楽天モバイル“値上げしない宣言”に他社が苦言 「自分たちでネットワークを構築しないくせに」
楽天モバイルの三木谷浩史会長は「値上げしない」宣言をした。他キャリア関係者は「自分たちでネットワークを構築しないくせに」と不快感を示している。 【もっと写真を見る】
楽天モバイルの三木谷浩史会長は9月30日、プレスカンファレンスで「値上げをしない」宣言をした。昨今、電気代や人材費の高騰などで、既存3キャリアが値上げプランを発表するなか、楽天モバイルはあえて「値上げしない」とアナウンスすることで、他キャリアからのユーザー獲得を狙うようだ。年内にも1000万契約を超えようとしている楽天モバイルは、今回の宣言で、顧客獲得に弾みをつけたいのだろう。 ただ、楽天モバイルの「値上げしない」宣言に対して、不快感を示すのが他キャリア関係者だ。 「楽天モバイルは、地方や都心部などにおいて、KDDIのローミングに依存している。自分たちでネットワークを構築しないくせに『値上げしない』なんてかっこつけるのはどうかしている」(他キャリア幹部)というのだ。 人口カバー率99.9%はKDDIのネットワークがあってこそ 楽天モバイルは新規参入した際、地方などにおいて、KDDIのネットワークを借りる契約を結んだ。自力で全国津々浦々、ネットワークを整備するには資金に加え、人材や時間など、圧倒的に足りなすぎるのだ。 そこで、サービス開始当初から競争環境を実現しようと、救いの手を差し伸べたのがKDDIだった。楽天モバイルがエリア化できていない場所に対して、KDDIのネットワークを貸すことで、楽天モバイルのユーザーは、山間部などで利用できるようになった。 ローミング契約は一度見直しが入り、山間部だけでなく、都心部でも実施され、ビルの谷間などのネットワーク品質が改善した。 楽天モバイルは、人口カバー率99.9%をアピールするが、実際はKDDIのネットワークがあるからこそ、とも言えるのだ。 特に山間部の基地局設置にはコストがかかる 他キャリア幹部は「人口カバー率は、96%ぐらいまではなんとか達成できる。問題はその後。山間部などに基地局を設置しても、0.1%にもならない。地道にひとつずつ、99.9%を目指して基地局を設置し続けてきた」と振り返る。 単に山間部に基地局を設置するといっても、そこまで光ファイバーなどの回線を敷設する必要がある。最近はスターリンクなど衛星回線を基地局に設置するケースも増えているが、それでも、山間部に基地局を設置するのはコストがかかるのだ。 他キャリア幹部は「山に基地局を設置すると夏と冬ではエリアの広がり方が違ってくる。夏は木に葉っぱが生い茂り、葉が電波を吸収してしまい、あまり飛ばなくなってしまう。冬は葉が枯れるので逆に飛びやすくなる。そうした自然環境も考慮して、基地局を敷設してきた」と語る。 楽天からKDDIに年間数百億円レベルの支払いか 楽天モバイルとKDDIとのローミング契約は、2026年9月までとなっているが、「ローミング提供期間のさらなる延長については両社協議の上決定」とある。 三木谷会長は2026年9月に終了するかについて「KDDIとの守秘義務契約がある」としながらも「継続性は大事だと考えている」と語っていることから、ローミング契約は延長される可能性が極めて高そうだ。 KDDIの決算資料を見ると、おそらく楽天モバイルからKDDIに対して年間、数百億円レベルのローミング接続料がいまだに支払われているものと思われる。 実際、山間部に基地局を建てたところで、ユーザーはほとんどデータ通信を使わないため、採算性は極めて低い。楽天モバイルとしたら、ほとんど使われない山間部で、自分たちで基地局を建てコストを発生させ、赤字を生むよりも、KDDIにローミング費用として支払っていったほうが「お得」という損得勘定をしているのかもしれない。 総務省が発表している資料を見ると、既存の3キャリアは全国に30万近い基地局を設置している。一方で、楽天モバイルは10万程度だ。 既存3キャリアは、山間部なども地道にエリア化するために、ほとんど使われないような場所にも基地局を設置。結果として30万近い数字になっている。だからこそ、高めの通信料金にせざるを得ないという事情も垣間見える。 一方、楽天モバイルは基地局の数を抑え、無駄になりそうな場所はKDDIに依存しているからこそ、いまの料金体系を維持できているという見方もできる。 ユーザーが増えれば他社並みに値上げも? 楽天モバイルが、3社と肩を並べるぐらいのユーザー数となった場合、当然、いまの基地局数では足りないし、KDDIへのローミング費用も跳ね上がることになる。山間部も自前でエリア構築せざるを得なくなってくるだろう。 結果として、楽天モバイルのユーザーが増えると、「値上げをしない」なんて悠長な事は言っていられず、他社並みの料金水準に値上げする必要が出てくるのではないだろうか。 筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ) スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。 文● 石川温