日の丸守るのは軍国主義か 国旗損壊罪への筋違いの反対論 一筆多論 論説副委員長・坂井広志
国会議員には鬼木誠氏が2人いる。一人は自民党衆院議員で、もう一人は立憲民主党参院議員である。いずれも福岡県出身だ。自民の鬼木氏の趣味はラグビー、立民の鬼木氏はラグビー観戦という。
これだけ似ていれば混同する人がいても不思議ではない。本稿で取り上げるのは、立民の鬼木氏である。
日本の国旗を傷つける行為に刑罰を科す「日本国旗損壊罪法」が成立した。「人に著しく不快または嫌悪の情を催させる方法」で「公然と損壊、除去、汚損」した場合、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科すという内容だ。
自治労書記長も務めた鬼木氏は内閣委員会で「けが人に緊急で手当てをする」との想定でこう質問した。
「国旗を切り裂いて包帯の代わりにして止血をした。その状況を見た人は不快感は持たないと思うが、切り裂く場面だけを見た人には不快に思う人もいるだろう。見る場面によって感情のわき立ち方が違う」
SNS上で「よくこんな設定を考えついたものだ」などの冷ややかな書き込みが相次いだのは、うなずける。鬼木氏は、処罰対象が曖昧だと批判したが、本当に言いたかったことは、むしろこちらではないか。
「『国旗は大切にしなければならない』というのが国民の当たり前の感情だ、という言説が広がるのではないか。いろいろなことに心配をしている国民がたくさんいる」
平成11年の国旗国歌法の審議で当時の小渕恵三首相は「国旗は国家を象徴する標識として、国歌は国家を代表する歌として認識されており、国旗および国歌を通じて国民が自国についての帰属意識、一体感等を抱くことにより国民の気持ちの上での統合の役割を果たしている」と語っている。
国旗を大切にするのは自然なことだ。「当たり前の感情」が広がることに何の問題があるというのか。
刑法には外国国章損壊罪があり、外国を侮辱する目的で国旗を損壊すれば処罰対象となる。ところが日の丸を守る法律はなかった。
外国国章損壊罪は刑法の「国交に関する罪」の章にあり、野党には日本国旗と外国国旗を同列に論じることを難じる声があった。
外国国旗を保護するのは、その損壊が当該国の威信や尊厳を傷つけ、外交に悪影響を及ぼすからだ。国家の威信や尊厳を守るため法的に保護されるべきなのは、日の丸も同じである。
反対・慎重論が聞かれたのは国会審議だけではない。日本歴史学協会は「国家権力による『愛国心』の押しつけ」「再び国家主義・軍国主義の只中(ただなか)へと導いていくことになるだろう」などとして同法に反対する声明を出した。国旗を侮辱する行為への処罰が、なぜ軍国主義につながるのか。
衆院本会議の採決を棄権した自民の岩屋毅前外相も「愛国心の押しつけ」と思っているのだろう。『月刊日本』6月号のインタビュー記事で「愛国心は涵養(かんよう)されるべきものであって、強制されるべきものではありません。保守の本質は『寛容』にあります」と語っている。岩屋氏のいう「寛容」とは、国旗への侮辱まで許容することなのか。
日本国旗損壊罪法は、国家の象徴である日の丸を守るための最低限のルールである。軍国主義や「愛国心の押しつけ」に結び付けるのは筋違いだ。(論説副委員長)