責任者はいったい誰だ!? 万博工事代金未払い問題が解決しない構図

 「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマにした大阪・関西万博は、パビリオン建設で「工事代金の未払い」という大きな矛盾を抱えたまま開催され、解決されずに10月13日の閉幕を迎えようとしている。万博来場者は2200万人を超え、入場料収入やグッズの売り上げなどをあてる半年間の運営費1160億円は黒字になる見通しだ。「2025年日本国際博覧会協会」(万博協会)をはじめ関係者は面目が立ちそうだが、工事代金を踏み倒された被害業者らは黒字どころか倒産の危機に追い込まれている。

 国、大阪府、万博協会はいずれも「万博工事だからと言って、特別な救済制度は設けられない」との立場を取る。国家プロジェクトで起きた巨額の工事代金トラブルは、関係者がそろって「うちの責任ではない」と主張する構図の中に落ち込んでいる。

「万博協会が失敗を認めたらそれで済む話」

2024年12月に着工し、2025年4月13日の万博開幕目前に完成したマルタのパビリオン。元請けの企業のGLイベンツが1億円を超える工事代金を踏み倒している=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博で、2025年6月10日、筆者撮影

 9月30日、衆院第二議員会館の面談室で、国会議員らも協力して経済産業省の博覧会推進室と工事代金未払い被害者らと交渉の場が持たれた。経産省は半年前から被害者らの相談を受けながら、国としての救済策を打ち出すわけでもなく、未払いの当事者らから話を聞いてはいるものの支払わせるには至っていない。

「話をシンプルにしましょうよ。誰が悪いのかと言えば、これは万博協会が悪いんです」

 交渉から1時間が過ぎたころ、被害業者の1人が着地点の見えない話し合いに業を煮やして言った。マルタパビリオンの建設にかかわった神戸市のコンサル会社、高関千尋社長だ。

 万博の海外パビリオン建設を巡っては、約10カ国のパビリオンで工事代金トラブルが明らかになっている。中でも、フランス資本のイベント会社「GLイベンツ」は、マルタ、セルビア、ルーマニア、ドイツの4カ国のパビリオンで元請けをし、場当たり的で滅茶苦茶な工事を現場に強いた挙句、判明しているだけで4カ国合計で約6億7000万円の工事代金を踏み倒し、4パビリオンとも訴訟になる異常事態を引き起こしている。

 マルタパビリオンで一次下請けをした関西の建設会社A社の社長は、極端に工期が短い上、やり直しが多発する修羅場のような建設現場で、不眠不休で働き体重が1カ月で7キロ減った。何とか開幕に間に合わせたが、工事代金のうち約1億2000万円が未払いで、今年5月、GLイベンツからは支払い拒否のメールが来た。

 高関社長はA社の下請けとして現場に入っており、「万博協会はパビリオン建設工事を管理する立場にありながら、それができていなかった。万博協会が失敗を認めて、被害者にお金を払ってくれればそれでいい。その先の話として、万博協会は代金を払わない悪い人に請求したらいいんです」と訴えた。

 しかし、経産省は「(A社の)経営者が判断して(GLイベンツと)パビリオン建設の契約をしたわけで、責任は契約者に帰するもの」とし、万博協会の管理監督責任は認めなかった。

 会社経営が逼迫する被害業者らは金融機関からの融資を受けられないことから、交渉に同席した国会議員や支援団体から「通常の融資の枠組みではない支援策としての融資」や「国による立て替え払い」の要望が出た。

 これについても経産省は「リスクを無視して新しい融資スキームを作ることはできない」「代金を支払うべき企業がいるのに、税金で立て替え払いをしたら(責任企業を)高笑いさせるだけ。税金の使い道として適切ではない」との立場を崩さなかった。

「責任の所在はいったい誰にあるんだ」

ロケットで宇宙に飛び立つような体験ができるアメリカのパビリオン。内装工事の二次下請け会社が工事代金を払わないまま倒産した=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博で、2025年4月17日、筆者撮影

 経産省に続いて、国土交通省の建設業適正取引推進室との交渉が行われたが、救済を求める被害者に対し、「(パビリオン建設工事で)建設業法に抵触することがあれば、(建設業者としての)許可行政庁が対応する」という回答に終始していた。

 万博会場における整備スケジュールの問題を指摘したのは、アメリカパビリオンの内装工事を行い2800万円の未払い被害に遭った千葉県の会社の関係者だ。

「もう間に合わないと言われながら、(4月13日開幕の)開催ありきでゴリ押しした万博の建設スキームに欠陥があったと思う。昼夜を問わず働き、時間に全く余裕がなく正式な契約書も作ってもらえなかった。アメリカ館の元請け企業はイギリス資本の会社で、日本の建設業法を理解しているのか大いに疑問だった」

 工事代金未払いが起こっているパビリオンは、工期が短く、開幕が迫る中、追加や変更の工事は契約書なしに口頭の約束で実施されたという特徴がある。2024年1月に能登半島地震が発生し、建設関係の資材、人材が被災地に必要となることから、万博は延期すべきとの世論もあった。しかし、国は予定変更せず、その結果、多くの海外パビリオンが突貫工事で作られ、工事代金未払いにつながった。

