参院選、自公過半数割れで想定される4つのシナリオ-政権は正念場に

20日投開票の参院選で、自民、公明の連立与党の非改選を含めた議席数が過半数(125議席)を下回る可能性が報じられている。大幅に割り込めば石破茂首相の求心力はさらに低下し、政権は正念場を迎える。

  参院選で最大の争点となった物価高対策で現金給付を掲げた与党に対し、野党各党は消費税減税を主張した。外国人政策や米国の関税措置、コメ価格高騰対策、社会保障制度改革などを巡っても論戦が交わされた。

  与党の改選議席は66だが、非改選と合わせて50議席を確保すれば過半数を維持できる計算だ。ただ、JNNは14日に公表した中盤情勢で、与党が過半数割れする可能性を指摘。朝日新聞も「困難な情勢」と15日付朝刊で報じた。いずれも序盤より与党が劣勢と分析している。

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  過半数割れで想定される四つのシナリオは以下の通り。

1:石破首相が続投、衆参両院で少数与党

  衆院選とは異なり、参院選後に首相指名選挙を行う必要はない。参院選の結果、過半数割れしても首相を続けることは可能だが、政権基盤はさらに弱体化する。米国による上乗せ関税の発動が8月1日に迫る中、ヤマ場を迎える関税交渉を乗り切るため、まずは続投を選択する可能性がある。法案や予算案を成立させるための与野党間の調整が引き続き行われる。

  ただ、石破首相自身が必達目標と位置付けていた過半数に届かなければ、自民党内から責任を問う声が浮上しかねない。読売新聞の情勢調査では自民の獲得議席は24-39と、過去最低だった宇野宗佑政権下の1989年に記録した36議席を下回ることも指摘されている。大幅に割り込めば首相の進退問題に発展しかねず、政権にとどまっても野党が一致すれば衆院で内閣不信任決議案が成立するリスクが引き続きつきまとう。

  94年4月に発足した羽田孜内閣は首相指名選挙で社会党などの支持も得たものの、同党が内閣発足前に連立を離脱し、衆参両院で過半数を失った。6月に内閣不信任決議案が可決される見通しとなり辞職を表明。約2カ月の短命内閣に終わった。

2:連立拡大を模索

  当面は政策課題ごとに各党と協議し、法案や予算案などの成立を図るとみられる。国会での意思決定を円滑化するため、自民、公明両党が一部野党との連立を模索する事態も想定される。2024年度補正予算に賛成した国民民主党や、25年度予算にも賛成した日本維新の会が有力候補になる。連立交渉の結果によっては自民以外の党首が首相に就任するケースもあり得る。

  石破首相は10日、BSフジ番組で「スピード感を持ってきちんとした答えを出す、そういう政治の姿は模索されていくことがあるだろう」と、政権の枠組みを拡大する可能性も否定しなかった。

  小渕恵三内閣は1998年7月、自民単独政権として発足した。参院で過半数割れとなっていたため、翌年1月には小沢一郎氏が率いる自由党との連立政権を樹立。10月には公明が加わり、枠組みの拡大に成功した。

3:野党が一致し政権交代

  石破首相が続投した場合でも、野党が一致して内閣不信任案を可決させれば、憲法の規定により、首相は10日以内に衆院を解散するか辞任するかの判断を迫られる。いずれの場合も自民は政権を失うリスクに直面する。

  不信任案提出のタイミングは必要な51人以上の勢力を持つ立憲民主党の判断がかぎを握る。野田佳彦代表は街頭演説などで、参院でも与党を過半数割れに追い込んだ場合、秋に開かれる見込みの臨時国会では野党各党が一致できるガソリン暫定税率廃止法案の成立を目指す方針を示している。

  10日のBSフジの番組では野党連立政権の可能性を問われたが、暫定税率廃止など野党主導の法案成立で成功体験を積み上げ、基本政策で最低限の一致ができれば、連携の可能性が高まると述べた。

4:石破内閣退陣、自民が新総裁選出

  石破首相が辞任すれば、自民党総裁選で選出された新たな総裁が首相指名選挙に臨む運びとなる。昨年の総裁選で石破首相と決選投票を争った高市早苗前経済安全保障担当相、随意契約による備蓄米の売り渡しが一定の評価を得た小泉進次郎農相に加え、林芳正官房長官、加藤勝信財務相、小林鷹之元経済安全保障担当相、岸田文雄前首相などが名乗りを上げる可能性がある。

  昨年の衆院選後の特別国会のように野党が一致した行動が取れなかった場合は、新総裁が首相となるが少数与党の状況は変わらず、厳しい政権運営が続く。現在は野党の党首を自公が首相候補とする可能性もある。自民は羽田内閣退陣後の94年6月、社会党の村山富市委員長を首相候補に担ぎ、政権を奪還。自民、社会、新党さきがけの3党連立による村山政権を発足させた。

  過去に自民が参院選で大敗した後、退陣した首相は3人。89年の宇野宗佑、98年の橋本龍太郎の両氏は選挙翌日に辞任を表明し、約2週間後に行われた党総裁選を経て新たな首相が選出された。

  安倍晋三氏は第1次政権下の2007年の参院選で過半数割れとなったが、首相の座にとどまった。内閣改造で局面打開を図ったが、選挙の約2カ月後に辞任を表明。約1週間後に総裁選が行われ福田康夫内閣が発足した。

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