高エネルギーニュートリノの起源に迫る 約110億年前の銀河「シャドウ・ブラスター」とは
宇宙空間を飛び交う高エネルギーニュートリノの放射源を特定することは、現代天文学における最重要課題のひとつです。 これまでに、銀河中心の超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)が活発に活動する活動銀河のいくつかが、ニュートリノの放射源として特定されてきました。しかし、地球に届く高エネルギーニュートリノの総量を既知の天体だけで説明するには数が足りず、未知の主要な発生源が宇宙のどこかに隠されていると考えられてきました。 理論研究の分野では、新たな星を生み出す星形成活動が激しかった今から100億年ほど前の「宇宙の正午(Cosmic Noon)」と呼ばれる時代の星形成銀河が、その有力候補に挙げられていました。星形成にともなって生成された大量の宇宙線が、高エネルギーニュートリノの主要な供給源になる可能性が予測されていたのです。ただ、こうした銀河は宇宙論的な遠距離にあり、分厚い塵(ダスト)に隠されていたことから、個別のニュートリノ観測事象と結びつけることはきわめて困難でした。
今回、研究チームが注目したのは、南極のニュートリノ観測装置「IceCube(アイスキューブ)」が2021年に検出した高エネルギーニュートリノ事象「IC 210922A」です。 この信号を生成したニュートリノの到来方向を様々な望遠鏡で追跡観測した結果、約110億年前に存在した「JCMT0402-0424」と呼ばれる天体が発見されました。この天体は分厚い塵に包まれており、可視光線ではほとんど見えないことから「シャドウ・ブラスター(Shadow Blaster)」という愛称が付けられています。 研究チームは電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」などを用いて、シャドウ・ブラスターの詳細な観測を行いました。この銀河は、手前にある巨大な楕円銀河が引き起こす重力レンズ効果(※)によって光が増幅され、4つの像に分かれています。「自然のレンズ」といえる重力レンズ効果のおかげで、通常では観測できない初期宇宙の銀河であるシャドウ・ブラスターの内部構造を、詳細に解析することが可能になりました。 ※…手前にある天体の大きな質量によって周囲の時空間がゆがみ、その背後にある遠方の天体から発せられた光の経路が曲げられることで、遠方天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象。