ターゲットは若い女性? エモい「国鉄の香り」ハンドクリームを開発した鉄道好きの本能

「国鉄の香り」や「蒸気の香り」などのハンドクリームシリーズ=23日、東京都千代田区(桐原正道撮影)

「国鉄の香り」をモチーフとしたハンドクリームや石鹸を、若い女性が買っているという。「国鉄の香り」とは一体何なのか。なぜ若い女性に響くのか。鉄道好きの記者がその秘密を探った。

材木のような懐かしい香り

「COQTEZ」(コクテツ)というブランドで「国鉄の香り」シリーズを展開しているのは、横浜市の合同会社ビイエルテイ。2017年に開発した「国鉄の香りルームフレグランス」を皮切りに、現在ではハンドクリームやルームミスト、石鹸をラインナップしており、インターネットショップや鉄道関連施設などで販売中だ。

実際にどんな香りがするのだろうか。ハンドクリームを手の甲にすりこんでみると、どことなく懐かしさを感じる材木のような香りが漂ってきた。博物館に展示されている旧国鉄時代の車両に入った瞬間に漂う「あの匂い」に似ている。商品の説明には「国鉄車両の車内で香っていた芳香で心地よい香り」と形容されている。

「国鉄時代は知らないけれど…」

産経新聞社内の若い女性社員に試してもらうと「木のような良い匂い。国鉄時代は知らないけれど『国鉄の香り』と聞くと、確かに重厚感のある匂いな気がする」とのこと。国鉄を知らない若者にとっても、良い香りであることは間違いなさそうだ。

「国鉄の香り」シリーズについて取材に応じるビイエルティの高橋竜代表

商品のメインターゲットは国鉄時代を知る熱心な鉄道ファンかと思いきや、同社の高橋竜代表(51)は「商品開発の段階から、ハンドクリームのターゲットは若い女性としていました。実際に『エモい香り』として若い女性にも人気なんです」と力説する。

雑貨販売大手「ハンズ」などの催事で商品を陳列すると、心地よい香りと洗練されたパッケージに加え、「国鉄の香り」という異質な宣伝文句に引き寄せられるように、興味を示すのは若い女性が多いそうだ。

ビイエルテイが展開する「国鉄の香り」や「線路の香り」などの石鹸シリーズ

「国鉄の香り」などのハンドクリームは、税込み3300円という強気な価格設定にも関わらず、2022年11月の発売からこれまでに累計で1000個ほど販売しているという。

一蹴する調香師を説得し…商品化

なぜ「国鉄の香り」商品を開発しようと考えたのだろうか。

幼少期から自宅近くを走行する国鉄型の通勤電車に親しんできた高橋代表は「物心ついたときから、と表現するより、生まれつき本能として電車が好きだった」と打ち明ける。その想いを形にしたいと考えた際に、五感の中でも嗅覚に訴える鉄道グッズがないことに気付いたという。

現在首都圏を走る鉄道車両は、空気清浄機を搭載しているものもあり基本的には無臭だ。幼少期に慣れ親しんだ国鉄型電車の匂いは、もう日常に存在しない。その香りを再現したいと考えた。

企画を調香師に持ち込むと「そんなもの誰が買うんですか?」と一蹴されてしまったが、説得を重ねて商品化にこぎつけた。調香師には博物館で国鉄型車両に乗ってもらい、数十回は試作を重ねたという。

「国鉄の香り」「線路の香り」などのルームミストシリーズ

「蒸気」や「線路」の香りも

現在では「国鉄の香り」シリーズに加え、蒸気機関車の甘い煙と石炭の匂いをモチーフにした「蒸気の香り」や、ローカル線の駅で嗅ぐ草木や線路の匂いを再現した「線路の香り」、茶色い国電に郷愁を感じる「旧国の香り」などをラインナップしている。

「香り」シリーズのほか、国鉄時代の座席をモチーフとしたクッションやポーチ類も展開している

高橋代表は「若い女性に訴求できれば、その親世代や男性にもアプローチできると考えた。ゆくゆくは『COQTEZ』ブランドを、シャネルやケイト・スペードのようなブランドの1つにしていきたい」と力を込めた。(桐原正道)

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