海鳥、アザラシ、ラッコが大量死、異常行動 北海道東部の異変
北海道東部の海岸線で3月中旬以降、致死率の高い高病原性鳥インフルエンザに感染したとみられる海鳥や海生哺乳類が次々と確認されている。
根室市内では有志による独自調査が行われており、4日現在で計614羽の海鳥をはじめ、アザラシやラッコの死骸が確認された。
Advertisement隣の浜中町で見つかったラッコ1頭の死骸からも感染が判明したが、近隣自治体の多くは調査態勢が十分ではなく、被害は氷山の一角とみられる。
海鳥の異変に気づき、有志で調査を続けているのは、根室市歴史と自然の資料館の外山雅大学芸員(47)や日本野鳥の会のレンジャーら。
3月14日、同市の歯舞漁港でエトロフウミスズメ1羽の死骸を回収し、猛禽(もうきん)類医学研究所(釧路市)にサンプルを提供したところ、PCR検査でA型鳥インフルエンザの陽性が確認された。
この日は、同市の花咲港でもアカエリカイツブリとヒメウの死骸が確認されている。
感染が原因とみられる異常行動の目撃も相次ぐ。
3月16日には、同市桂木浜で市内の男性が野鳥を観察中にウミネコとオオセグロカモメが突然倒れるのを目撃。
18日には根室市春国岱(しゅんくにたい)原生野鳥公園ネイチャーセンターのレンジャーが、足元がふらついて立ち上がれないオオセグロカモメを確認し、その2日後には花咲港でエトロフウミスズメがその場で回転し、頭を振る行動を目撃した。
レイチェル・カーソンの「沈黙の春」をほうふつとさせる異様な光景だ。
一部のサンプルは根室振興局で簡易検査後、猛禽類医学研究所や国立環境研究所(茨城県つくば市)に送られており、検査した個体の9割近くから陽性反応が出たという。
また、環境省の鳥獣保護員の漁業男性の報告では、3月中旬から太平洋岸の沖合、約10キロでエトロフウミスズメとみられる死骸が5羽以上、確認された。
その後も、沖合を漂うコアホウドリ、ケイマフリ、ビロードキンクロ、ウトウなどの海鳥の死骸が確認されている。
一方、被害は海生哺乳類にも拡大しており、アザラシ類、ラッコの感染が国内で初めて確認された。
アザラシ類は4月18~25日に計6頭の死骸と衰弱個体が見つかり、検査したゼニガタアザラシ4頭のうち2頭の感染が判明。衰弱した個体はいずれも目が充血し、呼吸が荒く、体を震わせていたという。
西隣の浜中町では同22日に回収されたラッコの死骸から鳥インフルエンザ感染が確認された。5月4、5日には根室市桂木の海岸線でも、感染が疑われるラッコ2頭の死骸が回収された。
繁殖地での大量死への懸念も
調査チームが海岸線を歩いて死骸の確認や回収を行ったり、漁業者からの情報を集約したりした結果、感染した可能性がある海鳥は、環境省のレッドリスト掲載の5種(ウミガラス、ウミスズメ、コアホウドリ、ヒメウ、ケイマフリ)を含め計23種に上る。
とりわけ数が多いのはエトロフウミスズメで、4月18日に回収された約200羽のうち155羽を占めた。外山学芸員は大量死の背景や感染ルートなどは「分からない」と頭をひねる。
一方で、船の上で死んでいたクロガモを海に投げたところ、ワシが食べていったという報告が漁業者から寄せられているといい、「感染した鳥の死骸を食べることによる感染連鎖も懸念される」と指摘した。
海鳥はこれから繁殖期を迎えるため、外山学芸員は「コロニー(集団繁殖地)での感染拡大によって、海鳥が大量死する恐れがある」と危機感を募らせる。【本間浩昭】
根室市で確認された鳥インフルエンザ感染の疑いがある海鳥の死骸の数
★エトロフウミスズメ=289羽
★ウミネコ=97羽
★オオセグロカモメ=45羽
★ウトウ=43羽
★ケイマフリ(絶滅危惧Ⅱ類)=13羽
ハシブトウミガラス=13羽
★ウミガラス(絶滅危惧ⅠA類)=9羽
クロガモ=9羽
ヒメウ(絶滅危惧ⅠB類)=8羽
★ビロードキンクロ=8羽
★アカエリカイツブリ=7羽
★ウミスズメ(絶滅危惧ⅠA類)=6羽
コオリガモ=3羽
ウミアイサ=2羽
ウミウ=2羽
コアホウドリ(絶滅危惧ⅠB類)=2羽
シノリガモ=2羽
オオハム=1羽
コウミスズメ=1羽
シロエリオオハム=1羽
シロカモメ=1羽
セグロカモメ=1羽
★ハシジロアビ=1羽
※外山雅大学芸員まとめ。種が同定されていない50個体は除く。★は高病原性陽性またはPCR検査でA型陽性が確認された種、カッコ内は環境省レッドデータの分類。4日現在