参院選、与党過半数は「微妙」◆「自公国」連立の可能性低い 久米晃氏に聞く【解説委員室から】
夏の参院選が近づいている。参院選の結果は、石破政権の命運を左右するだけでなく、新たな権力闘争と政界再編への激動につながる可能性もある。「政治とカネ」の問題、物価高の影響などで自民党の苦戦は必至。自民、公明の与党が過半数を維持できるかが最大の焦点だ。自民党元事務局長の久米晃氏に参院選の展望や政局の見通しなどを聞いた。(時事通信解説委員・村田純一)
―夏の参院選をどう位置付けますか。
参院選の当落、勝敗は結局、自民党内の政局につながります。参院選で自民党が負けたら、自民党総裁は辞めさせられるという話になるが、直ちに政権交代にまでは至りません。衆院選の勝敗は政権交代に直結しますけど。
過去、(自民敗北の)参院選後に宇野宗祐首相、橋本龍太郎首相が退陣し、安倍晋三首相は体調悪化のため辞任した。今度の参院選も自民が負けたら、石破茂首相に責任を取ってもらい辞めてもらいたいと思っている人が党内にいます。これまでと同じように、自民が負けたら党内政局に発展する可能性は十分あります。
自公で50議席の可能性は?
―石破政権にとって、参院選の勝敗ラインは参院全体(248議席)のうち、自民、公明の与党過半数(125議席)と言われます。参院選は半数改選で、非改選議席が自公で75あるので、今回の改選議席のうち自公が50を獲得すれば与党過半数を維持できます。自民逆風はまだ強いようですが、「自公で50」の可能性をどう見ますか。
この50が取れるかどうかは微妙ですね。
―自民党の4月の情勢調査によると、自公で50超あったようですが、この評価は。
この前の衆院選(2024年10月)で自民党の調査がどうだったかを見れば分かります。最近は、世論調査で情勢を判断するのは、非常に難しくなっています。マスコミの調査も含めてかなり精度が落ちていると思います。
―自民の調査通りの結果になるとは限らないということですか。
自民党の調査に限らず、固定電話の比重が高い調査では、回答者が高齢者に偏ってしまいます。調査だけで、当落を判断するのは非常に難しい。記者の取材力が問われているのではないでしょうか。
―今、若い世代の自民党離れが世論調査の結果からも顕著になっていますが。
高齢者は自民党支持の傾向が強いので、自民党の調査結果が本当に今の世論を表している調査なのかどうかは分かりません。ただ、それでも調査を複数回やることによって、支持の伸びは分かります。ここは支持率が上がったとか、落ちたとか。点で見ても分からないけど、線で見れば情勢の傾向を読むことはできます。
自民、1人区で「15」以上取れるか焦点
―自民党の比例代表の獲得議席をどう読んでいますか。
参院選は基本的に、候補者個人の戦いではなく、政党に対する評価です。比例代表で自民は過去最高で22議席取った(1986年)。過去最低は野党の時の12議席(2010年)。それ以外では、だいたい少ない時で14議席ぐらい。平均すると17議席前後です。
それはまだ自民党に力がある時です。今、自民党への逆風が強いこのような時に、比例票を18も19も取れるような状況ではありません。過去最低が12だったから、比例で取れるとしても12~14議席ぐらいと見るのが妥当ではないでしょうか。
―選挙区は「複数区」で確実に1議席を取るとみられ、「1人区」が勝敗のカギを握りますが。
それはそうです。過去の参院選も全部1人区の勝負です。複数区ではだいたい自民党が1議席取っている。13ある複数区で1議席、比例で少なくとも12議席取れば、合わせて25議席になります。
公明党が10議席取ると仮定すると、与党が過半数割れしないために自民が取らなければならない議席数は40。自民が複数区と比例で25取れば、残り15を1人区で取れるかどうかということになります。
1人区は32あるので、「32分の15」です。15選挙区、取れますかね。なかなか厳しいのでは。
これまでの参院選で自民党が負けた時、例えば1989年の参院選の1人区は「3勝23敗」だった。第1次安倍政権の時の参院選(2007年)も1人区で自民はボロ負け(6勝23敗)しています。
自民党にとって唯一の救いは、野党が割れているということ。特定の政党が圧倒的に強くて、過半数を取るような状況ではないということです。
89年は社会党が圧勝し、07年は民主党が圧勝しましたが、今は立憲民主党や国民民主党のどちらかが圧勝するということはないでしょう。だから、「32分の15」を取れるかどうか、すごく微妙です。
1人区で自民が獲得できる議席は堅く見て10。問題はあと5、上積みできるかどうかです。
少なくとも、国民全体で自民党に1票を入れてやろうというムードは極めて少ない。しかし、じゃあ、野党に入れてやろうかという時に、二つに割れた政党で立憲民主党なのか、国民民主党なのかという選択肢があるので、自民党は助かっている。だけど、立憲に入れてもむだだと思う有権者が増えたら、国民民主に票が流れる可能性は残っている。そこはまだ分かりません。
―最近の国民民主の比例候補発表(山尾志桜里氏、足立康史氏ら)には批判の声も相次いでいるようですが。
