「万博オワコン」の汚名返上 大屋根リングの存在感に落合陽一氏のヌルヌル館も「負けた」

万博最終日に大屋根リングの下で来場者と触れ合う落合陽一氏=13日午後、大阪市此花区(酒井真大撮影)

184日間にわたった大阪・関西万博は13日、盛況のうちに終幕した。SNSを通じリアルな体験の価値が再認識され、「時代遅れ」といった開幕前の悪評を覆した。158の国・地域が一堂に会する好機を生かし、地球規模の課題を巡って対話を重ね、万博宣言に結実。「分断」の時代に開催する意義を示した。

「大屋根リングに負けた」

8つのシグネチャーパビリオンの一つ「null²(ヌルヌル)」を手掛けたメディアアーティストの落合陽一氏は万博会場で12日開かれた会合で、こう悔しがった。それだけ会場内でリングの存在感は突出していた。

リアル体験、五感訴え

開幕前は逆風だった。建設費に344億円を要したリングは「税金の無駄遣い」と批判され、万博は「オワコン(終わったコンテンツ)」だとして中止論も噴出。だが開幕すると、SNSでリングの迫力と造形美を称賛する来場者の投稿が相次ぎ、閉幕後の一部保存が決まった。

リアルな体験が高評価につながったのは、パビリオンも同じ。視覚だけでなく、音や振動などで五感に訴える施設が多かった。落合氏はいう。

「物理的に体を持ってきてしか体験できない面白いものをつくることがわれわれのコンセプト。現場はSNSより10倍よかったといって、みんな帰っていった」

評価は数字に表れた。会期中の累計一般来場者数は2500万人を超えたほか、運営収支は最大280億円の黒字が見込まれ、吉村洋文大阪府知事は「合格点」とした。

課題もある。リングの保存・活用を巡っては、より深い議論を求める声が一部で出た。万博に詳しい関西大の岡田朋之教授(文化社会学)は、2005年愛知万博で定着した市民参加や開かれた議論が「今回は十分ではなかった」と指摘した。

進む経済連携

多額の公金を投入した国家事業である万博が、「成功」の評価を揺るぎないものとするには、現代に開催する意義を浸透させる必要がある。

1994年の博覧会国際事務局(BIE)総会決議を機に、それまで国威発揚の側面が強かった万博は「現代社会の要請にこたえる今日的なテーマ」を有する課題解決型に。大阪・関西万博では「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに地球規模課題の解決を目指した。

政府は参加国首脳らと「万博外交」を展開し、関係を強化した。会場には再生医療やモビリティーなどの最新技術が出展され、参加国とのビジネス交流を通じて経済連携が進んだ。8つのテーマごとに参加者が対話する「テーマウィーク」事業では、食糧危機や紛争、気候変動といった課題を巡り、今後の未来像に関する議論が交わされた。

こうした成果を踏まえ政府が取りまとめた「大阪・関西万博宣言」では「相互理解と対話を促す重要な公共財」と万博の意義を明記し、会期中の「議論や実践が、今後の万博に継承される」ことを願うと結んだ。継承にあたっては、先進国の万博のあり方を示した日本のリーダーシップも求められる。

ノウハウはリヤドに

大阪・関西万博の運営手法などのノウハウは、次期大規模万博として2030年にサウジアラビアで開幕するリヤド万博に引き継がれる。課題解決という理念の共有も欠かせない。

大阪・関西万博が閉幕した13日、サウジのガーズィー・ファイサル・エス・ビンザグル駐日大使は大阪市の万博会場内で記者会見し、「大阪・関西万博で学んだ、人々の心を結びつけることの大切さをリヤドに持っていきたい」と語った。

サウジは国家的プロジェクトと位置付ける万博を機に、石油依存から脱却して経済の多角化を図る狙いだ。

9月22日には、武藤容治経済産業相とサウジのファリハ投資相が東京都内で会談し、大阪・関西万博のノウハウ継承について合意した。経産省によると、両国関係者の相互訪問を通じ、主に動員戦略のほか、パビリオンの運営やボランティアの育成に関わる手法などを共有する見通しだ。

ノウハウだけでなく、各国の対話と交流を通じ持続可能な社会を目指す万博理念の継承も課題となる。

SDGsの流れ加速か

リヤド万博が開幕する2030年は、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成年限でもあり、同万博のテーマ「共に先見性ある明日へ」の柱の一つに「持続可能性」を据える。

同じ中東で21~22年に開催されたドバイ万博の関係者は今月12日、大阪市内の会合で、SDGsに関する対話の流れがドバイと大阪・関西の両万博で加速してきたとして、リヤド万博で「勢いを失うことなく、さらにムーブメントが展開することを期待している」と強調した。(入沢亮輔、江森梓)

「対話創出の役割、分断の時代に必要」

大阪国際大の五月女賢司准教授(万博史)の話

大阪国際大の五月女賢司准教授

インターネットが発達し、世界中の情報が容易に入手できるようになったことで、万博は「時代遅れ」といわれる側面もある。だが、それは今に始まったことではない。万博は技術発展の象徴である一方で、新たな技術の登場によって歴史的位置付けが相対的に下がる宿命にある。

それでも、万博は現代においても多面的な意義を持つ国家的プロジェクトといえる。まず首脳外交の舞台として、国際的な対話を創出する役割があり、新たな外交関係が構築されてきた。

経済外交の場としての機能も大きい。最新技術が紹介され、政府や企業、研究機関の間でのネットワーク形成を促す。市民レベルの国際交流も活発で、多様な文化や価値観に触れる機会が広がった。地球規模課題の解決に資する取り組みを各国や企業が持ち寄り、万博は「課題解決型の国際協働プラットフォーム」へと進化している。

万博は決して過去の遺物などではない。むしろ分断や不確実性の時代にこそ必要とされる舞台であり、今後も開催する意義はある。(聞き手 江森梓)

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