《手嶋龍一氏が警告》日米首脳会談で高市首相に迫られる重大決断「イラン攻撃を全面的に支持するのか?」支持表明なら日本のタンカーがイランから狙い撃ちされる大きなリスク(NEWSポストセブン)

 ヒロシマ、ナガサキの惨劇を味わった日本は、"ネタニヤフの戦争"が内に秘めた危うさをもっと自覚していいだろう。とりわけ、"中東の核"が現実に使われる危険に備えるべきだと思う。  中東地域に核保有国は存在しないと日本では思われがちだ。だが、イスラエルが核保有国であることは公然の秘密だ。さらにサウジアラビアも、パキスタンが核開発する過程で膨大な資金を密かに提供し、その見返りに有事に核弾頭を引き取る権利を手にしたといわれる。この密約はインテリジェンス関係者の間では既に常識となっている。  産油国で豊富な資金を持つバーレーンやアラブ首長国連邦も核を調達している可能性を排除できない。そしてイランもウラン濃縮に手を染め、核保有に近づいていた。このように"中東の核"がテロ組織の手に渡る恐れも否定できない。今次の米国・イスラエル対イラン戦争がきっかけとなって核が使われるハードルは下がっている。  イランのウラン濃縮は60%の水準に達し、核兵器級の90%に引き上げるのはさして難しくない。核弾頭を装備するミサイルも北朝鮮などの技術支援を受け着々と進んでいた。イスラム革命防衛隊の強硬派やシーア派武装組織のテロリストが核弾頭に手を伸ばさないと誰が保証できるだろう。イスラエル国内や中東の米軍施設に小型核弾頭が持ち込まれる――そんな悪夢が現実とならないよう現下の戦争を早急に収めるよう努力すべきなのである。

 中東に原油の9割以上を頼る日本はいま重大な局面に立たされている。命綱のホルムズ海峡が完全に封鎖されれば、エネルギー小国ニッポンはどうして生きのびるのか。血路をどう拓くべきか。「邦人保護に全力を尽くす」、「イランは核を持つべきではない」、そんな外務官僚の作文を政治家が読み上げるだけでは何もしていないに等しい。  1980年代のイラン・イラク戦争当時、日本は独自外交で仲裁に乗り出し、国際社会に存在感を示した。その外交工作を取材してきた立場からは、"ニッポンの中東外交衰えたり"と言わざるを得ない。  高市首相は国会で米国のイラン攻撃の是非を問われて、「これが自衛の措置かを含め情報を持ち合わせていない。我が国として法的評価は差し控える」と及び腰だ。  だが、3月19日から訪米し、トランプ大統領との首脳会談では賛否を明らかにするよう迫られるだろう。トランプ氏は先の総選挙の投票日の前に「高市内閣を完全かつ全面的に支持する」と言明した。今度は当然ながら高市総理に米国のイラン攻撃に全面的な支持を求めてくるだろう。  現在、ホルムズ海峡でイランの標的にされているのは米国と米軍に基地使用を認めた英国の船が中心だ。日米首脳会談で高市総理が米国支持を表明すれば、日本のタンカーも狙い撃ちされる。  それほどに一国の外交とは苛烈なのである。そして"同盟外交"は更に厳しい。米国の軍事行動を支持すれば、中東からのエネルギー供給が危機に晒される。その一方で、米国に抗えば、日米同盟に亀裂を生じかねず、台湾有事にも暗い影が差すだろう。「日米同盟をさらに強固なものにしていく」といった外交辞令では到底凌げない。  血なまぐさい戦争には消極的だと見られていたトランプ氏だったが、ベネズエラでの力の行使に味をしめ、中東でも軍事行動を拡大する恐れがある。ネタニヤフ氏のような原理原則を持たないだけに、トランプ氏の迷走は国際社会をさらなる混迷に陥れる危険がある。来るべき日米首脳会談こそ高市総理にとって真剣勝負の舞台となるだろう。 (前編から読む) 【プロフィール】手嶋龍一(てしま・りゅういち)/北海道生まれ。外交ジャーナリスト・作家。インテリジェンス戦略の第一人者。2001年の同時多発テロ事件ではワシントン支局長として昼夜連続の中継放送を担う。インテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』『スギハラ・サバイバル』等著書多数。 ※週刊ポスト2026年3月20・27日号

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