トランプ政権、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS」を見直しへ 「アメリカ第一主義」の一環

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画像説明, 米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の一環として、オーストラリアはアメリカからヴァージニア級原子力潜水艦を最大5隻購入する予定だ。(2024年撮影、パース)

アメリカ政府は11日、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」における数十億ドル規模の潜水艦契約について、見直しを開始した。この枠組みがトランプ政権の「アメリカ第一主義」の方針に適合する必要があるとしている。

この三国間協定には中国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられている。オーストラリアがまずアメリカの原子力潜水艦を受け取り、その後、最先端技術を共有して新たな艦隊を共同で構築する計画だ。

昨年、独自に見直しを行ったイギリスとオーストラリアは、今回のアメリカによる調査について過度に懸念する必要はないとの立場を示しており、新政権が方針を再評価するのは自然なことだと説明している。

今回の動きは、アメリカ政府が両国に国防費の増額を求めている中でのもの。イギリスはこの要請に応じた一方、オーストラリアは慎重な姿勢を崩していない。

2021年に締結されたAUKUSの総額は1760億ポンド(約34兆3300億円)に上る。締結当時は、3カ国すべてで現在と政権が異なっていた。

アメリカの国防当局者はBBCに対し、「前政権によるこの取り組みが、現政権の『アメリカ第一主義』方針と整合しているかを確認する一環として見直しを行っている」と述べた。

「ピート・ヘグセス国防長官が明確にしているが、これは米軍の最高の即応態勢を確保するものだ。また、同盟国も集団的防衛の責任を十分に果たす必要がある」

アメリカは同盟国に対し、国防費を国内総生産(GDP)の少なくとも3%に、できるだけ早く引き上げるよう求めている。

今回の見直しは、エルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)が主導する。同氏は昨年の講演で、オーカスに対して批判的な見解を示しており、「最も必要な時に、なぜ(原潜技術という)最重要資産を手放すのか」と疑問を呈していた。

オーストラリアのリチャード・マールズ国防相は12日朝、協定の継続に楽観的な見方を示した。

マールズ国防相はABCラジオ・メルボルンの番組で、「この計画は確実に実現すると、大きく確信している」と述べた。

「地図を見れば明らかなように、オーストラリアには長距離潜水艦の能力が絶対に必要だ」

豪政府の報道官はBBCに対し、アメリカの新政権が協定を「精査」するのは「自然な」ことだと述べ、イギリスも最近、長年の同盟関係に基づく安全保障協定の見直しを終えたばかりだと付け加えた。

この報道官はまた、アメリカでは「政党を問わず」、この協定への「明確かつ一貫した」支持があるとし、「この歴史的プロジェクトにおいて、トランプ政権との緊密な協力を継続していくこと」を期待していると述べた。

イギリス国防省の報道官も、新政権が協定を見直すのは「理解できる」ことで、「イギリスも昨年、同様の対応を行った」と語った。

報道官はさらに、AUKUSは「最も親密な同盟国2カ国との画期的な安全保障・防衛パートナーシップ」で、「インド太平洋および欧州大西洋地域の平和と安全を支える、数十年に一度の戦略的重要性を持つ協定だ」と強調した。

米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」に所属するジェニファー・カヴァナー博士は、アメリカの原子力潜水艦の供給能力がすでに逼迫(ひっぱく)しているなか、同国が「この協定を再検討するのは極めて妥当だ」と述べた。

カヴァナー博士は、「アメリカは自国の需要すら満たせていない」と指摘。その上でアメリカは、オーストラリアが購入した潜水艦を、アメリカの意図する形で運用するかどうかを懸念していると述べた。特に、台湾有事の際にその懸念が強まる可能性があるという。

同博士は、今回の見直しによって、協定の焦点が潜水艦の供与から、他の長距離兵器技術の共有へと移る可能性があるとみている。

一方で、アメリカが協定から撤退すれば、中国が「歓迎するだろう」とも述べた。中国はかねてAUKUSに強く反発している

AUKUSは、オーストラリアにとって軍事能力の大幅な強化を意味する。アメリカの高度な原子力推進技術を受け取るのは、イギリスに次いで2カ国目となる。

この原子力潜水艦は、現在オーストラリアが保有するディーゼルエンジン型潜水艦よりも、さらに遠くで、さらに高速での運用が可能となる。また、オーストラリアが初めて長距離攻撃能力を持つことにもつながる。

アメリカが「最重要」とされる防衛技術を共有することは極めて異例であり、この点でも重要な意味を持つ。

しかしオーストラリアへの軍備供与は、アメリカとイギリスにとって、自国が地理的に属さないインド太平洋地域の平和を維持するために不可欠な措置だと、長年にわたって見なされてきた。

アメリカとイギリスは2027年から、オーストラリア西部のパースに少数の原子力潜水艦を配備できるようになる見通しだ。

また、オーストラリア政府は2030年代初頭にも、アメリカから中古の「ヴァージニア級」原子力潜水艦3隻を購入する予定で、さらに2隻を追加購入できるオプションも付与されている。

その後、イギリスとオーストラリアの海軍向けに、まったく新しい原子力攻撃型潜水艦を共同で設計・建造する計画が進められている。

この新型潜水艦は、イギリスの設計を基に、イギリスとオーストラリアで建造される予定で、3カ国の技術が組み込まれる。

AUKUSは中国から繰り返し批判を受けており、中国外務省は「軍拡競争を引き起こす恐れがある」と警告している。

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