 前述の千葉県の会社関係者は「建設業法は著しく短い工期を禁止している。万博パビリオンで問題が起こるのを国交省は想定していなかったのか」と聞いた。

 国交省の説明は「国交省は万博の計画を建設業法上みるところではない」「国交省がすべからく工期を管理するものではない。それぞれのパビリオンの発注者が管理するべき」だった。海外パビリオンであれば、各国に工程の管理責任があるということだ。

「建設業法の安全性などが担保されない中で工事を行った。本来、国交省は開催の延期を提案するべきではなかったのか」

「国交省は外資系企業に日本の建設業法を周知させなくてはいけなかったのでは」

「こんな人権侵害があって、運営側の国が協力してくれないとはどういうことか」

 さまざまな質問が出たが、国交省は「我々は建設業法に則った対応しかできない。経済産業省、地方自治体、(建設業許可の)許可行政庁とともに連絡しながらこれまで進めててきた。許可行政庁が関係企業に対して働きかけ、確認を行っている」と答えるに留まった。

「今回の万博の問題は誰が責任者なのか分からない。責任の所在は誰にあるんですか」

 本質的な問い掛けについての回答は「お答えする立場にない」だった。

建設業法の元請け責任とは 

 日本の建設現場の構造は、元請け企業を頂点とし、一次下請け、二次下請けと裾野が広がるピラミッド型をしている。そこで、建設業法は「元請け企業の責任」を規定する。建設業法41条2項と3項は、下請け企業の間で賃金や工事代金の不払いが発生した場合、元請け企業に建設業許可を出している許可行政庁は、必要があると認める時は元請け企業に対し立て替え払いなどを勧告ができるというものだ。

 GLイベンツは元請け企業でありながら金を払わないケースなのでこれには当てはまらないが、アメリカ、アンゴラのパビリオンは、下請け企業が問題を起こしている。アメリカでは、二次下請けが三次下請けに代金を支払わないまま破産開始手続きに入り、アンゴラは三次下請けが工事代金を持ち逃げした。この場合、元請け企業が立て替え払いしてくれれば、被害業者は救われる。

 しかし、国交省によると、実際に元請け企業に「勧告」が出ることはほとんどないという。元請けは一次下請けに支払いをしているので、下請け間のトラブル解決の立て替え払いは二重払いになり負担が大きい。現実には、「払え」「払わん」と下請け同士で反目しているところに元請けを指導的立場で入れ、行政の下、三者で解決の道を探るのが一般的だ。元請け企業が立て替え払いではなく、別の仕事を発注して事を収めるパターンもある。

 万博工事を巡っては、このような解決の道はまだ開けていない。

「石のパーゴラ」の休憩所は元請け責任を問う訴訟に

石のパーゴラで話題になった休憩所コーナー。この場所の建物建設でも工事代金の未払いが起こっている=大阪市此花区、夢洲の大阪・関西万博で、2025年5月3日、筆者撮影

 「建設業法41条が空文化している」と話すのは、山口県内の建設会社B社の社長だ。万博で2カ所の休憩所の建設工事で三次下請けをし、計406万円の工事代金が支払われていないとして、元請け企業(本社・秋田市)と一次下請け企業(本社・大阪市)などを相手取り、代金請求訴訟を今年7月、山口地裁に起こした。

 B社社長によると、昨年7月から建物建設工事に入ったが、基礎コンクリートが水平でない上に表面がデコボコだったり、アンカーの場所や寸法に不備があるなど基礎工事がひどかったという。現場でともに作業していた一次下請けの担当者と相談し、基礎の是正工事を行った。また、元請け企業からは外壁で大幅な仕様変更指示があり、追加工事を余儀なくされた。

 代金の支払いは毎月25日だったところ、一次下請けから二次下請けへの支払いが昨年11月を最後に止まった。連鎖して三次下請けのB社へも支払いがなくなった。B社社長は昨年12月、二次下請けから債権譲渡を受け、元請けと一次下請けに代金を請求。しかし、元請けはB社社長の説明を聞かないばかりか、代金未払いの内容をまとめた報告書を郵送すると受け取りを拒否。一次下請けは「対応は弁護士に任せた」とB社社長の請求に応じず、後日、弁護士2人から支払う必要はない旨を記載した書面が送られてきた。内容に事実と違う点があるため、B社社長は弁護士に電話で問い合わせたが、「電話で話すことはない」と一方的に電話を切られたという。

 「代金を支払わない一次下請けもひどいが、建設業法24条の7における『下請けへの指導』という責務を果たさない元請け企業はもっと悪質だ」とB社社長は憤る。訴訟を起こすに当たって、元請けも被告とし「建設業法41条の立て替え払い」を迫ることとした。また、一次下請けの代理人弁護士2人も「人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」とした弁護士法1条1項などに反しているとして、被告に加えた。

 B社社長は、「この訴訟を提起することによって、万博工事で代金未払いに遭った他の被害業者の救済にも風穴を空けることができれば」と話している。

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