他の政党にいて問題を起こした人を擁立するなんて、国民民主のイメージダウン以外の何ものでもないと思いますけどね。候補者に「確認書」を取ったとか言っていますけど、何の役にも立ちませんよ。国民民主の支持率も頭打ちのようで、まだこれからどういう問題が起きるか、先行きは分かりません。
―焦点の選挙区の一つですが、自民は東京で2人擁立して勝てますか。
今のままでは2人(当選)は無理でしょう。東京、北海道、千葉とか複数区で2人候補を立てていますけど、勝てるのはどこもせいぜい1人ではないでしょうか。大阪や兵庫は複数区で1人立てていますが、そこですら危ない。13ある複数区で本当に13取れるかも微妙です。11になる可能性だって十分にあります。
そもそも東京は、2人当選させるための策があるのか。(7月20日投開票とされる)参院選まであと2カ月しかない。誰がどうやって選挙運動を進めるのか。国会議員を分けるとか、地域、団体を分けるという話になりますが、その前に行われる都議選で自民は大敗するでしょう。そして誰が参院選の選挙運動を担うのかという話になります。
参院議員は独自の後援会を持っている人が少ない。地方議員や衆院議員の後援会組織におんぶにだっこで、選挙を手伝ってもらっています。
―衆院選の選挙と全然違う。
全然違いますね。自民党に票を入れようかと思っても、「候補者の名前は誰だっけ」みたいな話が多い。衆院選は候補者個人の努力が大きい選挙ですが、参院選は政党に対する評価が大きく出ますから。
国民民主、与党入りしないのでは
―参院選で自公が50議席を割れば、石破首相退陣後、「自民・公明・国民」3党の連立による玉木首相論が取り沙汰され、与党が参院の過半数を維持し、首相続投になっても、衆院で少数与党のままだと政権運営が安定しないということで、自民党内に自公国連立を探る向きもあると言われますが、どう見ますか。
現状がそのまま続くということじゃないですか。与党が50議席取ろうが取るまいが、国民民主が政権与党入りすることはないのでは。自民党と組む選択肢は非常に少ないと思いますね。
―国民民主は独自路線を歩むという見方ですか。
国民民主への票は野党票なんです。自民党に入れたくないという票。与党入りしたら、与党として国民民主は批判の対象になります。
―国民民主への支持、人気は一気に失われますか。
もし、国民民主が与党になって自公と連立を組むと、次の衆院選ではボロ負けするんじゃないですか。今度は与党として戦うことになるんだから。国民民主の玉木雄一郎代表はそんな選択をしないと思いますよ。連立を選択したら、どういう結果になるか。かつての新自由クラブとか、保守党とか、新党さきがけとかの末路を見たら分かるじゃないですか。
玉木首相「常識的にはあり得ない」
―「自公国は9割9分連立するのではないか」と、国民民主以外の野党関係者から見通しを聞いたこともある。自公から「玉木首相」を提示されれば、玉木氏はそれに乗るのではないかとも指摘されるが。
そうすれば、その後の衆院選で国民民主党という政党はなくなります。与党に入ったら野党票は逃げていくんだから。そんなばかな選択はしないと思います。もし政権与党入りして玉木首相が実現したとしても、それで終わりです。玉木氏は首相になりたがっている、本人も公言しています。しかし、そういう政権を選択したとたん、玉木氏という政治家も終わりではないですか。
今、世の中の国民の75%は「自民党は何をやっているんだ」と怒っています。その怒りに対する受け皿が、立憲民主党だったり、国民民主党だったりしているが、それは野党だからです。それなのに、国民民主が与党入りしたら、今度は自民党ではなく、国民民主党に対し、「何やっているんだ」という批判が出ます。玉木首相になったからといって、今の政治や景気が好転しますか。あり得ないでしょう。
次の衆院選が終わって、さらに自民党が議席を減らし、国民民主党がさらに議席を増やして、首相になれるだけのある程度の議席を獲得すれば、そこから連立の協議は始まると思います。
国民民主党も今は政党運営すらままならない。だから、衆院議員経験者を参院選候補者として、かき集めている。「即戦力」がいないということでしょう。
―参院選後の「玉木首相」はあり得ないとの見方ですね。
常識的にはあり得ない、と思っています。
―消費税減税について、野党各党は一致していますが、自民党は減税しない方針です。選挙を考えると、自民党として戦いにくくないですか。
今さら、消費税減税の話を持ち出して、国民が反応しますか? しませんよ。「選挙目当て」と思われるだけです。いつから引き下げるかといっても、来年以降の話。関係ない。つまり、今さら消費減税を掲げても、自民党がぶれていることだけがあらわになり、かつ選挙目当てと思われ、何のプラスにもならない。引き下げないと既に言っているのに、野党の減税論に同調したら、自民党はそんなに窮しているのかと思われるだけです。
消費税を引き下げるんだったら、今年の初め頃に自民党の方から先に景気対策としてやらなければならないと言うべきだったが、野党や自民党内から、わんさか言われて、選挙が近づいたのであわてて、「じゃあ引き下げます」なんて言っても、(有権者は)反応しない。そんなことより、コメの値段を下げろでしょう。そっちの方が大問題じゃないですか。
(インタビューは2025年5月16日に行いました)