指導死「あの先生に出会っていなければ息子は生きていた」遺族がシンポジウムで改善うったえ
教員による不適切な指導がきっかけで、子どもが自ら命を絶った「指導死」の遺族らによるシンポジウムが5月21日、都内で開かれた。
遺族は「校門の外で起こっていたら犯罪ではないでしょうか。なぜ校門から中に入ると"指導"になるのでしょうか」とうったえた。
シンポジウムは遺族らがつくる「安全な生徒指導を考える会」が主催した。(福原英信)
●中3の息子を指導死で失った遺族が登壇
「あの担任の先生に出会っていなかったら今も息子は生きていた」
2018年に鹿児島市で中学校3年生(当時)の息子を亡くした遺族が、この日のシンポジウム「子どもの自殺と不適切指導を考える会」で振り返った。
息子は夏休み明けの始業式の日、宿題を一部提出しなかったことから集団指導を受けたあと、さらに職員室で個別の指導を受けた。そのまま帰らされ、自宅で自死した。
変わり果てた姿の息子は、発見されたとき、わずかに体温が残り温かったという。
2019年1月、第三者調査委員会が立ち上がり、2021年6月に「担任の個別指導が引き金」と結論づけられた。
その後の調査で、生徒の証言から、担任は日頃から「その調子だったら内申書かないぞ」「高校行けないぞ」などと脅す発言をしていた。
さらにペンを身体に投げつけたり、机を蹴ったり、椅子を振り上げたりするなど、息子が「脅されている」と感じる指導をしていたことが判明した。
遺族は「先生が子どもの心を壊して追い詰めた。校門の外で起こっていたら犯罪ではないでしょうか。なぜ校門から中に入ると"指導"になるのでしょうか」とうったえた。
●不適切指導の懲戒処分基準、定める自治体7割にとどまる
不適切な指導をめぐっては、2022年12月の「生徒指導提要」改訂で、「児童や生徒の言い分を聞かずに事実確認が不十分なまま思い込みで指導する」や「大声で怒鳴る、感情的な言動で指導する」などが、自殺や不登校のきっかけとなる「不適切な指導である」と明記された。
一方で、不適切指導の懲戒処分基準が定められている自治体は、7割に留まっている(2024年10月現在)。
警察庁の自殺統計によると、2024年の児童生徒の自殺者数は529人となり、統計を開始して以降、過去最多となった。3年連続で500人を超えている。
文科省の問題行動調査では、自殺した児童生徒が置かれていた状況として、体罰・不適切な指導があったと認定されたのは、2022年に2件、2023年に1件のみとなっている。
遺族らは「不適切な指導の原因が十分に調べられていない」と考えている。
●精神科医「子どもにとって学校が世界の全て」
シンポジウムには、若者の自殺にくわしい精神科医の松本俊彦さんが登壇。子どもは衝動的に自殺する傾向があると警鐘を鳴らした。
松本さんによると、大人の自殺と異なり、否定的な出来事から自殺まで、数十分から数時間以内に起きる場合もある。一方で、大人と比べて、介入によって救える可能性も高いという。
具体的に自殺につながった事例を分析すると、人前で見せしめのように叱責したことが原因になっていることが多いそうだ。
叱責に対して、他の生徒に賛同を求め、煽りたて生徒を孤立させていたことがあったという。
松本さんは「子どもにとって、学校が世界のすべて。軍隊のような手法を学校に持ち込み、居場所を奪わないでほしい」と話した。
●「スポーツ振興センター災害給付制度」改善の要望も
シンポジウムでは、学校の管理下での児童や生徒らの災害に給付する「スポーツ振興センター災害共済給付制度」の改善を求めて、子ども家庭庁への要望書を提出した。
安全な生徒指導を考える会は、(1)学校が不適切指導を認めず虚偽の内容を申請されることがある(2)制度が遺族や保護者に伝えられず知らないうちに申請期限が切れていることがある(3)調査の⽅法や内容に不服でも再調査ができない──などの課題を指摘し、運用の改善を要望した。
指導死で弟を亡くしたはるかさん
●不適切指導で不登校になった児童がメッセージ
不適切な指導により、学校に行けなくなった児童によるメッセージも紹介された。
<私は、小学四年生の女子です。今日は、大人のみなさんに、私のお願いを伝えたくて、メッセージを書いています。
どうかお願いです。先生の不適切指導を撲滅してください。私のように苦しむ子どもがいなくなるように、助けてください。
私は、学校は楽しいところだと思って、小学校に入りました。将来は科学者か研究者になりたくて、勉強も頑張りたかったし、お友達ともたくさん遊びたいと思って、わくわくして一年生になりました。
でも、担任の先生が私に酷いことをしたのをきっかけに、 私は、病院に行くようになって、学校には行けなくなりました。
酷いことというのは、思い出したくもない、怖い出来事でした。後になって、テレビを見ている時に、先生が私にしたことは、虐待というのだと知りました。
家で勉強をするのも、嫌な出来事を思い出すので、すごく疲れます。仲良しだったお友達とも遊べなくなりました。
毎日、お薬を飲んでいます。困りごとも増えました。私はちゃんと大人になれるのかな、と悩んでいます。
でも、そんな私のことはなかったかのように、今も先生は元気に学校に行っています。私がいるはずだった私の学校は、先生に奪われたのに。なんて酷いのだろうと思います。
日本には、私のほかにも、先生から酷いことをされて苦しんでいる子どもがたくさんいると思います。
大人のみなさん、どうか助けてください。今日は勇気を出して、私の心からのお願いを伝えました。
どうか、私のような子どもがいなくなりますように。助けてください>
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