府の安保戦略には不確実性がある。
陸上自衛隊の元中将、磯部晃一氏は中国を抑止していくとの姿勢は日米で共有していると説明する。その上で、在日米軍の強化に関し、へグセス氏は具体的な内容に触れていないとし、「現時点では評価のしようがなく、今後の具体的な進捗(しんちょく)を見守りたい」と述べた。中国の力による一方的な現状変更の試みに対する日本の対応について、「抑止力が機能しなかった場合、その代償は大きい」との見方も示した。