インテル、米政府が株取得でも業績回復につながるかは不透明
米国政府によるインテルへの出資計画は、低迷する同社にとって強力な後ろ盾となる可能性がある。ただし、十分な数の顧客を確保するという、より大きな課題は依然として残っている。
ウォール街のアナリストらは、売上の減少とシェア喪失が数年続いているインテルが、資金投入だけで業績を回復するとはみていない。ただし、トランプ米大統領からの圧力によって、同社の製品に新たな顧客が集まる可能性はあり、国内製造拡大のコストを正当化できる展開となるかもしれない。
1990年代から同社を見ているシノバス・トラストのシニア・ポートフォリオ・マネージャー、ダン・モーガン氏は、米政府がインテルの株主になれば、「トランプ大統領が営業マンになるようなものだ」と語った。
トランプ氏は今年、米国内への投資として数兆ドル規模の誓約を取り付けている。一部には既存の計画を再構成したものも含まれるが、アップルは米国内の拡張に6000億ドル(約88兆4600億円)を投資すると約束し、台湾積体電路製造(TSMC)もアリゾナ州での工場建設の一環として1650億ドルの投資を表明している。
トランプ政権はインテルを巡り、実現の可能性が低そうな課題に直面している。つまり、懐疑的な潜在顧客を説得し、インテルに製造を委託させることだ。インテルは顧客の設計に基づいて半導体を製造する受託事業でTSMCと競合しようとしてきたが、対抗できるだけの能力を持てずにいる。
バーンスタインのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は顧客向けのリポートで「資金だけではなく、インテルには顧客が必要だ」と指摘する。また、「この取り組みの一環として、政権が顧客にインテルの製造能力を使うよう、直接的または関税その他の規制を通じて『奨励』することは考えられるのだろうか。それは分からない」と述べた。
一方、ソフトバンクグループはインテルに20億ドル出資することで合意しており、製造を委託する可能性が浮上している。孫正義会長兼社長は、トランプ氏と緊密な関係を築いており、エヌビディアと競合する人工知能(AI)向け半導体を開発するとの野心を抱いている。
米国のラトニック商務長官は、国内半導体業界支援法(CHIPS法)に基づくインテルへの補助金の一部または全額を、株式に転換する可能性を検討していると明かし、「われわれは自国で半導体を作らなければならない。台湾に依存することはできない」と語った。
出資の効果は
近年混乱と業績低迷に悩まされてきたインテルにとって、今は楽観的な瞬間である。
インテルのパット・ゲルシンガー前CEOは、オハイオ州の大規模な新工場建設を軸とした拡張計画で、インテルの再建を図ろうとした。インテルをファウンドリーへと変貌させ、外部顧客向けに半導体を受託生産する狙いがあった。2022年には、バイデン大統領(当時)とゲルシンガー氏がオハイオの建設予定地で起工式を行い、2万人の建設雇用と米国半導体産業の再出発を約束した。
だが、大口の外部顧客なしには、導入コストの高い最先端技術を備えたこの工場は成り立たない。インテルはこのプロジェクトを繰り返し延期しており、現在のところ、稼働は2030年代までずれ込む見通しとなっている。
シーポート・リサーチ・パートナーズのアナリスト、ジェイ・ゴールドバーグ氏の試算によると、インテルが次世代の製造技術を実用化するには約200億ドルが必要となる。
バーンスタインのラスゴン氏は、政府による出資と引き換えの現金供与が、もともとのCHIPS法の助成金より必ずしも有利な取り決めではないとも指摘する。同氏は「顧客がいないまま設備拡張に資金を投じても、米政府も含めた株主にとって、結局はいい結果にはならない」と述べた。
また、米政府やソフトバンクからの出資は、インテルの業界内での立ち位置を変えるものではない。同社は、AI向け半導体の生産で遅れを取り、現在はエヌビディアがこの分野を支配している。
カウエンのアナリスト、ジョシュア・ブハルター氏は、大規模データセンターを運営するアルファベットのようないわゆる「ハイパースケーラー」が、政府の指示に応じて性能の劣る半導体を受け入れることはないとの見方を示した。同氏によると、米政府の出資が、競争力不足に起因する問題をどう解決するのかは明らかになっていない。
アップルやエヌビディアなど多くのテック企業にとって、TSMCは頼みの綱となるファウンドリーだ。一方インテルは、世界の半導体設計・製造各社に再び追いつけるとまだ証明できていない。国内生産復活の要となる役割を担えるかどうかは、なおさら不透明だ。
シノバス・トラストのモーガン氏は「インテルはなお、成果を出さなければならない。この出資が、本当に大きな違いを生むのだろうか」と語った。
関連記事:瀬戸際からの逆転劇、孫・トランプ両氏の支援確保したインテル (1)
原題:Intel Rescue Will Depend on Trump as Investor - and Pitchman(抜粋)