血まみれのケンカでも「絶対にトドメは刺さない」ジャングルに生きる写真家が目撃した“野生ゴリラの任侠ぶり”「彼らを唯一怒らせてしまうのは…」(文春オンライン)
――ちゃんと返してくれたんですね。 森 そうなんです。ゴリラはこれは誰の持ち物なのかわかるといいますからね。頭がいいんです。 お母さんゴリラは私のところまで走って持ってきたのですが、カメラの三脚に当たらないように避けてくれて。そうした気遣いもしてくれるんですね。
――意外と理性的なんですね。 森 たとえばNo.1とNo.2のゴリラがお互いに胸を叩き合い、今にも喧嘩になりそうだったとするじゃないですか。すると、子どものゴリラが「ギャー! 止めてくれー!」という感じで間に入り、仲裁をするんです。2頭とも「じゃあ、しょうがないな」という雰囲気になり、そこで喧嘩は終わり。お互いのメンツを保ったまま止めることができるんです。 ゴリラたちも相手と本気でやり合えば、お互いにダメージが大きくなることをわかっています。だから、もし血だらけになるような喧嘩でも、肩や脇の下などを狙うんです。絶対にとどめは刺さないですね。
――最近の日本では、野生のクマが人を襲ってしまうことがあります。ゴリラは現地の人を襲うのですか? 森 ないと思いますよ。ゴリラは草食ですし、人間を食べるものだと思っていないんです。ゴリラが何かされて怒ったら襲うかもしれませんが、人間を食べるためには襲いません。 ――人里に出てくることはあるんですか? 森 ありますよ。たとえば、村で一生懸命栽培しているツリートマトという美味しい果物を、ゴリラが食べてしまうこともあります。 ルワンダの国立公園では、ゴリラの生息地がかつての半分になっています。国立公園内が過密状態なので、ゴリラが公園から出て、食べ物を探しにきてしまうんです。 ――たとえばクマよけの鈴のように、ゴリラへの対策法はあるんですか? 森 国立公園から500m以上降りてきたら追い返していいことになっています。竹槍で「エイッ!」という感じで追い返しますが、また戻ってきちゃうみたいですね。 昔と比べて公園の敷地が狭いので、そういうことが起きてしまうんだと思います。ゴリラの生息や保護に関しては、まだまだ課題が残っていますね。 「二股をかけてアプローチ」「高齢のメスがモテるんです」2頭のゴリラがカメラの前で絡み合い…日本人写真家が目撃した“野生ゴリラたちの性事情” へ続く
松永 怜
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――では、森さんは危険な目に遭ったことはないですか? 森 ゴリラに吹っ飛ばされたことはありますよ。メスで、すごく親しくしていた「インイェンイェリ」という子どものゴリラがいたんですけどね。 私はザックを担いで森の中に入るんですけど、しょっちゅう雨が降るから、ナイロンのカバーをしているんです。ある日、ザックカバーが少しめくれていて、インイェンイェリが遊び半分にそれを剥ぎ取って舐めたり匂いを嗅いだりしていたんです。 最初は「待っていれば返ってくるだろう」と思っていたんです。でも、ふと見たらインイェンイェリの体にうんちがついていて。ザックカバーにうんちがついたら嫌だなぁ……と思って、インイェンイェリに手を差し出して「返して」って言ったんです。 そしたら突然、インイェンイェリの父が私に向かってブワーッと突っ込んできて。私に触りはしなかったんですが、その勢いで私が後ろに吹っ飛んだんです。隣にいたトラッカーが「ギャー! 啓子! 大丈夫か!」と叫んで、その場が騒然となりました。 たぶん、私が子どもに何か危害を加えるかも知れないと思ったんでしょうね。ゴリラは穏やかな性格なんですけど、自分の子どもに危害を加えられると怒るんですよ。
――それは災難でしたね……。 森 でもあるとき、インイェンイェリとは別のグループで、同じように子どものゴリラがザックカバーを取って舐めていたことがありました。 私はもう、じっと黙って様子を見ていました。そのうち他のゴリラたちもやってきて、カバーに触りたい様子で、ドラミング(胸を手のひらで叩く動作)をして興奮してるんですね。 「これはもう返ってこないかも」と諦めかけたとき、お母さんゴリラが子どもからザックカバーを取り上げたんです。子どものゴリラは、他のゴリラたちには触らせなかったカバーを、お母さんには素直に渡したんですよね。 お母さんゴリラはそのままザックカバーを持って、私のカメラの前に置いて去っていきました。