クルーズ船がホテル代わり-APEC開催の韓国、慶州で宿泊施設が不足

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が今月、韓国の慶州で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にあわせて会談する予定だ。

  ソウルから約370キロメートル離れた慶州に世界の注目が集まるが、一部の代表団が慶州への移動手段や宿泊先の確保に奔走する姿も見られる。

  韓国は本来APEC関連会合を通じて、外交力や効率性を示すはずだったが、そうした目的で設計されていない都市で大規模な国際イベントを開く負の側面が浮き彫りになっている。

  韓国南部の慶州はユネスコ世界遺産に登録された王陵や古寺、塔で知られる。開催地に選ばれたのは尹錫悦前政権時代で、韓国の長い歴史と文化遺産をアピールする狙いがあった。

   尹氏は昨年12月に非常戒厳を宣布したがわずか数時間で解除。国会が尹氏に対する弾劾訴追案を可決し、数カ月にわたる政治空白が生まれた

  李在明氏が今年6月に大統領に就任した時には、首脳会議の準備はすでに相当進んでおり、開催地を他に移すことは不可能だった。

  APEC関連の会合は28日から11月1日まで開催される。世界のビジネスリーダー約700人の参加も見込まれている。

  エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)やシティグループのジェーン・フレーザーCEO、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のマット・ガーマンCEO、中国JDドットコムの許冉CEOらが名を連ね、来訪者は全体で約2万人に達する見通しだ。

  だが慶州の宿泊施設は限られており、国際的なホテルはわずか数軒しかなく、最近の改装を受けても「プレジデンシャルスイート」は35室しかない。

「ラグジュアリー体験」

  会場から10キロメートル圏内にあるホテルの客室は約1万2800室で、ほとんどがすでに予約で埋まっている。10月は観光の最盛期で、慶州の紅葉を目当てに観光客が集まる時期だ。そこにAPEC関係者の来訪が重なり宿泊料金は急上昇している。

  韓国政府は価格つり上げを抑えるため、ホテルの予約を一元管理する措置を講じた。

  選択肢が他にほとんどない中で、主催者はクルーズ船の活用に踏み切った。こうした対応が取られたのは、2018年にパプアニューギニアのポートモレスビーで開催されたAPEC首脳会議以来となる。

  ポートモレスビーはアジア太平洋地域で最も貧しく犯罪率が高い都市の一つ。世界有数の先進経済国である韓国が同じ手法を採用するとは、ほとんど予想されていなかった。 

パプアニューギニアのポートモレスビーで開催されたAPEC首脳会議(2018年)

  慶州に近い浦項の港には現在、客室850室に加え、カラオケバーやジム、ジョギングトラック、プールを備えた7万トン級のクルーズ船「ピアノ・ランド」が停泊している。客室270室の「イースタン・ビーナス」も洋上ホテルとして使用される予定だ。 

  毎朝、数百人の企業幹部が船を降り、会場までほぼ1時間移動することになる。こうした状況を歓迎する人はほとんどいないだろう。

  釜山や大邱といった近隣都市に宿泊するのも大差はない。ある業界幹部は匿名を条件に、当初は釜山に宿泊する計画だったが空室が見つからず、代わりにクルーズ船を選んだと明かした。

  主催者側はこの状況を前向きに捉え、クルーズ船での宿泊を「ユニークなラグジュアリー体験」だと売り込んでいる。

  韓国のホン・ジンウク駐シンガポール大使は、仁川や済州も候補地として検討されたが、深い文化的ルーツを理由に慶州が最終的に選ばれたと説明。「重要なイベントを全て運営する上で、重大なロジスティクス上の問題はないと100%確信している」と述べた。

  準備委員会はブルームバーグ・ニュースのコメント要請にすぐに応じなかった。

原題:Cruise Ships Show South Korea’s Struggle to Host Global Leaders (抜粋)

— 取材協力 Josh Xiao and Isabella Steger

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