競馬記者が見た『ザ・ロイヤルファミリー』(3)ロイヤルホープは北海道日高地方の牧場へのエールだ

『ザ・ロイヤルファミリー』第3話の1シーン©TBSスパークル/TBS

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俳優、妻夫木聡が主演を務めるTBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(日曜後9・0)が放送中だ。競馬の世界を舞台に夢を追い続けた熱き人間と競走馬の20年にわたる壮大なストーリー。山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞をダブル受賞した、作家・早見和真氏による同名小説が原作のドラマをキャリア30年超の競馬記者が毎週の放送に合わせてレビューする。

※以下、『ザ・ロイヤルファミリー』のネタバレが含まれます。

次回放送の予告でついに目黒蓮が登場。どんな役で出てくるのかは見てのお楽しみということで第3話だ。

栗須栄治(妻夫木聡)の元恋人・野崎加奈子(松本若菜)と父、野崎剛史(木場勝己)が経営しているノザキファームで、運命の歯車を動かすことになる子馬を購入するまでが描かれた。そこに至るまでに、競走馬生産のメッカと呼ばれる日高地方の厳しい現状を丁寧に描いたことでリアリティーが増した。

日高地方は、日高町、平取町、新冠町、新ひだか町、浦河町、様似町、えりも町のある北海道中南部のエリアを指す。新千歳空港から日高に向かって車を走らせると、競走馬の生産牧場が続く(右手には太平洋が見えるところもある)。内陸部のほとんどはサラブレッド生産牧場で、春から夏にかけては牧場で草をはむ馬の親子の姿を見ることができる。

ドラマの序盤で、日高地方の牧場が生産した4頭の名馬が実際の写真とともに紹介された。

史上初めて無敗で皐月賞、日本ダービー、菊花賞の3冠馬に輝き、芝のGⅠレースを7勝したシンボリルドルフは門別町のシンボリ牧場産。

そのシンボリルドルフを父に持ち、無敗で皐月賞と日本ダービーの2冠に輝いたトウカイテイオーは新冠町の長浜牧場が生産した。

テイエムオペラオーは2000年に天皇賞・春、宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念を含む8戦全勝、史上最多の年間GI5勝を達成。こちらは浦河町の杵臼牧場で生まれた。

マツリダゴッホは新ひだか町(当時は静内町)の岡田スタッドの生産馬で、2007年の有馬記念を制した。

4頭とも有馬記念を勝っているのは、馬主の山王耕造(佐藤浩市)が有馬記念制覇を目標に掲げているからだろう。ちなみに第3話で挿入されたレースも昨年の有馬記念だ。

今でもキタサンブラック(日高町・ヤナガワ牧場)、メイショウタバル(浦河町・三嶋牧場)、サトノレーヴ(日高町・白井牧場)など日高地方からGⅠ勝ち馬は出ているが、高齢化問題や後継者不足によって中小牧場の数は減り続けているのが現状だ。ドラマでもロイヤルファイト、ロイヤルイザーニャの林田牧場が年内(2012年)いっぱいで廃業することになった。

ドラマの中で隆盛を極めている牧場は、北海道千歳市(胆振地区)に拠点を置く北稜ファーム。ここが主催する競走馬セールで馬を購入しないとGⅠを勝つのは難しいとさえ言われるほどの存在として描かれている。北稜ファームは、競馬ファンなら誰もがディープインパクトやハーツクライ、オルフェーヴルなど数々の名馬を生産している社台グループ(社台ファーム、ノーザンファーム、追分ファーム、白老ファーム)を想起するだろう。

興味深かったのは、栗須が北稜ファームのセールのカタログに載っている種牡馬(セールに上場する馬の父)の名前を蛍光ペンで塗ったシーン。種牡馬スペシャルソニックは門別の生産馬なのだ。父はサンデースタイルで、母はファントムガール(その母レディーチトセ)。スペシャルウィークがすぐに思い浮かんだ。というのも、日本ダービー、ジャパンカップ、春と秋の天皇賞を制した同馬は、門別町(現日高町)・日高大洋牧場の生産馬で、父サンデーサイレンス、母キャンペンガール(その母レディーシラオキ)なのだ。ドラマで門別産のスペシャルソニックの文字をアップにしたのは、製作スタッフによる日高地方の牧場へ向けたエールに思えた。さらに、山王耕造がノザキファームで購入した子馬(ロイヤルホープ)そのものが日高地方の牧場へのエールなのだろう。

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