【どんどん差が広がる】「AIを使える人」と「使えない人」の“大きな違い”とは?(ダイヤモンド・オンライン)
量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。 そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。 『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回はAIを使える人と使えない人の違いについて抜粋してお届けする。 ● AIは学生を指導できるか? 大学教員の冬の風物詩は、学生の論文をひたすら添削する業務である。 特に英語論文の場合は、原形をとどめないほど修正する。 私も一人前に論文が書けるようになるまでは苦労した。 人工知能(AI)を使った便利な道具が、頭のなかのアイデアを論文にしてくれないかといつも思っていた。 翻訳サービス「DeepL」に代表されるような、AIを活用した機械翻訳の精度がここ数年格段に向上している。 日本語の専門的な文章をDeepLに入力すると、小慣れた感じの“完璧な”英文を出力してくれる。 そこで学生に、日本語の原稿をDeepLで英訳して持ってくるよう指示してみた。 ところが結果は悲惨なものだった。 おかしいなと思いよく見ると、そもそも元になった学生の原稿が、機械翻訳に入れると英訳しにくい日本語になっていた。 つまり、私が利用する場合には、自身の経験から翻訳しやすい文章を、意識せずに入力していたのだと気付いた。 結局、AIは学生が自力で英語の論文を書けるようになる指導はしてくれない。 ● ChatGPTがすごい マイクロソフトによる巨額投資でも話題のOpenAI社が開発した対話型AI「ChatGPT」には、さらに大きな衝撃を受けた。 いままでも質問対話型のAIはあったが、回答のレベルが格段に高く、AIの答えとは到底思えない。「量子力学とは?」のような質問はもちろんのこと、数式を必要とする専門的な解説までこなす。 「特定のプログラミング言語を使ってこれを実行するようなコードを書いて」と言えば、少し間違っている部分はあるものの、サンプルコードを書いてくれる。 間違いも、指摘すれば修正してくれる。 ならばと、「量子AIに関する新しいアルゴリズムの提案論文のイントロ部分を書いて」と頼んでみると、まったく問題ない答えが得られた。 「こういう観点のアピールがないので盛り込んで」と指摘すると修正までしてくれる。 学生を指導して自力で書けるようにするよりも圧倒的に簡単である。 「人間は適切な命令を作り、その出力が正しいかどうかチェックするだけでよいね」と教員の間で盛り上がった。 AIもここまできたのかと心底感心した。 ● AIを使える人、使えない人 しかし、周囲の反応を見ていると、AIを使った便利ツールをうまく使えている人とそうでない人がいることも分かってきた。 うまく使える人の特徴は、「こういう指示をすると、こう返ってくる」という自分の経験に基づいた上手な指示を出し、得られた「それらしい」答えが正しいかどうかを判断し、適宜修正している。 つまり、「やろうと思えばできるが煩雑に感じる業務」については、かなりの部分をAIが肩代わりしてくれそうなのだ。 しかし、「自分ではできない業務」のために適切な指示をすることは難しい。 今後、「自分でもできる人」がAIによる便利ツールを使うことで、恩恵にあずかれない「自分ではできない人」との格差はますます広がるのではないかと思われる。 「自分ではできない人」をできるように教育するAIが出てくることが望まれる(そうなるといよいよ私は仕事から解放される)。 (本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)
藤井啓祐