朝ドラで「拳銃自殺未遂」とは 『ばけばけ』4話の苦労人すぎるトキとヘブン、モデルのセツ、八雲には何があったのか

朝ドラ『ばけばけ』第1週では、主人公のトキの身にさまざまな不幸が降りかかっています。一方、未来の夫、レフカダ・ヘブンに関しても衝撃シーンが描かれました。

『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)

 1890年に来日し、『怪談』『知られぬ日本の面影』『骨董』などの名作文学を残した小泉八雲さん(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、「怪談」を愛し彼を支えた妻の小泉セツさんの生涯をモデルにしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第1週では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」が幼かった頃(演:福地美晴)の、苦労話が描かれています。

 没落士族の松野家は、父「司之介(演:岡部たかし)」が舶来のウサギを売る商売を始めるも、相場がはじけて大失敗し、一生かかっても返しきれないという借金を背負ってしまいました。そして、トキは学校に通えず、働くことになります。

 また、4話の終盤ではトキの未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストゥ)」が、同じ頃にどのような状況だったのかも描かれました。何もかもを失って絶望したという彼は拳銃自殺を図りますが、弾を買うお金すらなかったようで未遂に終わっています。朝ドラとしては、かなり衝撃的な場面が話題になりました。いったい、ヘブンに何があったのでしょうか。

※この記事では、『ばけばけ』の今後の展開のネタバレになる情報に触れています。

 4話の最後には、トキとヘブンが出会うまで残り「5612日」という具体的な数字が出ていました。ドラマで何話分になるのかは分かりませんが、1年365日で割ると15年と137日もの時間があります。

 諸説ありますが、モデルの小泉セツさんとラフカディオ・ハーンさん(1896年に小泉八雲に改名)が初めて出会ったのは、1891年の2月頃だそうです。当時23歳のセツさん(1868年2月生まれ)は松江の尋常中学校の英語教師をしていたハーンさん(1850年6月生まれ、当時40歳)の家で、女中として住み込みで働き始めました。

『ばけばけ』4話は1891年2月から15年と4か月ほどさかのぼった、1875年の秋頃の話だと思われます。トキはまだ7歳、ヘブンは25歳です。

 生家の小泉家から生後7日で親戚の稲垣家に養子に出されたトキさんは、養父の稲垣金十郎さんが商売に失敗して進学できなくなり、1879年に11歳で小学校下等教科を修了した後、実父の小泉湊さんの機織りの会社で働き始めました。『ばけばけ』ではモデルよりも早く、トキが学校をやめて働きに出るようです。

 一方、ギリシャのレフカダ島出身のハーンさんは、1869年に19歳で渡米し、1874年にオハイオ州のシンシナティ・インクワイアラー社の新聞記者になりました。そして同年、マティ・フォリーさんという白人の農園主と黒人奴隷の間に生まれた、混血の女性と結婚します。彼女も幽霊話が得意な人物だったそうです。

 4歳で母が家を去ってから大叔母のもとで育てられ、16歳で事故によって左目を失明するなど苦労人のハーンさんは、ようやく幸せをつかめましたが、そこから悲劇が待っていました。

 当時のオハイオ州は白人と有色人種の婚姻を禁止しており、ハーンさんは周りの反対を押し切ってマティさんと彼女の連れ子とともに、黒人の牧師のもとで結婚式をあげます。しかし、この結婚が問題視され、ライバル紙に批判記事まで書かれたというハーンさんは、1875年にシンシナティ・インクワイアラー社を解雇されました。その後、別の新聞社に再就職できたものの、マティさんとの結婚生活も3年ほどで破綻してしまったそうです。

 ハーンさんが当時自殺を考えたのかは分かりませんが、彼の身に起きた出来事を考えるとそういったことがあっても不思議ではありません。どれだけ絶望的で「うらめしい」状態だったかを示すために、ドラマでは自殺未遂のシーンを入れたのでしょう。

 メインふたりのモデルが壮絶な人生を送っているだけに、『ばけばけ』では今後も朝ドラで描くには重いシーンが続きそうです。

※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」

参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(著:長谷川洋二/潮出版社)、『セツと八雲』(著:小泉凡/朝日新聞出版)、『父 小泉八雲』(著:小泉一雄/小山書店)

(マグミクス編集部)

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